
書籍名
集英社新書 私たちが声を上げるとき アメリカを変えた10の問い
判型など
288ページ、新書判
言語
日本語
発行年月日
2022年6月17日
ISBN コード
978-4-08-721218-1
出版社
集英社
出版社URL
学内図書館貸出状況(OPAC)
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女性に対して何かと講釈を垂れる男性の言動を指した「マンスプレイニング (mansplaining)」という造語が世に広まるほど、女性は職場でも学校でも街でも家庭でも、男性によって日常的に声を遮られ、言葉を奪われ、沈黙を強いられている。理不尽な抑圧への忍耐が沸点に達し、さまざまなリスクを覚悟で勇気を振り絞って声を上げると、その発言の正当性を疑われたり、服装や容姿や話しかたを問題にされたり、発言とは無関係の個人的な背景や過去を問われたりした上で、被害者ぶっている、あるいはヒステリックであるなどと非難を受ける。そうしたバックラッシュによって発言者が傷つき、追い込まれていくだけでなく、発言そのものが葬られ、他の女性たちが発言する勇気も奪われていく。こうした状況のなかで、女性が声を上げる際には、正当な内容の発言をするだけでなく、その発言の場や方法、話の手順、口調や表情に至るまで、慎重に検討し、相手の思考や感情をあれこれと想定し、自分の声をしっかりと受け止めてもらえるためのさまざまな準備をしなければならない。それでも女性たちは声を上げてきた。そうしなければいられない状況があったからである。
本書では、アメリカの歴史・政治・社会・文化を専門とする5人の女性研究者が、アメリカ現代史における10の事例を取り上げ、女性が「声を上げる」という行為を考察する。彼女たちはどのような場面で、誰に向かって、どんな形で声を上げたのか。その決意や選択には、どのような考慮や計算があったのか。その声に、社会はどのように耳を傾けてきたのか、あるいはこなかったのか。そして女性たちの声は、どんな結果を生んできたのか。
第一部では、#MeToo旋風が吹き荒れ、ブラック・ライヴズ・マター (BLM) 運動が世界を揺るがしていた2018年から本書の執筆にあたった2020年まで、アメリカ社会そして世界に向けてそれぞれの形で大きな声を上げてきた5人。第二部では、第二次世界大戦後から20世紀の終わりまでの半世紀に、民主主義を謳うアメリカ合衆国においてその理念を問いかけた5人を扱っている。人種も年齢も社会的地位も性的アイデンティティも、生きた時代も場所も多様な10人で、声を上げた状況や方法も、訴えの内容もさまざまだ。しかしすべての声に通底するのは、自由で平等で真に豊かな世界の実現を信じ、それを阻む社会の構造的問題を問いただす、理想と信条と勇気である。
日本でもさまざまな女性が不条理に対して果敢に声を上げてきた。本書の刊行後にはNHKの朝ドラ『虎に翼』がおおいに話題を呼んだ。ジェンダー問題において、アメリカが日本より進歩的であるとは言えないが、声を上げてきた女性たちの葛藤や苦悩、失意を含め、アメリカの事例から学べることは多いはずだ。
(紹介文執筆者: グローバル教育センター 教授 吉原 真里 / 2025)
本の目次
第1部
1.大坂なおみ(22歳/2020年)
plus comment Z世代が起こすメンタルヘルス革命
2.エマ・ゴンザレス(18歳/2018年)
plus comment 覚醒状態(Woke)
3.アレクサンドリア・オカシオ=コルテス(28歳/2018年)
plus comment 身体と性のポリティクス
4.クリスティーン・ブラゼイ・フォード(51歳/2018年)
plus comment 監獄フェミニズム
5.ステイシー・エイブラムス(44歳/2018年)
<コラム> インターセクショナリティ(交差性、intersectionality)
第2部
6.シャーロッタ・バス(推定78歳/1952年)
plus comment 闘争の場
7.ローザ・パークス(42歳/1955年)
plus comment リスペクタビリティの政治
8.アンジェラ・Y・デイヴィス(25歳/1969年)
plus comment 理想追求の舞台としての大学
9.ハウナニ=ケイ・トラスク(43歳/1993年)
plus comment マイノリティの怒り
10.ルース・ベイダー・ギンズバーグ(45歳/1978年)
おわりに
関連情報
アメリカ ジェンダーの歩みと日本人女性研究者の連帯【和泉真澄】【坂下史子】【土屋和代】【 三牧聖子】【吉原真里】 (『公研』 2022年6月号)
https://koken-publication.com/archives/1521
書評:
山中美潮 (上智大学) 評 (『アメリカ学会会報』No.211、p.13 2023年4月30日)
https://www.jaas.gr.jp/wp23/wp-content/uploads/2023/05/211-2.pdf
吉川浩満 評「私の読書日記」 (『週刊文春』 2022年7月28日号)
https://bunshun.jp/articles/-/55997
治部れんげ 評「偉人の感動エピソード集に「しない」ことで問いかける」 (BookBang 2022年7月)
https://www.bookbang.jp/review/article/735049
幸脇啓子 評「存在すら知らないこと」 (nippon.com 2022年7月8日)
https://www.nippon.com/ja/japan-topics/bg900431/
書籍紹介:
坂下史子先生の共著書『私たちが声を上げるとき アメリカを変えた10の問い』が出版されました (立命館大学文学部国際コミュニケーション学域ホームページ 2022年6月21日)
https://ritsumei-isec.jp/news/402/
関連記事:
連載: 私たちの「虎」語り
フェミニズムを真正面から… ハワイでポロポロ泣いて見た「虎に翼」 (毎日新聞 2024年6月26日)
https://mainichi.jp/articles/20240624/k00/00m/040/024000c
講義・セミナー・イベント:
【講演会】著者と語るシリーズ『私たちが声を上げるとき アメリカを変えた10の問い』 (上智大学アメリカ・カナダ研究所 2023年7月20日)
https://dept.sophia.ac.jp/is/amecana/lecturemeeting/2230720-yoshihara/
『私たちが声を上げるとき』刊行一周年イベント (隆祥館書店 2023年6月10日)
https://note.com/ryushokanbook/n/ne2f0f76bf911
フェリスを綴る: 私たちが声を上げるとき (フェリス女学院大学 2022年9月6日)
https://magazine.ferris.ac.jp/20220906/16409/
三牧聖子×磯野真穂「“声”を上げるということ」『私たちが声を上げるとき』(集英社)刊行記念 (本屋B&B 2022年8月4日)
https://bookandbeer.com/event/20220804_ryv/
『私たちが声を上げるとき』(集英社新書)刊行記念 和泉真澄・坂下史子・土屋和代・三牧聖子・吉原真里トークイベント「私たちが声を上げたワケ」 (代官山蔦屋書店 2022年7月13日)
https://store.tsite.jp/daikanyama/event/humanities/27558-1644230701.html
公開セミナー「私たちが声をあげるには-アメリカの歴史から考える」 (同志社大学F.G.S.S.センター 2022年7月12日)
http://drc-fgss.com/2022/06/27/%e5%85%ac%e9%96%8b%e3%82%bb%e3%83%9f%e3%83%8a%e3%83%bc%e3%80%8c%e7%a7%81%e3%81%9f%e3%81%a1%e3%81%8c%e5%a3%b0%e3%82%92%e3%81%82%e3%81%92%e3%82%8b%e3%81%ab%e3%81%af%ef%bc%8d%e3%82%a2%e3%83%a1%e3%83%aa/