東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白とベージュの表紙にパターン模様

書籍名

講談社学術文庫 天皇の歴史 10 天皇と芸能

著者名

渡部 泰明、 阿部 泰郎、鈴木 健一、松澤 克行

判型など

392ページ、A6判

言語

日本語

発行年月日

2018年9月12日

ISBN コード

978-4-06-513024-7

出版社

講談社

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

天皇と芸能

英語版ページ指定

英語ページを見る

本書は『天皇の歴史』シリーズ全10巻のうち、第10巻として刊行された。古代から近世までの天皇が、芸能とどう関わったかを主題とした巻である。なお本書は、2011年に刊行されたのち、2018年に講談社学術文庫の一冊として、若干の修正を施して再版されている。全体は、「第一部 天皇と和歌――勅撰和歌集の時代 渡部泰明」「第二部 芸能王の系譜 阿部泰郎」「第三部 近世の天皇と和歌 鈴木健一」「第四部 近世の天皇と芸能 松澤克行」の4部から構成されており、4人の執筆者による分担執筆である。天皇とことに関係の深い和歌については、第一部と第三部の都合2部が当てられている。私渡部が担当したのは、このうちの第一部なので、この部分について紹介したい。
 
第一部は、平安時代から室町時代までの天皇と和歌の関わりを、『古今和歌集』から『新続古今和歌集』までの勅撰和歌集――天皇の命令で編纂されたアンソロジーである――を主とし、時代を追いながら記述している。9世紀から16世紀までの、おおよそ700年ほどの和歌の歴史を、天皇を中心としながら述べていることになる。天皇を中心としながら、という限定が加わっているとはいえ、この時代においては、和歌の歴史自体が天皇中心であるから、和歌史全体を語ることとほぼ等しいことになる。そして和歌は、物語などと違って、和歌作品そのものも、それを集めた歌集も、歌人も膨大に残されており、主要な固有名詞を挙げるだけで、大半の紙幅の大半を費やしてしまう。おまけにそれでは読んでいて、ちっとも面白くないものになる危険性大である。

そこで、記述に当たっては、次のような工夫をした。和歌はなぜ続いたのか、という根本的な問いを設け、それを考える媒介として、「表現」と「儀礼的行為」という二つの視点を設定したのである。とくに後者の視点が斬新であったと自負している。従来のように「表現」のみから記述すると、和歌は様式性が強いだけに、変化に乏しい記述になりがちである。とくに鎌倉時代以降は、様式的な表現を最大限に尊重した二条派が覇権を握ったこともあり、個性的・特徴的な表現に注目して歴史を語ろうとしても困難であるという事情があった。また内容的にも、題を与えられて和歌を詠む題詠が主流であることから、虚構的・観念的であり、文学的な感動を求めたりしても、肩透かしを食らう。表現と「儀礼的行為」、すなわち演技的な行為との両面から、立体的に和歌を捉えることで、それぞれの時代の中で和歌が持った意味を考えつつ、和歌史の記述を試みたのである。
 
和歌における「儀礼的行為」とは、歌会や贈答などでの詠歌のほか、歌集の編纂や書写、歌学の伝受、神仏への法楽など、さまざまな和歌にまつわる様式的な行為を指している。和歌の表現だけ見ているとわからないが、これらの行為の中に、時代的な要請や、作者および作者の所属する集団の意思が濃厚に宿っているのである。それらの行為は神仏などの焦点を必要とするが、その焦点を可視化する役割を負うのが天皇であった、と見通したのであった。

 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 渡部 泰明 / 2019)

本の目次

第一部  天皇と和歌――勅撰和歌集の時代 渡部泰明
第二部  芸能王の系譜 阿部泰郎
第三部  近世の天皇と和歌 鈴木健一
第四部  近世の天皇と芸能 松澤克行
 

このページを読んだ人は、こんなページも見ています