東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

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書籍名

男性性の探究

著者名

ラファエル・リオジエ (著)、 伊達 聖伸 (訳)

判型など

178ページ、B6判

言語

日本語

発行年月日

2021年3月31日

ISBN コード

978-4-06-522726-8

出版社

講談社

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男性性の探究

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東大に入学する新入生のうち女子学生が2割に達するかどうかが最近ではひとつの目安になっている。数年前まで私が教えていた上智大学のフランス語学科では逆に男子学生の割合が1~2割程度だったせいか、駒場に来て改めて印象づけられたのが男子学生数の多さである。教員もしかり、2019年4月の辞令交付式で、このとき着任した30名近くのうち、女性教員の姿がわずか1人しか見られなかったことには驚いた。
 
振り返ってみれば、私自身は地方の公立男子校出身者で、30年近く前に東大文IIIに入学したときにはクラスの女子学生の数が比較的多いと驚いていたような人間である。そんな私でも、フランス留学から日本に戻ってくると、さまざまな社会組織における意思決定プロセスがやはり男性中心主義的であることに、しばしば戸惑いを覚えるようになっていた。しかし、そうした自分にも男性中心主義的なものの見方が根深く巣食っていることは、自信を持って否定することができない。
 
2017年は#MeToo運動が世界を席巻した年だが、カナダで研究休暇 (サバティカル) を送っていた私は、SNSなどで被害を訴える女性たちの声が気になりながらも、どのように反応すればよいのかわからなかった。自分の専門である宗教学の研究との直接的関係は薄いが、一人の男性としてまたは一地球市民として関心を払うべき問題だと思われた。それでも何か発言するには、自分自身の立場性の問題が問われる。これに対して態度を決めるのはなかなか難しいことで、自分としては身動きが取れないままに時間が過ぎていった。
 
そうしたなかで出会ったのがこのラファエル・リオジエの本だった。彼は宗教事象をおもな対象とするフランスの社会学者・哲学者で、専門分野や研究対象は私と近い。#MeToo運動を前にして、西洋白人男性という立場性を引き受けながら男性性に反省を加える姿勢に共感するとともに、人類の長い宗教と世俗の歴史のなかにこの運動を位置づける視点に目を開かれ、日本に翻訳紹介する意義があると考えた。
 
リオジエは、女性を「もの」として所有しようとする男性の視線と言動が、男性中心主義的な社会を作り上げてきたと論じる。彼の基本的主張はシンプルで、一言で言えば女性の意志を認めよということに尽きる。そんなことなら先刻承知という男性読者からの声が聞こええてくるようである。リオジエ自身も、原書の出版記念パーティーで、とある有名な男性から、自分はあなたの批判する男性像には該当しないと言われたそうである。ところが、その男性が程なくしてセクハラを告発され、メディアを賑わせることになった。
 
わかっているつもりでわかっていないことは多い。本書の内容は、ある程度フェミニズムを齧ったことのある人にとっては、常識的なことばかりと思われるかもしれない。それでも、社会的・経済的・象徴的な男女間格差の現状を考えるならば、著者が男性の立場から、特に男性読者を想定しつつ、男女平等の地平で男女の性差を再肯定できると主張していることの意義は、大きなものである。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 准教授 伊達 聖伸 / 2021)

本の目次

男〔という悪〕の凡庸さ
問題なのは、ドン・ジュアン
#MeTooの意味を歪める五つのやり方
同意の超越論的価値
白馬の王子の神話が意味していること
資産として重要な女性
女性の値段
「女子無料」は女性優遇なのか
男らしさは女性によって伝達される
心も体も不完全な女性
レイプの文化
男らしさの無力(不能)
強すぎる女性に対する不安
女性の欲望に対する怖れ
去勢コンプレックスはまずは男性的なもの
金の檻から抜け出す
果たされていない近代の約束
女性の同意は両義的で紛らわしいという俗説
愛のないセックス
ジェンダーのなかの違和感
自由を恐れないこと
私たちの差異を再び自分のものにすること
ジェンダーの和平に向かって
エピローグ―価値の転換

訳者解説

関連情報

書評:
澁谷知美 評「「内なる男性性」問題に真摯に向き合う男へ」 (『週刊金曜日』1330号 2021年5月28日発売号)
http://www.kinyobi.co.jp/kinyobinews/2021/06/02/book-108/
 
江藤俊哉 評 (『西日本新聞』 2021年5月29日)
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/746546/
 
<大波小波> 男性性の問い直しの試み (『中日新聞』 2020年8月25日)
https://www.chunichi.co.jp/article/109796
 
書籍紹介:
フランス大使館からあなたへ:自由に生きたい女性のためのフランスの本 (フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本 2021年12月)
https://www.institutfrancais.jp/tokyo/files/2021/12/Livres-francais-libres-et-egalitaires.pdf

関連記事:
EAAブックレット EAA Forum 19 フランスから見た♯MeToo運動――ラファエル・リオジエ『男性性の探求』をめぐって (EAA 東京大学東アジア藝文書院)
https://www.eaa.c.u-tokyo.ac.jp/publications/eaa-forum-19/
 
〈シンポジウム〉 女性蔑視はどうつくられるか――ラファエル・リオジエ『男性性の探究』をめぐって  ラファエル・リオジエ×三牧聖子×清田隆之 (『群像』 2021年10月号)
http://gunzo.kodansha.co.jp/58959/60244.html
 
<論点> 伊達聖伸「男性性の探究と#MeToo運動」 (『群像』 2020年9月号)
http://gunzo.kodansha.co.jp/55737/58811.html

イベント:
【報告】連続討論会——ラファエル・リオジエ 『男性性の探究』をめぐって (東京大学東アジア藝文書院 (EAA) 2021年8月5日
https://www.eaa.c.u-tokyo.ac.jp/blog/20210722-26/
 
女性蔑視はどうつくられるか——ラファエル・リオジエ 『男性性の探究』をめぐって (科学研究費補助金 基盤研究 (A) / 東京大学東アジア藝文書院 (EAA) 2021年7月26日)
https://www.eaa.c.u-tokyo.ac.jp/events/20210726-prof-liogier/
 
フランスから見た#MeToo 運動——ラファエル・リオジエ 『男性性の探究』をめぐって (科学研究費補助金 基盤研究 (B) / 東京大学東アジア藝文書院 (EAA) 2021年7月22日)
https://www.eaa.c.u-tokyo.ac.jp/events/20210722-prof-liogier/

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