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書籍名

史学会シンポジウム叢書 日本古代律令制と中国文明

著者名

大津 透 (編)

判型など

320ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2020年11月

ISBN コード

978-4-634-52368-5

出版社

山川出版社

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日本古代律令制と中国文明

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律令制研究は、日本古代の国家のあり方を考えるうえで根本となる研究である。史学会では、1991年以来、過去に律令制をめぐって三回の企画をたててきたが、この間、寧波天一閣で北宋天聖令が発見されたこともあり、日唐律令制の比較研究は新段階を迎えることになった。2019年11月、第117回史学会大会古代史部会で12年ぶりのシンポジウム「日本律令制と中国文明」を企画したが、北宋天聖令を用いての律令比較研究に限定せず、中国あるいは隋唐文明の影響、文物の輸入までふくめ、異なる学統の研究者にも参加を求め、広い視野で日本律令制の意義を考えることをめざした。市大樹・古田一史・山下洋平・榎本淳一の四名が報告し、坂上康俊がコメントを、武井紀子が司会を担当した。本書は、そのシンポジウムの報告を中心に、さらに会場でシンポに参加した科研費研究会のメンバーに寄稿を求めて編んだもので、律令制研究の最新の成果といえる。
 
第1部「古代律令制の探究」は、日唐の律令条文の比較を通じて、律令制の特徴を論じた論考をおさめる。古代宮都の門での人・物の通行規制制度である門籍制・門牓制の比較検討を通じて、日本の王宮が天皇の私的空間であることを明らかにしたほか、国家による造営を規定する営繕令、動物の管理を規定する厩牧令から日唐の違いを明らかにしている。また賦役令の規定をもとに、税目と税額を周知させる「牓示」について、唐宋と古代日本での機能の違いを論じている。
 
第2部「中国礼法と日本律令制」は、唐の諸制度や史料を分析し、日本の特色を考察する論考をおさめる。北朝から唐への皇帝への服喪のあり方と日本での天皇への葬礼の違いから官僚制のあり方を論じ、また唐宋間の道僧籍編造の制度の変遷をおって、天聖令にもとづく唐令復原の問題点を指摘している。さらに敦煌トルファンで発見された法典残巻の分析に基づき、唐と日本における格法典の特徴と相違を明らかにし、また日唐における文書処理を考え、延暦寺所蔵の最澄が交付された明州牒と台州公験の分析から、唐において文書が複合的な機能を持っていたことを論ずるなど、日本史・中国史の学問の枠組みを超え、大きな成果をあげている。
 
第3部「律令制の諸段階と東アジア文明の受容」では、正倉院文書から百済や高句麗からの移民が奈良時代の写経所で多くの比率をしめていると指摘し、彼らの受け入れの具体像を解明し、わずかに逸文が残る『唐令私記』が大和長岡が唐に渡って永徽令に関する疑問を質した成果ではないかと推測するなど、東アジア文明の受容を考察する。また中国の学術の受容と法整備の関係から、浄御原律令・大宝律令・養老律令の諸段階を位置づけ、さらに浄御原令の機能や体系性について基礎的な研究を行ってその先進性を指摘するなど、古代律令制の形成過程の理解について大きな貢献を示している。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 大津 透 / 2021)

本の目次

 先学を思う――序に代えて ……大津 透
 
I部 古代律令制の探究
 1章 門籍制と門牓制をめぐる日唐比較試論……市 大樹
 2章 日本営繕令と律令軍制……古田一史
 3章 日唐厩牧令の動物管理条文からみた地方行政……西本哲也
 4章 唐日律令財政における牓示について――賦役令の税額周知規定を中心に……武井紀子
 
II部 中国礼法と日本律令制
 5章 日中の臣下服喪・挙哀儀からみた律令官僚機構の一側面……山下洋平
 6章 唐令の復原と典拠史料――天聖雑令「造道士女冠僧尼籍」条を事例として……辻 正博
 7章 日唐の格法典の編纂と体裁の特徴……坂上康俊
 8章 日唐古文書学比較研究の一視点――文書処理を中心に……大津 透
 
III部 律令制の諸段階と東アジア文明の受容
 9章 古代の移民と奈良時代の文化――東大寺写経所の百済・高句麗移民……丸山裕美子
 10章 『唐令私記』にみる唐文化受容の一様相……吉永匡史
 11章 律令制における法と学術……榎本淳一
 12章 飛鳥浄御原令の法的性格……三谷芳幸
 付章 〔雑記〕町代制と条里制……吉田 孝

関連情報

書籍紹介:
十川陽一 (『史学雑誌』130編第7号 2021年)
http://www.shigakukai.or.jp/journal/index/vol130-2021/
 
書評:
手嶋大侑 評 (『日本歴史』2022年4月号通巻887号 2022年4月1日)
http://www.yoshikawa-k.co.jp/news/n3306.html
 
兼田信一郎 評 (『唐代史研究』第24号 2021年8月)
https://www.toho-shoten.co.jp/toho-web/search/detail?id=9900011048&bookType=jp

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