東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

御堂関白記が全面の表紙

書籍名

藤原道長事典 御堂関白記からみる貴族社会

著者名

大津 透、 池田 尚隆 (編)

判型など

462ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2017年9月

ISBN コード

978-4-7842-1873-8

出版社

思文閣出版

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

藤原道長事典 御堂関白記からみる貴族社会

英語版ページ指定

英語ページを見る

本書は、藤原道長が生き見ていた十世紀末から十一世紀初めの貴族社会のあり方を、いくつかのテーマにわけ事典の形をとって具体的に明らかにする試みである。1985年以来、30年近くかけて完成した山中裕編『御堂関白記全註釈』全16冊の成果を継承して、1000項目をめどに『全註釈』の頻度の多い項目を選んで解説した。それを「政務・儀礼」以下「御堂関白記の表現」にいたる11のテーマに項目を分類し、それぞれのテーマの冒頭には摂関期における特色を明らかにする解説をおき、また巻頭に編者の大津透と池田尚隆による歴史・文学の立場から道長の役割や実像に迫る総論「藤原道長のめざしたもの」「文学作品に描かれた道長」を載せた。摂関期に存在した制度や官職であっても、『御堂関白記』には出てこない項目は立っていないので、道長にとって現実に意味があったことを取り上げている。事典というと、公正だが無味乾燥な叙述になりがちだが、道長にとっての意味や人間関係、貴族社会における意味を中心に叙述しており、道長が生き見た世界を描くことをめざしているので、読んでおもしろい事典になっているのが特徴である。
 
この20年ほどで摂関期を中心とする平安時代の研究は制度や儀礼研究を中心におおきく進歩した。本書はそうした最新の研究成果を取り込み、また参考文献に関係する論文をあげているので、とくに「政務・儀礼」「官司・官職」などの項目解説は、辞書的説明だけで分からない具体的な事例も示していて大きな意義があると思う。仏教・神事・学問・芸能などの章でも、道長の文化史上での歴史的貢献や進歩性は特筆すべきものがあり、そうした分野での道長の実像にも迫っている。
 
また実際に平安時代の古記録 (貴族の日記) を読む上で、よくわからないこと、しばしば見えるが辞書には説明がないことはきわめて多い。本事典では、普通の事典には立てられない項目が多く立項されており、これから平安時代の研究に取り組もうとする若い人々のためになるのではないかと考えている。また歴史専門の研究者と文学専門の研究者が共同して執筆を行っているが、これは学界では希少な事例といえ、本事典の特色であるが、道長の多面性を見せることにもなっている。この事典を読むことによって、道長の全体像が浮き上がってくるといえるだろう。

 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 大津 透 / 2018)

本の目次

序文 (大津 透)

【道長の世界をさぐる】
藤原道長のめざしたもの (大津 透)
文学作品に描かれた道長 (池田尚隆)

【政務・儀礼】 [磐下 徹・大隅清陽・大津 透・黒須友里江]
藤原道長と政務・儀礼 (解説: 磐下 徹)

【官司・官職】 [大津透・武井紀子]
摂関期の官職構造 (解説: 大津 透)

【道長をめぐる人びと】 [植村眞知子・木村由美子・倉本一宏・黒須友里江・中村康夫・福長 進・吉田小百合]
藤原道長の人間関係 (解説: 黒須 (林) 友里江)

【邸宅・地名】[松野彩・吉田幹生]
平安京と邸宅 (解説: 松野 彩)

【神事・神社】 [武井紀子・丸山裕美子]
平安時代の神祇祭祀 (解説: 武井紀子)

【仏事・寺院】 [磐下 徹・藤本勝義・松岡智之・松野 彩・吉田幹生]
藤原道長と仏事・寺院 (解説: 池田尚隆)

【風俗・信仰】 [中島和歌子]
貴族の風俗と信仰 (解説: 中島和歌子)

【学問・芸能】 [佐藤信一・妹尾好信・塚原明弘・吉田幹生]
藤原道長と学問・芸能 (解説: 吉田幹生)

【衣食住】 [近藤好和・松野 彩]
貴族の衣食住 (解説: 近藤好和)

【病と医療】 [丸山裕美子]
藤原道長の病と医療 (解説:丸山裕美子)

【御堂関白記の表現】 [池田尚隆]
『御堂関白記』の伝来 (解説: 倉本一宏)

藤原道長年表 (木村由美子)

参考付図 ([1] 平安宮内裏図 / [2] 平安宮清涼殿図 / [3] 東三条殿復原図 / [4] 土御門第想定図)
藤原道長略系図
項目索引
 

関連情報

書籍紹介:
「京都新聞」(2017年9月22日)
「夕刊 読売新聞」(2017年10月19日)
「中外日報」(2017年10月20日)
「古代文化」第69巻第4号 (2018年3月30日)
「ヒストリア」第267号 (2018年4月20日)
 

このページを読んだ人は、こんなページも見ています