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赤い表紙に5人家族と犬のイラスト

書籍名

Patriarchy in East Asia A Comparative Sociology of Gender

著者名

Kaku Sechiyama

判型など

332ページ、ペーパーバック

言語

英語

発行年月日

2015年3月13日

ISBN コード

978-90-04-28198-1

出版社

Brill

出版社URL

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学内図書館貸出状況(OPAC)

Patriarchy in East Asia (hardcover)

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ひとことで言えば、女性や高齢者の労働パターンに関する東アジア諸社会の比較社会学である。子どもが産まれると女性が仕事をやめ、しばらくしてからパートなどで再就職するといういわゆる「M字型就労」は日本の高度成長期以降に生まれた就業形態だが、日本社会には相変わらずこれを「自然なことだ」と考える人が少なくない。
 
本書では欧米との比較も踏まえつつ、主な比較対象を東アジア (日本、韓国、台湾、中国、北朝鮮) の内部におき、その諸社会における女性や高齢者の働き方を比較する。成人男性は常に働くことが要請されているので差が出にくいが、女性や高齢者となるとさまざまな違いが出てくる。日本と同じようにM字型になる韓国では、大学入試に向けてのサポートが母役割の中心で、「三歳児神話」の残る日本とは大きく異なるし、台湾はそもそも乳幼児期に母親がそばにいなければいけないという規範が存在しない。台湾では女性の学歴が上がると労働力率がきれいに上がるのに、韓国では上がらず、日本はその中間。
 
一方で高齢者の労働に関しては、台湾では極端に労働力率が低いのに対して、日本は非常に高く、「働くことが健康によい」と考える高齢者が少なくない「変わった」社会だ。
 
しかもこうした違いは社会体制を越えており、台湾と中国は同じように、乳幼児のそばに母親がいなければいけないという規範が薄く、高齢者の労働を忌避し、韓国と北朝鮮は同じように、性役割規範が強い。したがって北朝鮮では中国と異なり、社会主義社会なのに結婚すると仕事をやめるケースが少なくない。
 
こうした違いは、政策や経済水準といったものでは説明できない、ある種の「文化」のようなものだ。中華文化圏、朝鮮半島の文化が、社会体制を越えて影響をしているのだ。儒教文化圏などとひとくくりにされてしまうこともある東アジアの諸社会もジェンダーの観点から見ると、かなり様相の異なるものであり、逆にそのことで日本社会の「特殊性」を浮き彫りにすることができる。
 
ジェンダーに限らず、東アジアの諸社会を比較する研究は枚挙にいとまがない。しかし例えば日中比較をして違いを見いだしても、それが社会体制によるものか、経済発展の水準によるものか、文化や規範が関係するものなのかの解釈は難しい。日中韓比較というのも見かけるが、結局統計データを使ってOECD諸国をすべて比較する研究と類似したものになるか、複数の研究者が集まって作る本になる。
 
一方で中国、台湾、韓国、北朝鮮に関する地域研究も膨大な量の蓄積がある。それぞれの言語、文化、社会に精通しないと、この領野の研究はできない。だがそのために複数の社会にまたがる地域研究というのは多くない。中国と台湾を研究する研究者はたくさんいても、台湾と韓国を地域研究のレベルで比較する研究は極端に少なくなる。英語圏を含めても、日本と韓国と台湾と中国と北朝鮮に関して、ひとりの研究者がそれぞれの社会の資料にあたりつつ、一貫した枠組みのもとで行う研究というのは大変少ない。本書はそういう意味において、比較社会学と地域研究を融合させた試みだと考えている。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 瀬地山 角 / 2017)

本の目次

Introduction: Toward a Comparative Sociology of Gender
 
Part One
1. What is Patriarchy?
2. The Emergence of the Housewife and Transformations
 
Part Two
3. The Japanese Housewife and Patriarchy
4. Contemporary Patriarchy and the Housewife in Japan
 
Part Three
5. South Korean Patriarchy
6. Taiwanese Patriarchy
7. Patriarchy in North Korea
8. Patriarchy in China
9. Recent Social and Political Changes in East Asia
10. Conclusions
 

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