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白い表紙

書籍名

文春新書 フェミニズムってなんですか?

著者名

清水 晶子

判型など

256ページ、新書判

言語

日本語

発行年月日

2022年5月20日

ISBN コード

9784166613618

出版社

文藝春秋

出版社URL

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フェミニズムってなんですか?

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本書は「フェミニズムの入門書」という建て付けになっている。とはいえ、学問を通じてであれ、運動や文化活動を通じてであれ、少しでもフェミニズム的なものに触れたことのある人なら、そう聞いた時点で「フェミニズムの入門書って、どういうこと?」と眉に唾をつけたくなるだろう。フェミニズムに、入門とか初級とか上級とか、そんなレベルがあったりするものだろうか? 大体これは、誰にとっての、どのフェミニズムの入門なのだろう? どれが入門でどれは後からゆっくり知れば良いことなのか、誰が決めたのだろう?
 
「フェミニズムの入門書」と聞いてたちどころにそういう疑問が次々に浮かんでくる人は、本書を通り越してもっとガチのフェミニズム本を――それがどのフェミニズムの本であれ、具体的に扱うテーマが何であれ――読む準備ができている人だ、と言っても良いように思う。その人はおそらく、フェミニズムには多種多様な生と運動との歴史があり、文学や芸術の創作と受容の双方にわたる豊かな蓄積があり、哲学から自然科学にまで及ぶ広範な学知の展開があることを、知っている。それぞれの詳細はともかくフェミニズムという言葉にそのように多様で豊穣な営みが広く含まれることを知っているし、だからこそ、フェミニズムの入り口が、それどころかフェミニズムそれ自体が、極めて多彩であることを知っている。
 
その人は、「フェミニズムとは何か」という問いにひとつの答えを出すことが困難であること、あるいはそもそもその問い自体それ単体ではあまり意味をなさないことを、ほとんど感覚的にわかっている。そして、逆説的ではあるが、その感覚は「フェミニズムとは何か」という問いに答えようとするならば絶対に必要なものの一つである。
 
本書は「フェミニズムとは何か」について、ひとつの明快な答えを用意するものではない。もちろん、フェミニズムとは女性たちの生の可能性を広げようとする営みである、ということはできる。けれどもそれだけでは殆ど何も言っていないに等しい。「女性たち」とは誰なのか。「生の可能性」とは何を指すのか。具体的に何をすれば「生の可能性を広げる」ことに寄与するのか (そして誰の)、何をすればむしろ可能性を狭め、閉ざしてしまうのか (誰にとって)。
 
そのかわりに本書では、フェミニズムがしてきたこと、フェミニストたちが交わしてきた多様な議論を、それぞれの具体的なテーマに即して紹介することで、「フェミニズムが何をしてきたのか / しているのか」の一端を示そうと試みた。時にフェミニスト相互の深刻な対立や矛盾をも含みつつ展開されてきた営みを追いながら、「フェミニズムとは何か」「何をし (ようとし) てきたのか / ているのか」についての感覚を掴むための、いわば入門の手前の入門として、本書を読んでいただければ、と思う。
 
そしてその「感覚」を掴んだ読者が、それぞれ興味を惹かれたテーマやアプローチのフェミニズムの「入門書」へと読書を進めてくださるきっかけになれば、著者としてこれに勝る喜びはない。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 清水 晶子 / 2023)

本の目次

フェミニズムって何ですか?
フェミニズムの四つの波――フランケンシュタインから#Me Tooまで
フェミニズムにおける、性と生殖という”難題”
「個人の自由」の真の意味を、フェミニズムは問い続ける
フェミニズムに救われた二人の対話 清水晶子×長島有里枝
フェミニズムにも「インターセクショナル」な視点が必要な理由
現代カルチャーシーンとフェミニズム ドラマが教えてくれること
女性リーダーに見る次世代リーダーシップのあり方
性暴力を正しく理解するために
なぜ”ケア”は黙殺されてきたのか
真にヘルシーな性教育とは
問題山積、でも知るべき「結婚の不都合な真実」
スポーツにおけるセクシズム 清水晶子×井谷聡子
セックスワークはフェミニズムをどう捉えるか
フェミニズムから教育の多様性を考える
フェミニズムは「中絶」をどう捉えるか
「性」を支配するのは誰なのか
自立と”家族”をめぐって
小説で性への違和を描くこと 清水晶子×李琴峰

関連情報

書評:
木村朗子 評「フェミニズムをアップデートする」 (WEB別冊文藝春秋 2022年6月27日)
https://books.bunshun.jp/articles/-/7249
 
書籍紹介:
「高島鈴が選ぶ、「フェミニズム」を考えるための「はじまりの5冊」」 (GQ Japan 2022年11月17日)
https://www.gqjapan.jp/culture/article/20221117-gq-voice-rin-takashima
 
[はじめにより]「女性の生の可能性を広げるために、フェミニズムは何をしてきたのか?」 (2022年6月1日)
https://books.bunshun.jp/articles/-/7200
 
[インタビュー]「日常で感じる違和感をフェミニズムのきっかけに おかしいと声をあげ意見を交わす社会に」 (AERA 2022年9月7日)
https://dot.asahi.com/aera/2022090600079.html?page=1
 
関連書籍:
『フェミニズムってなんですか?』刊行記念ブックフェア選書 フェミニズムの議論の蓄積に触れる23冊 (本の話[文藝春秋] 2022年6月3日)
https://books.bunshun.jp/articles/-/7205
 
関連記事:
[連載] VOGUEと学ぶフェミニズム (VOGUE JAPAN web)
https://www.vogue.co.jp/tag/vogue-feminism
 
関連イベント:
「トークイベント開催『VOGUE JAPAN』の人気連載が書籍化。「フェミニズムってなんですか?」清水晶子著――フェミニズムの視点を身につければ、世界の見え方が変わる」 (オンライン 2022年6月12日・18日・20日)
https://www.bookbang.jp/article/732722
 
「ゲリラ・ガールズ展『F』ワードの再解釈:フェミニズム!」 (渋谷PARCO 2022年3月3日~12日)
https://www.elabo-mag.com/article/20220325-06
 
ポッドキャスト:
「フェミニズムについて話し始めてみる」 (わたしたちのスリープオーバー|SPINER 2022年9月2日)
https://spinear.com/shows/our-sleepover/episodes/2022-09-02/
 
「フェミニズムについて話し始めてみる vol.2」 (わたしたちのスリープオーバー|SPINER 2022年9月9日)
https://spinear.com/shows/our-sleepover/episodes/2022-09-09/

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