東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

クリームイエローの表紙にアルファベットで作られた模様

書籍名

触発するミュージアム 文化的公共空間の新たな可能性を求めて

著者名

中小路 久美代、 新藤 浩伸、 山本 恭裕、岡田 猛 (編著)

判型など

266ページ、B5判、並製

言語

日本語

発行年月日

2016年5月

ISBN コード

978-4-86555-025-2

出版社

あいり出版

出版社URL

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触発するミュージアム

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みる、とはどういうことか。漢字にしてみても、外国語にしてみても、多くの意味が「みる」にはある。学問領域を考えてみても、哲学はもちろん、認知科学、文学、動物学、医学、看護学など多様に広がる。人をみるのか、(生き) ものをみるのか、社会をみるのか、世界、宇宙をみるのか、対象によっても「みる」は変わってくる。
 
本書は、この「みる」ことの不思議を、ミュージアムという空間に即してとらえようとした試みの書である。情報学、認知科学、工学、デザイン学、教育学などの研究者、そして一線で新しい価値を生み出し続けるミュージアムの学芸員の共同研究をもとに編まれた。
 
ミュージアムにおいて何かを「みる」ことで (これは、視覚的にみることにとどまらない。視覚障害者のためのミュージアムや鑑賞プログラムもある)、私たちは既存の価値観をゆさぶられたり (何だこれはという驚き)、既存の価値観を追認して安心したり (有名な作品や可愛らしい動物はいつでも行列を呼ぶ)、誰かと楽しい時間を過ごしたり、様々な感覚を私たちにもたらしてくれる。そうした感覚の振れ幅は、ミュージアム空間の中で静かにものをみる、という歴史的に作られてきた振る舞いの中でどこか限定されたものになっていないか。もちろん、静かな「鑑賞」の可能性も考えられねばならないが、歴史を振り返れば、「驚異の部屋」(Room of Wonder, Cabinet of Curiosities) と呼ばれた近世以前のミュージアムは、古今東西の珍しい自然物、人工物が並べられた空間であった。訪れた人々は、コレクションの珍しさ、美しさ、グロテスクさに、声をあげ新たな発見をしたのではなかったか。
 
本書ではその感覚がゆさぶられる体験を「触発」と呼び、様々な「触発」を促す国内外のミュージアムの試み、その背景にある学芸員の努力を描き出している。世界中の学芸員は、先般「がん」と発言した閣僚の見識よりもはるか遠くを目指し、地道に研究をし、その成果をもとに市民の触発のしかけを探究している。学芸員は、過去、現在、未来においてものの価値を発見し、発信する「もの」の専門家でもあり、「触発」の専門家でもあるのだ。本書に収録された実践報告からは、学芸員の創意工夫の妙を垣間見ることができる。
 
本書はあえていえば博物館研究 (Museum Studies) の書という位置づけになる。この領域は歴史の奥行きを持ちながらも、本書にも多くの専門家が集ったようにアプローチは多様である。実践をベースにした学問領域の常ではあるが、過去から現在まで、関わる人の試行錯誤の積み重ねの上に成り立ってきた手作りの世界だといえる。その面白さも感じていただきたい。
 
また、本書には東京大学総合研究博物館の試みも掲載されている。東京大学は多くのミュージアムを有しており、また大学自身がミュージアムだともいえる。学生の皆さんはこれからその資源を存分に味わい、「触発」を受けながら新たな価値を生み出していくことだろう。
 
学芸員を目指す方、ミュージアムに関心のある方、「みる」ことの不思議を味わいたい方に、本書をおすすめしたい。
 

(紹介文執筆者: 教育学研究科・教育学部 准教授 新藤 浩伸 / 2017)

本の目次

Part1  理論的背景
  1  触発するコミュニケーションとミュージアム (岡田 猛)
  2  問題意識と触発する体験を支える機構 (中小路久美代)
Part2  ミュージアムの現状
  3  海外のミュージアムにおける展示の様態と触発する体験 (中小路久美代、山本泰裕)
  4  アメリカのミュージアム・エデュケーションの現状 (新藤浩伸、堀口裕美、岡田 猛)
  5  日本のミュージアム・エデュケーション (新藤浩伸、清水大地、清水 翔)
Part3  実践研究
  6  アーティストの作品創作プロセスを見せる美術展とその効果 (縣 拓充)
  実践報告1  子どもが、子どもでいられる場所: 教育普及の立場から企画した展覧会 (郷 泰典)
  実践報告2  子どもの触発体験とミュージアム: 文化の森賞の創設に関連して (可児光生)
  7  総合博物館としての市立函館博物館における鑑賞の様式と触発の連鎖 (川嶋稔夫、木村健一、山本泰裕、中小路久美代)
  実践報告3  函館圏域デジタルアーカイブプロジェクト: 触発するデジタルアーカイブ (川嶋稔夫)
  8  市立函館博物館 第3 展示室 情報ブース「未来」プロジェクトにおける共同制作 (川嶋稔夫、木村健一、山本泰裕、中小路久美代)
  実践報告4  創造性が芽吹く場に立ち会うよろこび: 中高生を対象とした長期プログラムの実践から (端山聡子)
  9  駒場博物館ダンスワークショップ「博物館で踊ろう! からだで鑑賞?」の実践とその効果 (中野優子、岡田 猛)
  実践報告5  コロガル公園シリーズ (会田大也)
  10 函館市立博物館におけるワークショップ実践研究 企画展『函館商人の人生模様』を用いた即興演劇ワークショップの実践とその効果に関する検討 (杉本 覚、岡田 猛、絹川友梨、川嶋稔夫)
  実践報告6  「実験場」としてのミュージアム (西野嘉章)
  11 現代美術で哲学対話 (宮田 舞、山内保典、岡田 猛)
  実践報告7  さんかく△テーブルへの招待: 科学技術をめぐる議論に参加する場としての科学館 (山内保典、八木絵香)
  12 ミュージアムでの学びを考える: アートを生み出す、アートに呼応する (カレン・クヌットソン、ケヴィン・クラウリー / 訳: 堀口裕美)
Part4  未来の文化的公共空間の構築のために
  13  文化的公共空間としてのミュージアム (新藤浩伸)