東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

水色から白に変わるグラデーションの表紙の中にグラフィカルなイラスト

書籍名

読解講義 日本文学の表現機構

著者名

安藤 宏、 高田 祐彦、 渡部 泰明

判型など

248ページ、A5判、上製

言語

日本語

発行年月日

2014年3月26日

ISBN コード

978-4-00-025959-0

出版社

岩波書店

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

日本文学の表現機構

英語版ページ指定

英語ページを見る

本書は日本文学の表現自体のおもしろさ、あるいはこれを読み解いていく上でヒントになる視点や発想を、高校生、あるいは大学の前期課程の学生を主な対象に伝えていくことをめざしている。その意味では作品の表現技法を明らかにすると同時に表現を読み解くよろこびをより深く味わうための「技法」でもある。
 
時代を問わず、すぐれた文学テクストは容易に一つの解釈を受け付けない、魅惑的な多義性に満ちている。日本語の表現が時代を超えてつちかってきたこうした表現を言葉の仕組み -- 表現機構 -- という観点から捉え、個々の作品を読み解くための実践的なヒントを提供することがめざされている。
 
本書は三名が数年にわたる討議を行い、綿密な打ち合わせのもとにその執筆がすすめられた。構成は三部からなり、「ふるまい」「ゆらぎ」「よそおい」というユニークな和語の部立てから成っている。文学テクストは日常のコミュニケーションの手立てとしての言説とは異なる独自の多元的な仕組み (ゆらぎ) を持ち、自律的な動態 (ふるまい) となり、あるいはそのようになろうとつとめること (よそおい) によって、既成の世界観にくさびを打ち込んでいく仕掛けでもある。「多義性」「引用」「語りの自在性」「規範」「縁語的思考」「因果の転倒」「人称」「共同性」「小説家」という九つの章題は、いずれもその様相を具体的に明らかにしていくための切り口にほかならない。
 
主に扱われているのは「伊勢物語」「源氏物語」「新古今集」「徒然草」、田山花袋「蒲団」、泉鏡花「高野聖」、志賀直哉「和解」などで、初学者や留学生にも親しみやすいよう、あえてよく知られる著名な対象を選択し、そこから日本語表現の豊かな奥行きを発見していけるよう、編集に工夫が施されている。自国の文学の研究はともすれば細分化しがちであり、特定の時代やジャンルに片寄ることなく、なおかつ啓蒙的な「名作ガイド」とは一線を画す形で表現の魅力が説かれている、という点において、類書はないものと確信している。
 
文学研究の原点は、ある時代の言説の中から特に喚起力の豊かな言葉の仕組みを探り当て、そのゆえんを具体的な解釈を通して解き明かしていくことにあるのだろう。文学テクストはわれわれの先入観や常識を翻していくパラドクシカルな多義性に満ちている。これらを読み解いていくにあたって、本書ではある理論的な枠組みによって対象を裁いていく、という態度をつとめて避けた。求められるべきは、表現のおりなすグラデーションを「あや」として読み取っていく、柔軟でしなやかな「技法」への問いなのである。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 安藤 宏 / 2016)

本の目次

はじめに
I ゆらぎ 高田祐彦
第一章 多義性
第二章 引用
第三章 語りの自在性

II ふるまい 渡部泰明
第四章 規範
第五章 縁語的思考
第六章 因果の転倒
III よそおい 安藤 宏
第七章 人称
第八章 共同性
第九章 小説家
参考文献一覧
あとがき

このページを読んだ人は、こんなページも見ています