本書は、日本キャリア教育学会 (※1) のニューズレターに掲載された、珠玉の原稿を加筆修正し書籍としてまとめたものである。扱われている内容は、キャリア教育に関連して、コロナ禍における学校や職場の変化、多様性、働き方、今後の方向性等多岐にわたり、『キャリア教育の射程』という本書のタイトルを体現したものになっている。本書は、日本キャリア教育学会の情報委員会が企画編集を行っているニューズレターのうち、2019年度から2022年度の4年間分の原稿が収録されている。同ニューズレターは、キャリア教育の専門家向けの内容であると同時に、広く一般市民も視野に入れている。また毎年「年度の統一テーマ」を設定し、各テーマの著者として相応しい人を国内外より集めており、本書の内容も各テーマによって分類されている。
第1部では、キャリア教育の変化として、コロナ禍においてオンライン対応を含めて様々な変化を余儀なくされた際に、学校や職場においてどのような対応がなされていたのか焦点を当てる。オンライン授業や学校行事、部活動、就職支援、採用、育児との両立、働き方等について様々な工夫の事例などが学べる。
第2部では、キャリア教育の対象として多様性に焦点をあてている。外国籍の児童・生徒、障がいをもつ学生、性的マイノリティや女性を対象としたキャリア教育や支援の現状、課題について、当事者や支援者の視点から語られている。
第3部では、コロナ禍において働き方に変化が生じているが、会社勤め以外の様々な働き方に注目している。起業、承継、転職、結末 (第2のキャリアへの移行)、等の様々な場面におけるキャリア教育に焦点を当てている。ユーチューバーやフリーランス、アスリート等の多様な働き方を垣間見ることが出来る。
第4部では、キャリア教育の未来として、新しい時代=令和の時代のキャリア教育の方向性について、立場が異なる方々の意見に焦点を当てている。国家公務員、政府関係者、実務家、学校現場の担当者等からみたキャリア教育への期待や方向性について考える。
筆者は、第2部第4章において、これまであまり知られることのなかったDV被害女性のキャリア支援について、民間支援団体等への調査結果から具体的な支援内容や独自の取組について紹介している。
「キャリア教育」は学習指導要領の中にも学校全体で行うべきものとして位置づけられるようになった。本書では、各著者が自身の取組、体験、研究などから得た知見や注意点、また、キャリア教育を担当する教員や支援者へのアドバイズなども含めている。多様な生き方や働き方について知り、自分の生き方を考えるきっかけにもなる一冊である。
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※1 日本キャリア教育学会 (The Japanese Society for the Study of Career Education):1978 年に設立された日本進路指導学会が、2005年に日本キャリア教育学会に改称されて現在に至る。その沿革としては、1953年に誕生した日本職業指導学会、また、1927年に設立された大日本日本職業指導協会 (日本進路指導協会) までさかのぼることができる。キャリア教育、進路・職業指導、キャリア・カウンセリング等にかかわる研究と実践の充実及び向上を図り、長きにわたりキャリア教育を牽引している学術研究団体である。
(紹介文執筆者: 情報学環 特任准教授 小川 真理子 / 2024)
本の目次
第1章 学校における変化1 (教育・学習環境)
第2章 学校における変化2 (学生生活の変化)
第3章 企業における変化1 (雇用・労働環境)
第4章 企業における変化2 (採用活動の変化)
第2部 キャリア教育の多様性
第1章 外国にルーツを持つ子どものキャリア教育
第2章 障がい学生のキャリア教育
第3章 ジェンダーからみたキャリア教育1 性的マイノリティ
第4章 ジェンダーからみたキャリア教育2 女性
第3部 キャリア教育の起承転結
第1章 起業 ―—雇われない働き方―—
第2章 承継 ―—家業を継ぐ生き方―—
第3章 転職 ―—働き方・生き方を変える――
第4章 結末 ―—第2のキャリアに向けて――
第4部 新しい時代のキャリア教育について様々な立場から考える
第1章 国家公務員・政府関係者に聞く
第2章 実務家・実践家に聞く
第3章 起業家・アントレプレナー育成関係者に聞く
第4章 学校現場 (小中高) の担当者に聞く
関連情報
https://jssce.jp/
関連イベント:
令和4年度「新たな課題に対応した課題別研修」[2] 女性活躍推進セミナー (国立女性教育会館 2022年12月6日)
https://www.nwec.go.jp/event/training/g_soshiki2022.html