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書籍名

シリーズ超高齢社会のデザイン 人生100年時代の多世代共生 「学び」によるコミュニティの設計と実装

著者名

牧野 篤 (編)

判型など

400ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2020年8月28日

ISBN コード

978-4-13-034313-8

出版社

東京大学出版会

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人生100年時代の多世代共生

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人生100年時代が到来している。日本社会は、高齢化に足を踏み入れてすでに半世紀になる。その間、人口構造が少子高齢人口減少へと変わっただけでなく、人々の生活にかかわる様々な領域で、構造的な変化が引き起こされている。たとえば、人工知能を基盤とした社会の到来、貧困など社会の分断と人々の孤立、激甚災害の頻発がそれであり、さらに2060年には認知症患者が総人口の13パーセントを占める時代がやってくると予測されている。また、より長期的には、環境破壊や気候変動による生態系の異変など、私たちをとりまく外部環境も大きく変化している。
 
これらはすべて、従来の社会とりわけ市場社会のあり方に疑問を投げかけるだけでなく、人々のコミュニケーションのあり方にまで大きな影響をもたらしている。そしてそれは端的に、人々の価値観の多様化・多元化と人々の記憶・経験をベースにした社会の構造的変容として、立ち現れている。これらはいわば、市場社会の基盤である人間のあり方に対して、私たちに再考を促す社会の構造的な変化であり、また社会問題だといえる。しかも、私たちはこれらの問題を、自分の日常生活の地平で否応なく引き受けざるを得ない状況におかれている。ここに昨今の社会問題の困難がある。
 
私たちは、これまでの社会とは異なる社会イメージを、これまでとは異なる新たな人間像と組織論を基礎として、創造し、それを実装して、社会を革新していくことが求められる時代にすでに身を置いているのである。
そのとき、草の根の地域コミュニティにおけるコトバを介した小さな話しあいの重ねあいが、この社会の基盤を、人々の他者に対する想像力と配慮に満ちた、そして相手を好意的に受け止め、支えあおうとする、人々の思いによって生み出される当事者性に満ちたものへと組み換えていくのだといえないだろうか。そのコミュニティは、住民相互の他者への想像力と配慮に満ちた、意識せざる思いが交錯する「場」であり、そしてそこでは、その「場」を互いに意識せざる形で担いあう当事者としての住民の生成が見られることとなる。このような想像力と配慮にもとづくかかわりのあり方が、人生100年時代の新たなコミュニティの構想と実践へとつながっていくのではないだろうか。
 
本書は、このような新たな社会を創造するための具体例を集めたケースブックである。本書は、序章で社会の構造的変化と地域コミュニティへの視点を提示した上で、第I部 概論篇 — 枠組み、第II部 特論編 — 仕組み、第III部 実践編 — 取り組み、第IV部比較編 — 東アジアの高齢社会とコミュニティの各部、全28章から構成されている。どの論考も、身近なコミュニティをテーマとして、そのあり方を論じたものである。本書を通して、これからの新たな社会を構想する具体的なイメージを受け取ってもらえたら幸いである。
 

(紹介文執筆者: 教育学研究科・教育学部 教授 牧野 篤 / 2021)

本の目次

序 章 人生100年時代の社会へ――高齢社会悲観論への違和感と「ちいさな社会」(牧野 篤)
 
第I部 概論編――枠組み
[生涯学習] 第1章 社会保障としての「学び」――「社会」をつくりだす生涯学習へ (牧野 篤)
[世代間交流] 第2章 世代間交流とソーシャル・キャピタル――スウェーデン,アメリカ,日本を例として (草野篤子)
[高齢者イメージ] 第3章 ヨーロッパ・アジアの高齢化に対する知識と態度――大学生の高齢者イメージ国際比較 (黄 錦山 / 山口香苗 訳)
[ライフキャリア] 第4章 高齢者の心理と社会参加――中高年のライフキャリアのその先を見据えて (高橋美保)
[健康] 第5章 高齢者の社会参加と健康 (藤原佳典)
[学びの場] 第6章 高齢者大学という「場」(堀 薫夫)
 
第II部 特論編――仕組み
[政策枠組み] 第7章 人生100年時代の構想と政策的課題について (蒔苗浩司)
[地域づくり] 第8章 小さな拠点・地域運営組織の形成と住民の「学び」(中塚雅也)
[地域福祉] 第9章 地域包括ケアシステムと公民館・住民の「学び」(上田尚弘)
[地域学校協働] 第10章 地域学校協働活動と公民館・住民の学び (水田 功)
[相互見守り] 第11章 市民後見とコミュニティづくり (飯間敏弘)
[自治体政策] 第12章 「地域共生コミュニティ」を目指して――松本市の取り組み (矢久保 学)
[公民館組織] 第13章 自治公民館を核とした町づくり (宮崎県綾町)
[市場] 第14章 カスタマーセントリックな経済という信仰への疑義 (海野 裕)
 
第III部 実践編――取り組み
[多世代交流] 第15章 多世代交流型コミュニティの構想と実践――千葉県柏市高柳地区の試み (牧野 篤)
[シニア演劇] 第16章 「できない」「わからない」が生み出すパフォーマンスの豊かさ――豊四季台「くるる即興劇団」の取り組み (園部友里恵)
[キッズセミナー] 第17章 大学生がつなぐ地域の多世代交流コミュニティ――千葉県柏市柏第六小学校「東大キッズセミナー」の実践 (松山鮎子)
[シニア音楽祭] 第18章 飯田市「華齢なる音楽祭」の取り組み――多世代による超高齢社会の演奏会モデルづくり (桑原利彦・松本奈々子)
[次世代育成] 第19章 大人の学びと次世代育成をつなげる――飯田市公民館の取り組みから (木下巨一)
[生涯学習大学] 第20章 高齢者大学と地域ネットワーク――なかの生涯学習大学を一例に (酒井瑞生)
[地域と学校] 第21章 地域学校協働活動と高齢者の活躍――江東区立第三砂町中学校の事例から (田口明日香)
[文化の創造] 第22章 合言葉は「まぜて,まなぶ」――「ふらのみらいらぼ」と「ふるさとキャリア教育」(浦田 吉)
[公民館のリデザイン] 第23章 公民館からCo-Minkanへ (西上ありさ)
 
第IV部 比較編――東アジアの高齢社会とコミュニティ
[台湾] 第24章 楽齢学習で新たな自分へ——台湾における高齢社会への対応 (魏 恵娟・張 弘・張 哲嘉 / 山口香苗 訳)
[韓国] 第25章 持続可能な高齢社会の構築と「学び」——韓国の生涯学習を基盤とした取り組み (李 正連)
[中国] 第26章 高齢社会と社区コミュニティにおける「学び」——中国の高齢社会建設の取り組み (馬 麗華 / 詹 瞻 訳)
 
終 章 信頼を贈りあう社会へ——高齢社会の新しい姿 (牧野 篤)

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