東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白い表紙に深緑の帯

書籍名

中公選書 日本近代小説史

著者名

安藤 宏

判型など

232ページ、四六判

言語

日本語

発行年月日

2015年1月10日

ISBN コード

978-4-12-110020-7

出版社

中央公論新社

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日本近代小説史

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本書は日本の近代小説の歴史を、コンパクトにわかりやすく記述した概説書であり、高校生、大学生、一般読者、あるいは留学生が用いるハンドブックとして、活用するのにふさわしい内容になっている。長年にわたり支持されてきた放送大学のテキストから、小説の部分だけを抜粋し、さらに大幅な改稿、書き足しがなされた上で、あらたに単行本化されたものである。
 
扱う範囲は1860年代から1980年代にかけての120年ほど。こうした入門書はともすれば記述が平板に、また作者名、作品名を羅列する形になりがちなので、時代精神やその時期の表現の特色、などを中心に、小説を読み解くポイントや課題が節ごとに明示され、読み物として通読できるように工夫が施されている。また、できる限り実際の作品に触れることができるように、著名な小説の著名な部分を引用し、また、主要な小説には傍注に簡略なあらすじ、内容の紹介が付してあるので、読者はいわゆる「名作ガイド」として活用することもできる。さまざまな図版が載せられていることも、イメージづくりに役立つであろう。
 
日本の近代小説はすでにそれ自体が膨大な分量になっており、これらをコンパクトに、学問上の正確さも考慮しつつ、バランスよくまとめる作業が難しくなってきている。そのためか、近年、こうしたガイドブックが出版される機会がめっきり減ってしまい、かつて出版されたものも、記述が明らかに古くなっていたり、また、カバーする時代が限られていたりもする。その意味では、本書は現時点でもっとも使いやすい文学史の参考書であるといえよう。
 
文学史の参考書としては、これまで出版されたものの多くは、複数の専門家による分担執筆、という形がとられているが、本書は、一人の著者によって執筆されており、正確さを考慮しつつも、著者の一貫した文学史観によって書かれている点に特色がある。今日、大学の授業科目の中から「近代文学史」に関する講座が急速に姿を消し、若い読者が日本の近代の文学の歴史をトータルに理解する機会もまたへってきている。その意味でも、本書は「個人が肉声で語る文学史」として、貴重な役割を果たすものでもある。
 
なお、本書は、同じ著者による『「私」をつくる 近代小説の試み』と合わせ読まれることによって、より理解が進むことになるであろう。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 安藤 宏 / 2017)

本の目次

I    文明開化と「文学」の変容
II   明治中期尾小説文体
III  自然主義文学と漱石・鴎外
IV   大正文壇の成立
V    マルキシズムとモダニズム
VI   第二次世界大戦と文学
VII  戦後文学の展開
VIII 高度経済成長期とポスト・モダン
 

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