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ベージュから白へのグラデーションがある表紙

書籍名

講談社学術文庫 天皇の歴史 1 神話から歴史へ

著者名

大津 透

判型など

392ページ、A6判

言語

日本語

発行年月日

2017年12月13日

ISBN コード

978-4-06-292481-8

出版社

講談社

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天皇の歴史 1 神話から歴史へ

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本書は、私と河内祥輔・藤田覚・藤井譲治によって編集企画した講談社「天皇の歴史」全10巻の1冊である。このシリーズは古代から昭和天皇にいたる通史8巻のほか、テーマ巻「天皇と宗教」「天皇と芸能」の2冊から構成されるが、本書はそのうち卑弥呼から天武朝までの、もっとも古い時代を扱う第一巻にあたる。序章では、シリーズの冒頭であるので、天皇について歴史学の立場からの研究史を振り返り、歴史学のあり方の変化と、儀礼の分析などを通じて中世・近世の天皇のあり方の実証的研究が進んだことなど、こうした企画が可能になった背景を述べた。
 
本書の特色としては、古代天皇制、古代国家の歴史を、東アジア世界の中で考えたことがある。卑弥呼も三角縁神獣鏡も、倭の五王も、すべて中国を中心とする東アジアとの交流の成果である。その中で天皇号が成立したのは、七世紀初頭の推古朝だと考えている。六世紀末に久しぶりに中国を統一した隋に対して、それまでと異なって冊封を受けない立場を求め、遣隋使の交渉の中で独自に考え出された君主号が、天皇号なのだろう。一方で日本という国号は、八世紀初めに派遣された大宝の遣唐使が、唐 (当時は周) の則天武后に対して初めて用いて承認してもらったものである。彼らは倭から日本に国号を変更して、それまでの緊張した戦争関係を清算し、新たな関係を築くという使命を負っていた。七世紀後半には、唐が新羅とともに百済を滅ぼし、ついで高句麗を滅ぼし、倭は百済救援に出兵して白村江で敗れた。唐に滅ぼされるかもしれないという緊張の中で、この時期の遣唐使は政治交渉に当たり、天智・天武朝に古代国家を強化していったのである。
 
天皇あるいは王権の起源については、『古事記』『日本書紀』によらざるをえないので、その成立過程や信憑性について、詳しく述べた、四、五世紀の天皇系譜の復原や信憑性は、戦後の日本古代史の中心的テーマであった。近年は確かなことが言えないとして、古い時代のことを研究する人が少なく、わからないと言って済ませることが多い。戦前の津田左右吉にはじまる戦後の記紀神話や記紀の原史料である帝紀・旧辞の研究などについて、先行研究の回顧であるが詳しく述べている。さらに神話につながるが、天皇の宗教的役割に注目し、神祭りのあり方や、地方豪族の服属について見通しを大胆に述べたことも特色である。天皇制の本質には、アマテラスの子孫としての太陽神信仰がある。奈良時代以降は伊勢神宮祭祀となるが、本来はヤマト盆地の三輪山で祀られたと考えられる。伊勢神宮に鎮座するのが神鏡であるように、鏡が崇拝された。三世紀に魏から卑弥呼が下賜された三角縁神獣鏡を配布することにより、全国に祭祀を広め、宗教的に統一し、地方豪族を服属させていったと考えられる。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 大津 透 / 2018)

本の目次

序章  「天皇の歴史」のために
  1  天皇研究の出発
  2  天皇の役割を考える
  3  天皇と「日本」の成立
第一章  卑弥呼と倭の五王
  1  卑弥呼と邪馬台国
  2  鏡と剣――王権のレガリア
  3  倭の五王と大王
第二章  『日本書紀』『古事記』の伝える天皇
  1  記紀神話の意味と津田史学
  2  「帝紀」「旧辞」から「記紀」へ
  3  ワカタケル大王とウヂの成立
  4  葛城ソツヒコと帰化人の伝承
  5  王権の祭祀
第三章  大和朝廷と天皇号の成立
  1  継体から欽明へ
  2  大和朝廷の形成と国造制
  3  推古天皇
  4  天皇号の成立と遣隋使
第四章  律令国家の形成と天皇制
  1  舒明天皇と唐の成立
  2  大化改新の詔が描き出す国家体制
  3  斉明天皇と白村江の戦い
  4  天智から天武へ
終 章  天皇の役割と「日本」
  1  シラスとマツル――祭祀の構造
  2  マツロフとマツル――服属の構造
  3  日本国号の成立

学術文庫版のあとがき
参考文献
年表
天皇系図
歴代天皇表
索引
 

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