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カラフルな四角の模様

書籍名

カリキュラム・イノベーション 新しい学びの創造へ向けて

著者名

東京大学教育学部カリキュラム・イノベーション研究会

判型など

304ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2015年10月30日

ISBN コード

978-4-13-051331-9

出版社

東京大学出版会

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カリキュラム・イノベーション

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本書は、戦後型社会の構造転換をふまえた、21世紀の公教育の新しい方向性を探り、理論面と実践面から検討を加え、カリキュラム・イノベーション (革新) の可能性と条件を探ることを目的として編まれました。その際特に、教科学習に閉じることなく、社会生活を視野に入れた、社会的レリバンス (意義) を有する学力の形成を重視しています。
 
1990年代の「ゆとり教育」、2000年前後の学力低下論争、2004年のPISAショックを経て、中央教育審議会は2005年に答申「義務教育の構造改革」を公表し、学校教育は新しい局面を迎えることとなりました。この動きは、2008年の学習指導要領改訂へとつながっています。そこでは、「ゆとりか詰め込みか」といった二者択一的な指導観から脱却し、基礎基本の習得から活用・探究までを視野に入れた学習をめざそうとした点、抽象的な感のあった「生きる力」の理念にリテラシーの発想を注入することによって知性、身体性、共同性の調和を図ろうとした点など、それなりに全体的なバランスに配慮したものであるとはいえます。また、内容面での充実をはかるために、教科時数の増加、教科内容の増加を打ち出し、結果的に教科書のページ数も増加するなど、「脱ゆとり」を印象づけるものとなり、一つの歴史的な画期をなしました。
 
しかしながら、この2008年の学習指導要領で具体的に新しい指導方針として結実したのは、「教科横断的な言語力の育成」と「小学校高学年の英語活動の導入」くらいであり、あとは、かつての教科内容の「復活」と言えなくもないものでした。新教科が設けられたわけではなく、教科の内容が刷新されたというわけでもなかったからです。その意味で、「ゆとりか詰め込みか」といった二者択一的な指導観からの脱却は必ずしも十分果たされたとはいえませんでした。
 
そこで本書では、東京大学大学院教育学研究科の教員が総力を結集して、二者択一的な指導観からの本格的な脱却を志向したカリキュラムの革新 (イノベーション) の条件を探ることを研究課題として設定しました。ここでいうカリキュラム・イノベーションとは、知識の変容と学びの様式の転換 (本書第1章)、学校と社会とのつながり (社会的レリバンス) の構築 (本書第2章)、従来の教科の枠を超えた多文化共生と市民性 (シティズンシップ) を課題とした新しい学習分野の登場 (本書第12章) を融合した、学校カリキュラムの根本的な革新を意味しています。
 
本書の初版が刊行されたのは、2015年10月のことでしたが、本書での議論は、2016年から始まる18歳選挙権の実現を背景とした主権者教育や、2017年に改定された学習指導要領の方向性にも一定の影響を与えました。とはいえ、本書がめざしたカリキュラムの革新 (イノベーション) は未だ道半ばであり、市民の視点から学校と社会を根底からつくりかえていくうえで、本書の提起は今後いっそう、きわめて大きな意味を持ち続けていくことでしょう。

 

(紹介文執筆者: 教育学研究科・教育学部 教授 小玉 重夫 / 2021)

本の目次

序章 なぜカリキュラム・イノベーションか (小玉重夫)
 
第I部 カリキュラム・イノベーションの原理
 1章 21世紀型の学校カリキュラムの構造――イノベーションの様相 (佐藤 学)
 2章 カリキュラムの社会的意義 (レリバンス) (本田由紀)
 3章 「社会に生きる学力」の系譜 (市川伸一)
 
第II部 基幹学習
 4章 言語力としてのメタ文法能力の育成 (秋田喜代美)
 5章 リテラシーをどう育むか――日本の子どもの数学的リテラシーの現状を手がかりに (藤村宣之)
 6章 探究学習のあり方と学校図書館 (根本 彰)
 7章 社会に生きる学び方とその支援 (市川伸一・植阪友理)
 
第III部 生き方の学習
 8章 存在論的に呼応する――子どものための哲学教育 (田中智志)
 9章 カリキュラム・ポリティクスと社会 (金森 修)
 10章 うつ予防プログラムの開発 (堤 亜美、下山晴彦)
 11章 ライフキャリア教育プログラムの開発――「ライフキャリア・レジリエンス」を高めるために (高橋美保)
 
第IV部 社会参加の学習
 12章 シティズンシップ教育のカリキュラム (小玉重夫)
 13章 正義とケアの編み直し――脱中心化と脱集計化に向かって (川本隆史)
 14章 社会における学びと身体性――市民性への問い返し/社会教育の視点から (牧野 篤)
 15章 職業的意義のある教育とその効果 (本田由紀)
 16章 バリアフリー教育とは何か (白石さや)
 17章 バリアフリー教育を授業に取り入れる (星加良司)
 
第V部 カリキュラムのガバナンス
 18章 地方発のカリキュラム改革の可能性と課題 (大桃敏行)
 19章 附属学校と大学の協働は何をもたらしたか (小玉重夫・福島昌子・今井康雄・楢府暢子・村石幸正)
 20章 附属学校と大学との組織的な連携関係をいかにして構築するか (植阪友理)
 21章 高大接続の視点からカリキュラム・イノベーションを考える (両角亜希子)
 22章 今後のカリキュラムの方向性を探る――プロジェクトの足跡をたどって (カリキュラム・イノベーション研究会)
 
おわりに (南風原朝和)

 

関連情報

書評:
石井拓児 (名古屋大学) 評 (『日本教育政策学会年報』2017年 24 巻 204-206 2017年)
https://doi.org/10.19017/jasep.24.0_204

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