東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

オレンジの表紙に記号的なイラストの女性3人

書籍名

Gender and Structural Violence

著者名

Rekha Pande、Sita Vanka (編)

判型など

232ページ、上製

言語

英語

発行年月日

2019年

ISBN コード

9788131610190

出版社

Rawat Publishers

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本書は、インドのハイダラーバードで開催された第12回世界女性学会大会において発表された「ジェンダーと暴力」に関する18の研究論文を掲載した論文集である。世界女性学会大会は「Gender and Changing World」のテーマで開催され、約36ヵ国から1000名余りの参加者が集い、ジェンダーと健康、文化、経営、教育、暴力、IT、グローバリゼーション、労働、法律等多岐にわたる研究報告が行なわれた。インド初の世界女性学会大会の会場になったハイダラーバード大学は、1974年に設立され、特に自然科学分野でインド随一の研究実績を挙げている。ハイダラーバードは、デカン高原の中央に位置する南インドのテランガーナ州の州都であり、IT産業等の科学技術を中心に急速に経済発展しつつある、インドで4番目の人口を擁する大都市でもある。
 
筆者は、同大会の「ジェンダーと暴力」の分科会において、本書に掲載されている、研究論文「The Role of Women’s Shelters and the Women’s Movement in Japan」(第13章) の内容を報告した。日本のDV被害者支援の現状や民間シェルターの支援者のインタビュー調査結果を提示し、シェルター運動の分析・考察を通して、日本のDV被害者支援の課題と方向性、民間シェルターの役割等について論じている。
 
本書では、インド、ブラジル、ケニア、スリランカ、日本等の社会学、法学、歴史学、政治学、開発学、女性学、看護学等を専門とする研究者等が、名誉の殺人、人身取引、性暴力、DV、女性対する暴力、また暴力被害を受けた女性の支援を行うNGOやシェルター、セクシャリティ、買売春等について各国の状況をジェンダーの視点から分析している。
 
本書のキーワードである、「構造的暴力」は、1969年にノルウェーの数学者であり社会学者のヨハン・ガルトゥング (Johan Galtung) が、論文「Violence Peace and Peace Research」(1969) の中で提示した社会システムのなかで構造化されている不平等と抑圧の概念である。この概念は社会的不正義の国際的・国内的な構造の連鎖を明らかにして取り除くことが、戦争の不在という「消極的平和」以上に「積極的平和」実現の本質的課題であるとする平和研究の新しい方向性を確立させた。構造的暴力は、様々な社会構造の中で人々に異なる影響を与えるため、家族内暴力、ジェンダーに基づく暴力、ヘイトクライム等の社会的不正義と密接な関係がある。構造的暴力は、社会の条件、社会秩序の構造、そして社会における権力の制度的配置を表現している。本書の各論文は、この構造的暴力と女性に対する暴力の関係を理解するために、様々な社会構造や制度に着目をしている。本書は、国際的な視点からみた構造的暴力と女性に対する暴力、特に、アジアにおける発展途上国の議論を中心に展開されている。日本は先進国に位置付けられるが、女性に対する暴力については、先進国、発展途上国の区別なく世界共通の問題であり、構造的な暴力であると国連はじめ研究者、関係者によって認識されている。本書では、研究を通して得られた知見から女性に対する暴力根絶に向けた示唆も提示している。本書が、研究者はじめ、ジェンダーと暴力、構造的暴力について学ぶ学生、ソーシャルワーカー、シェルターの支援者、NGO活動家、政府・自治体関係者等に役立つものであれば幸いである。
 

(紹介文執筆者: 情報学環 特任准教授 小川 真理子 / 2023)

本の目次

• The Honour Killings in Turkish Jurisprudence / Eda Ash Şeran
• Women’s Sexuality and the Phenomenon of ‘Honour Killings’ in India / Abha Chauhan
• Women in Correctional Homes: A Study on Their Reintegration / Nilika Dutta
• The Insecure Space: Violence and Oppression of Women in Selected Indian Films / Trayee Sinha
• The Representations of Gay Couples in Brazilian Soap Operas: Social Change, Homophobia and Violence / Maurício Pereira Gomes
• The Impact of Globalization on Women Trafficking in India / Dolly Mishra
• Gender Violence and Widowhood: A Challenge to Religious Leaders in Sub-Saharan Africa / Lucy R. Kimaro
• The Anti-Trafficking Laws and the State: A Critical Review of State Responses to Human Trafficking / Barnali Das
•‘Injured Identities’ of Women and Victim Protection: The Impact of Anti-Trafficking Interventions in Andhra Pradesh / Neethu Chandran K.
• Patriarchy: Root Cause of Violence against Women / Alka Agrawal and Jaya Gupta
• A Study of Shaheen: An NGO’s Role in Eradicating Violence against Women in Hyderabad / Priyanka Singh
• To Violate with Impunity: Legal Constructions of Sexual Assault in the Marital Institution / Sawmya Ray
• The Role of Women’s Shelters and the Women’s Movement in Japan / Mariko Ogawa
• An Inferential Discourse on the Appropriate Augmentation of Forensic Evidence in Crimes against Women / Sharada Avadhanam
• Crime against Women in Visakhapatnam: A Forensic Panorama / Madhusree Konala
• Violence against Women in Marriage and Related Issues: A Case Study in Urban Hyderabad / R. Jayasree and M. Reddirani
• Prostitution or Sex Work; Violence or Agency: The Unspoken Stories of Women from Assam / Pooja Chetry
• Creating Feminist Spaces to Deal with the Issue of Violence: The Mahila Samakhya Experience / Rekha Pande

関連情報

東京大学男女共同参画室
https://www.u-tokyo.ac.jp/kyodo-sankaku/ja/index.html
 
研究ノート:
小川真理子「震災と DV 被害者支援――東日本大震災被災地における行政・民間へのインタビュー調査を通して」 (『経済社会とジェンダー』4号 pp.75-95 2019年6月)
http://jaffe.fem.jp/j/wp-content/uploads/2020/12/4_Ogawa.pdf
 
国際シンポジウム:
「女性、宗教、暴力――国際的視点からの再考」 (お茶の水大学 2016年10月19日)
https://www2.igs.ocha.ac.jp/igs%E9%80%9A%E4%BF%A1/2016/10/1018/
▶シンポジウムの記録

関連記事:
DV被害者支援「後進国」脱せよ 東北大学准教授 (社会学・ジェンダー研究) 小川真理子 (日本経済新聞 2020年5月13日)
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO58987040S0A510C2KE8000/
 

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