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白と赤の表紙

書籍名

岩波新書 律令国家と隋唐文明

著者名

大津 透

判型など

230ページ、新書

言語

日本語

発行年月日

2020年2月20日

ISBN コード

9784004318279

出版社

岩波書店

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律令国家と隋唐文明

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隋唐帝国の成立と圧力のなかで、倭国は7世紀に中央集権国家の建設をめざした。その方法が中国の律令制の導入であったので律令国家という。8世紀初頭に編纂された大宝律令、さらに養老律令によって作られた律令国家は、隋唐の律令法を模倣したが、実態は必ずしも中国と同じではない。本書の特色は、律令国家の形成が厳しい東アジア情勢のなかで行われたこと、律令制が唐のそれをふまえながらも大和朝廷の固有のあり方を継承している部分が大きいことを、日唐律令比較研究の成果をふまえて論じたところにある。
 
7世紀初めの推古朝に、隋との対外交渉の中で、冠位十二階などの国制整備が進められ、天皇号が成立する。さらに唐は高句麗征討をめざし、東アジアに緊張が広がる。倭国も権力集中をめざし、帰国した留学生などを登用して親唐・新羅路線の大化改新とよばれる改革を進めた。しかし斉明天皇と中大兄皇子は親百済路線へ転換し、滅亡した百済の救援軍を派遣し、唐・新羅連合軍に大敗する。唐とのかつてない緊張の中で、天智天皇は唐にも使者を派遣し、国土防衛に力を注いだ。さらに天武天皇は律令の編纂をめざし、浄御原令を編纂する。8世紀初頭、大宝律令の完成とほぼ同時に、30年ぶりに遣唐使を唐に派遣し、新国号「日本」を承認してもらい、新たな唐との関係を築いたのである。
 
こうして作られた律令法は、唐の進んだ文明をとりいれ古代国家の枠組みを作ったという意義があり、実現しない部分もあるが理想としての意味があった。一方で急速に強力な国家をつくる必要から、最初から機能することを前提にする部分がある。民衆支配や租税徴収などでは、戸籍計帳などの制度を導入しながら、実際にはそれ以前の国造制下のミツキの貢上などを継承していた。官僚制においても。官と位の関係、太政官制、四等官制など唐と異なる日本独自のあり方がみられ、文書行政を導入しながらも口頭伝達が重要な意味をもっていた。また天皇は宗教的・神話的存在であり、固有な習俗が残っていたので、大宝・養老律令は天皇制自体についてほとんど規定していないことも指摘した。
 
律令は養老律令を最後に編纂されないが、奈良時代を通じて遣唐使を通じて唐の文化が輸入されていく。本書では、吉備真備が多くの儒教典籍、とくに唐礼と歴史書 (三史) を伝え、律令制に礼がとりいれられる意義を評価し、鑑真による戒律伝来や聖武天皇の受戒、藤原仲麻呂政権による唐風化の進展と律令の浸透にふれて、8世紀中葉に広い意味の律令制が発展したと論じたのが特色である。さらに桓武天皇は新王朝樹立の意識から天帝をまつる祭祀の実施など中国化を進め、9世紀の弘仁から貞観年間へ、中国的な礼をとりいれて儀礼が整備され、天皇制が制度化されたと指摘した。全体として「日本」成立の過程と意味を論じ、唐の文化が日本の歴史に与えた影響の大きさを明らかにしたものと言える。

 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 大津 透 / 2020)

本の目次

はじめに――鬼ノ城にて

第一章 遣隋使と天皇号
中国統一と朝鮮、倭/「未開」の使者/冠位十二階と憲法十七条/『日本書紀』にのらなかった「日出づる処の天子」/対等外交の断念/天皇号の成立/「スメラミコト」と「天皇」

第二章 東アジアの緊張のなかでの権力集中
律令国家建設の出発点/太宗と倭国――唐の朝命を拒む/権力の集中へ/大化の改新/外交方針の模索/百済の滅亡/白村江での敗戦と国土防衛/高まる緊張――遣唐使の中断/近江令とは?

第三章 律令制の形成と「日本」
羅唐戦争――対立の一〇年/対立の影響/律令の編纂/浄御原令の意義/「日本」のはじまり/大宝の遣唐使――国際的緊張の清算をめざして/祢軍墓誌のなかの「日本」

第四章 固有法としての律令法
大宝律令と養老律令――八世紀の国制をさぐる/唐の律令、日本の律令――差異と共通点/接ぎ木された「文明」――古代日本の国家構造/戸籍と班田制/調庸制――その歴史的背景/税の宗教的な意味/律令国家のフィクション

第五章 官僚制と天皇
位階――貴族制的秩序/二官八省制――太政官の強い権限/四等官制――マヘツキミの職掌分担/「宣」の世界――音声の呪術的機能/天皇の服――なぜ規定されないのか/神話と儀礼――天皇統治の正統性

第六章 帰化人と知識・技術
律令国家のなかの帰化人/古代日本の帝国構造と技術/文化的背景――民族の移動と融合/南朝系の知識と情報/文書行政と史部

第七章 吉備真備と「礼」
真備町の風景/典籍の将来――養老の遣唐使/体系的な収集と修学――「礼」と「歴史」/「礼」による文明化/天皇の衣服にみる「礼」受容/玄昉の仏典将来/ふたたび入唐

第八章 鑑真来日と唐風化の時代
唐招提寺の木彫像から/来日の実現まで/唐風化としての天皇受戒/具足戒を授ける/経典、戒律の将来/仲麻呂政権の評価/新しい学制/尊号から漢風諡号へ/年中行事のはじまり――親蚕・籍田と卯杖儀礼

おわりに
桓武天皇の郊祀/桓武の中国化と春秋学/弘仁年間の儀式整備/天皇制の唐風化と『貞観格』/律令制の展開と「古典的国制」/唐文化の意義

 

関連情報

書評:
出口治明 評「律令国家と隋唐文明」書評 中央集権、誕生のプロセス描く (『朝日新聞』 2020年3月21日)
https://book.asahi.com/article/13231417
 
激動の国際情勢と古代日本 (『日本経済新聞』 2020年3月21日)
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO57001790Z10C20A3MY6000/

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