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クリーム色の表紙に切り絵

書籍名

ジェンダーとセクシュアリティで見る東アジア

判型など

328ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2017年11月

ISBN コード

978-4-326-60298-8

出版社

勁草書房

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筆者は1996年に『東アジアの家父長制』(勁草書房)という本を書いており、それ以来東アジアのジェンダーについて、データの変化を含めて追い続けてきた。2013年に英語でPatriarchy in East Asiaという本を翻訳者の助けを借りてBrillから出版し、そのアップデートを果たした。今回はほぼ同じテーマを巡って、自分のゼミに出てくださっていた当時の、もしくは元の院生のみなさんに集まってもらい、論考を寄せてもらった。論文集というとテーマがバラバラになることがよくあるが、今回は当初からテーマを決めて論文を書いてもらったので、かなり一貫性のある本になったと思っている。
 
東アジアは極端な少子高齢化の進む社会であるが、その同じ背景の中で、ジェンダーをめぐって、東アジアがどのように異なる社会であるのかを明らかにした。日本と中国を比較して、違いを見つけても、その違いが社会体制から来るのか、経済発展の度合いから来るのか、文化規範の違いなのか、特定することができない。その点日本と韓国と台湾を比べれば、社会体制と経済発展の水準がほぼ同じであるために、これが文化規範の違いであることが明らかになる。たとえば台湾には日本にあるような、小さな子どものそばには、母親がいなければならないという規範がなく、幼児を抱える女性の労働力率が極めて高い。一方韓国では日本と同じように子どものそばに母親がいなければならないという規範があるが、この際の母役割は、子どもが小さい時期であるよりもむしろ大学受験に向けての時期が重要視される。子どもが小学校を終えるあたりからパートで働き始める日本とは少し事情が異なるのだ。さらに中国でも台湾同様、幼児期に母親が子どものそばにいなければならないという規範がないので、これはチャイニーズの社会に共通の現象であることがわかる。そして北朝鮮は中国と異なり、同じ社会主義であるにもかかわらず、結婚後に仕事をやめるケースが多いので、これが朝鮮半島に通底する文化であることがわかる。他方で高齢者の就労を巡っては、チャイニーズの社会はいずれもきわめて否定的で、日本はきわめて積極的である。このように誰を労働力とするかが社会によって異なる、逆にいうと経済以外の要素で決まるという点を、東アジアの内部で明らかにしたのが本書の特徴のひとつである。
 
同時に本書はセクシュアリティに関する東アジアの比較社会学として最初の本となった。特に同性婚をアジアで最も早く導入した台湾で、フェミニズムと性的マイノリティの運動とが協力し合う形で、性的マイノリティの問題が重要な人権問題として浮上していくプロセスを明らかにしたことは、大変重要な意味を持つと考える。
 
また、内容とは直接関係ないが、本書刊行時に非常勤講師などの職しかなかった4人がいずれも専任講師以上になった。肩書きはなくとも力のある人を、学界にデビューさせたことをうれしく思う。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 瀬地山 角 / 2022)

本の目次

はしがき[瀬地山角]
 
第I部 ジェンダーで見る東アジア
 
第1章 少子高齢化の進む東アジア――「東アジアの家父長制」からの20年 [瀬地山 角]
 1 少子化と結婚の不安定化
 2 女性労働のパターン
 3 高齢者の就業パターン
 4 独自路線を突き進む北朝鮮
 5 社会主義市場経済下の中国
 6 まとめ
 
第2章 現代日本の家族――食に見る近年の家族問題 [野田 潤]
 1 はじめに
 2 雇用環境の大転換と未婚化・晩婚化の進展2000年代以降の社会的背景
 3 労働面から見た家族の変化と非変化
 4 「食」から見る2000年代以降の日本のジェンダーと家族
 5 まとめ2000年代の食と家族問題
 
第3章 現代韓国の専業主婦――女性の仕事と結婚の理想と現実 [柳 采延] 
 1 はじめに
 2 女性の就労か子育てかという選択
 3 「高学歴専業教育ママ」という選択
 4 まとめ
 
第4章 台湾におけるフェミニズム的性解放運動の展開――女性運動の主流化と,逸脱的セクシュアリティ主体の連帯 [福永玄弥]
 1 はじめに
 2 女性運動の主流化と分裂
 3 フェミニズム的性解放運動の背景分析
 4 まとめ
 
第5章 「全国オモニ大会」に見る北朝鮮の家父長制の変遷 [韓 東賢]
 1 「北朝鮮の家父長制」のその後,そして今後
 2 金日成時代社会主義化・「脱」社会主義化と家父長制
 3 金正日時代「苦難の行軍」・先軍政治と家父長制
 4 金正恩時代「再帰的保守化」のもとで
 
第6章 家族構造から見る現代中国企業組織と流動人材 [中村 圭]
 1 問題設定
 2 問題の背景
 3 東アジア版「イエ社会論」
 4 現代中国の企業組織改革の事例
 5 現代中国の親分/子分型組織
 6 まとめ
 
第II部 セクシュアリティで見る東アジア
 
第7章 「LGBTフレンドリーな台湾」の誕生 [福永玄弥]
 1 はじめに
 2 台北市と民主社会の「同志」たち
 3 民進党政府による「人権立国」と「LGBT」
 4 まとめ
 
第8章 中国との比較で見るセクシュアリティ――性欲は社会が塑型する [瀬地山 角]
 1 はじめに
 2 欧米との比較
 3 中国との比較で見る日本のセクシュアリティ
 4 「正解」のない性
 
第9章 日本のゲイは「普通の存在」になったのか? [森山至貴]
 1 問題設定
 2 日本のゲイの歴史
 3 「普通」をめぐる闘争
 4 ねじれと序列化
 5 結論
 
第10章 中国におけるBL (ボーイズラブ) マンガ――マンガ表現論から読み解く日本アニメ・マンガの国際的流通 [守 如子]
 1 中国におけるマンガ環境の変化
 2 消えたBL単行本の背景にあるもの
 3 マンガ表現論から見たBLマンガ同人誌
 4 中国におけるBL
 
終章 東アジアの比較とは [瀬地山 角]
あとがき [瀬地山 角]
人名索引・事項索引
 

関連情報

書評:
國弘暁子 評 (紀要『ジェンダー研究21』Vol. 9 2020年1月発行)
https://waseda-gender-studies-inst.jimdofree.com/%E7%B4%80%E8%A6%81-%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%83%B3%E3%83%80%E3%83%BC%E7%A0%94%E7%A9%B621-gender-studies21/
 
児玉谷レミ (一橋大学社会学部) 評 (『女性学』26巻p.84-87 2019年)
https://doi.org/10.50962/wsj.26.0_84

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