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白い表紙に青のボーダー

書籍名

教育政治学を拓く 18歳選挙権の時代を見すえて

著者名

小玉 重夫

判型など

240ページ、四六判

言語

日本語

発行年月日

2016年8月

ISBN コード

978-4-326-29911-9

出版社

勁草書房

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教育政治学を拓く

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選挙権年齢を「18歳以上」に引き下げる改正公職選挙法が、2015年6月に成立し、2016年夏の選挙から18歳以上による投票が実現しました。18歳選挙権の実現は戦後史におけるきわめて大きな転換であり、戦後の教育においてタブー視されてきた政治と教育の関係を問い直す大きな契機となる可能性があります。本書では、以上のような今日的局面を、教育の再政治化という歴史的な文脈のなかでとらえ、そのことの思想的意味を深く探究することを目的として書かれました。
 
本書は全体をIII部構成としています。第I部では、教育の世界で政治がタブー視されてきた教育の脱政治化の過程を戦後史の文脈の中でふり返り、それが今日再政治化しつつあることを明らかにしています。第II部では教育の再政治化を向き合うための理論枠組みを、教育政治学の創成という観点から掘り下げます。第III部では、以上の歴史的、理論的な検討をふまえつつ、学校教育が政治を扱うことの可能性と条件を明らかにしています。
 
これまでともすれば、学校は社会や政治から独立した中立的な聖域としてみなされる傾向がありました。従来の教育学もそのようなとらえ方を支えてきた傾向が多分にありました。しかし現在、そのようなとらえ方は有効性を失いつつあり、教育や学校を政治と不可分なものとしてとらえることが、理論的にも実践的にも求められています。そしてそのことは、「教育政治学」という新しい分野の開拓を要請しています。本書はこの課題に正面から取り組もうとするものです。
 
タブー視されてきた教育と政治の関係を再考し、教育学の理論枠組みを刷新すること、そしてそのために教育学と政治学を架橋する教育政治学を構想することは、特に、資本主義と社会主義のイデオロギー対立を軸とした東西の冷戦が終結した1990年代以降の理論的な課題であり続けてきました。18歳選挙権の成立をうけて、いよいよその機が熟しつつあるのではないかとの認識が、本書を執筆した問題意識の背景にあります。本書によって、教育と政治の関係を正面から問い直す教育政治学の創成が進んでいくことを期しています。
 
日本ではいま、18歳選挙権の成立によって政治の担い手である市民を育てる主権者教育、シティズンシップ教育の実践が大きく進みつつあります。2022年度からは、成年年齢も18歳に引き下げられます。18歳が自立した市民として活躍できる社会の到来を迎え、高校生が社会や政治に参加する実戦も進んでいます。そうした実践に取り組んでいる教師や市民、研究者の人々にも、本署が広く読まれることを願っています。

 

(紹介文執筆者: 教育学研究科・教育学部 教授 小玉 重夫 / 2021)

本の目次

はじめに──一八歳選挙権の成立をうけて
 
I 歴史:教育の再政治化
 
第一章 戦後教育の脱政治化
 1 子ども・青年を理解する方法の問い直し
 2 政治的子ども・青年把握から教育学的子ども・青年把握へ
 3 教育学的子ども・青年把握の変容
 4 子ども・青年を他者としてとらえる──共同性から公共性へ
 
第二章 教育実践史における再政治化の系譜
 1 脱政治化に抗して──教師の権力性批判の系譜
 2 社会的なるものの勃興と教育の脱政治化
 3 埼玉教育塾における教師の権力性批判
 4 政治的コーディネーターとしての教師
 
第三章 自由化のパラドクスと「政治」の復権
 1 「短い二〇世紀」──転換期としての一九九〇年代
 2 英米における福祉国家の再編と「第三の道」
 3 日本における福祉国家の脆弱性と「政治的意味空間」の未形成
 4 自由化のパラドクス
 5 教育の再政治化と一八歳選挙権の成立
 
II 理論:教育政治学の条件
 
第四章 シティズンシップのアポリアとしての包摂と排除
 1 グローバリゼーションと包摂型社会
 2 包摂のシナリオとそのアポリア
 3 包摂と排除の境界線、その関係
 4 ハート=ネグリとアガンベンの対立の意味するもの──境界線の反転か、無化か
 5 マルチチュードとホモ・サケルの間──政治的なるものの固有性
 
第五章 教育政治学の可能性
 1 教育の再政治化をとらえる枠組みの胎動
 2 アルチュセール・インパクトの意味
 3 アルチュセールのイデオロギー論再読
 4 教育政治学の課題へ向けて
 
第六章 教育における遂行中断性
 1 新自由主義とどう向き合うか
 2 教育改革における遂行性 (performativity) の浮上
 3 遂行性の転用可能性と、その限界
 4 遂行性から遂行中断性へ
 5 新しい教育政治学のために
 
III 実践:政治的シティズンシップの方へ
 
第七章 ボランティアから政治的シティズンシップへ
 1 シティズンシップへの関心
 2 ボランティア的シティズンシップの台頭とその背景
 3 ボランティア的シティズンシップへの批判
 4 対立図式を超えて──もう一つのシティズンシップ
 5 ボランティアとシティズンシップの新たな関係に向けて
 
第八章 政治的シティズンシップの諸相──クリック・レポートの思想的背景
 1 課題としての政治教育
 2 「クリック・レポート」とイギリスのシティズンシップ教育
 3 なぜ政治的リテラシーなのか
 4 熟議と闘技の間で
 5 クリックからアレントへ
 
第九章 論争的問題と政治的リテラシー
 1 政治的リテラシーとシティズンシップ教育
 2 政治的リテラシーと論争的問題の教育
 3 論争的問題の教育の実践例
 4 考える市民を育てる
 5 無知な市民の可能性
 
終章 一八歳選挙権の時代に教育の再政治化と向き合うために
 1 教育基本法第一四条
 2 国民投票法との関係
 3 立憲主義=権力の制限と、憲法制定権力=権力の樹立
 4 政治的リテラシーと論争的な問題
 5 高校生の政治参加──新旧の通知をめぐって
 6 おわりに──遂行中断性から中断のペダゴジーの方へ
 

関連情報

著者コラム:
「高校生向け副教材『私たちが拓く日本の未来』を読む」 小玉重夫・東京大学教授 (『Voters29号』 2015年12月)
http://www.akaruisenkyo.or.jp/wp/wp-content/uploads/2016/02/29%E5%8F%B7%E5%85%A8PDF%EF%BD%A5B%E7%89%881.pdf
 
書籍紹介:
けいそうビブリオフィル: あとがきたちよみ『教育政治学を拓く』はじめに (勁草書房編集部ウェブサイト 2016年9月21日)
https://keisobiblio.com/2016/09/21/atogakitachiyomi_kyoikuseijigakuwohiraku/
 
書評:
渡邊真之、松井健人 評 (東京大学大学院教育学研究科基礎教育学研究室『研究室紀要』巻43号p229-232 2018年2月26日)
https://repository.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/records/49070#.YdBgCmDP02w
 
榎景子 評 (『研究論叢』23号p59-62 2017年6月30日)
http://www.lib.kobe-u.ac.jp/infolib/meta_pub/G0000003kernel_E0041186
 
荒井文昭 (首都大学東京) 評 (『教育学研究』2017年 84 巻 2 号 240-241 2017年6月30日)
https://doi.org/10.11555/kyoiku.84.2_240
 
生澤繁樹 (名古屋大学) 評 (『近代教育フォーラム』2017年 26 巻 141- 2017年)
https://doi.org/10.20552/hets.26.0_141
 
書評 (日本教育新聞NIKKYO WEB 2017年3月27日)
https://www.kyoiku-press.com/post-188358/
 

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