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森の写真の表紙

書籍名

イメージの人類学

著者名

箭内 匡

判型など

313ページ

言語

日本語

発行年月日

2018年4月17日

ISBN コード

9784796703734

出版社

せりか書房

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イメージの人類学

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本書の目的は、21世紀的な問題関心のもとで、人類学の学問的枠組を根底から再構築することである。人類学的実践は1990年代以来、人間社会の全体が経験してきた深い社会的・経済的・技術的変容に曲りなりにも応答すべく、根本的な変化を遂げてきた。その作業は既に大きな成果をあげてきている。しかし人類学者たちは、こうした自らの学問における変化が一体何を意味しているのかについて、深くは考えてこなかったように思う。一方、この学問の一般的イメージはいまだマリノフスキやレヴィ=ストロースといった20世紀の巨人たちの仕事によって支配されている。
 
本書での私の出発点は明確である。かつて人類学にとって最も強力な概念的道具であった「文化」と「社会」の概念は、今日的現実にはもはやそぐわないものであり、人類学はそれらを捨て去るべきだ、というものだ。それよりも、もっと断片的で、変わりやすく、流動的な今日的現実を反映する言葉が必要である。私はベルクソンが用いた「イメージ」の概念がこの目的に適うものだと考える。もちろん、すべてが断片的で、変わりやすく、流動的なわけではないから、「イメージ」の様々なレベルを考えなければならない。そこで私は、「脱イメージ化」、「再イメージ化」、そしてまた「社会身体」という概念を案出して、理論的な全体像を描き出した。読者の方々には、様々な図も手がかりにして、この枠組みが21世紀の人類学にふさわしい理論的地平を切り開くものであることを理解していただけるのではないかと思う。
 
本書における私の意図は単なる過去との決別ではない。むしろ本書の重要な点の一つは、この「イメージの人類学」がどれほど深く20世紀人類学に根ざすものであるかを示すことであった。もう一つ述べておきたいのは、本書の主要なメッセージは確かに理論的なレベルにあるけれど、他方で私の議論は随所に配置した様々な民族誌的事例と深く結び合っていることである。そうした事例——そこには映画やサッカー、インターネット上の空間、原子力施設なども含まれる——を読む中で、読者は現代人類学の方向性についてかなり分厚い理解を持つようになるのではないかと思う。
 
この本の表題は「イメージの人類学」だが、私の議論は、別の言い方をすれば「社会と文化の人類学」から「自然と身体の人類学」へのパラダイム転換を促すものでもある (その意味でこれはいわゆる「存在論的転回」ともかかわっている)。この点は本書の後半で重要になってくる。私はそこで、我々のイメージ経験を、ディナミスム、アニミズム、アナロジスム、客体化された <自然> という四つの自然観の組み合わせとして理解するとともに、そこから、メディアの問題、障害や環境の問題、また科学技術の問題など様々な現代的問題を考えていくための道筋を示したつもりである。
 
本書のカバー写真は森の木々に覆われている。この本が読者にとって、今日の人間の生という巨大な「イメージの森」に立ち向かっていくための、有益な道具箱となることを私はひそかに願っている。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 箭内 匡 / 2018)

本の目次

はじめに――人類学の変貌
 
第1章  イメージの人類学に向かって
1.1 「他なるもの」の肯定
1.2 <文化>、<社会> からイメージへ
1.3 イメージの転生――脱イメージ化と再イメージ化
1.4 感覚イメージとは何か――神経科学的観点から
 
第2章  民族誌的フィールドワーク――原点としてのマリノフスキ
2.1 自己を変化させること
2.2 マリノフスキと不可量部分の理論
2.3 マリノフスキとフラハティ
2.4 フラハティからルーシュへ――不可量部分の映画人類学
 
第3章  民族誌的フィールドワーク (続) ――転換期の一事例
3.1 中心のないフィールド
3.2 イメージで考える人々――儀礼的対話をめぐって
3.3 表と裏、ねじれ
3.4 力の場
 
第4章  イメージ経験の多層性
4.1 カントからカーペンターへ
4.2 脱イメージ化と再イメージ化――構造主義から何を学ぶか
4.3 再イメージ化のミクロ政治学――ラボヴの言語学
4.4 イメージ・言葉・文字
4.5 イメージ平面と人類学
 
第5章  社会身体を生きること
5.1 社会とは何か?
5.2 社会身体の構成
5.3 親族名称における言葉とイメージ――マプーチェの事例
5.4 社会身体のダイナミクス
5.5 イメージ・力・社会身体
 
第6章  自然のなかの人間
6.1 ディナミスム――自然の力を感じること
6.2 アニミズム――「多」へと向かう世界
6.3 自然の力と対話する
6.4 「戦争へと向かう社会身体」
 
第7章  アナロジーと自然の政治
7.1 自然のなかの照応関係
7.2 垂直性と水平性
7.3 アナロジスム的な経済
7.4 客体化された <自然>
 
第8章  近代性をめぐる人類学
8.1 国民国家の下での社会身体
8.2 客体化された <社会> ――経済学と存在論
8.3 タルド主義の可能性
8.4 イメージの政治、イメージの経済
8.5 枠をめぐる問題
 
第9章  自然と身体の現在へ
9.1 人類学の新たなヴィジョン
9.2 民族誌的フィールドワークの変容
9.3 脱身体化と再身体化
9.4 身体の人類学に向かって
9.5 自然と国家――ペルーの場合
9.6 技術・自然・身体
 
おわりに
「四つ」の自然観
人類学的直観
四つの時間性
「一回的なもの」と「反復的なもの」の間で
 

関連情報

参照ホームページ:
Tadashi Yanai’s virtual office 著作『イメージの人類学』(2018)
https://sites.google.com/a/anthro.c.u-tokyo.ac.jp/yanai/works/imageanthro2018
 
書評:
異質な世界を捉える学問のいま
好書好日 評者: 野矢茂樹氏 (朝日新聞掲載 2018年7月14日)
https://book.asahi.com/article/11679763
 
映像を通じて人類学を再構築ー「イメージ」の一語ははるかに厖大で多様な宇宙に開かれる
評者: 宇野邦一氏 (立教大学名誉教授・フランス哲学専攻) (週間読書人ウェブ 2018年8月17日)
https://dokushojin.com/article.html?i=4071
 
インタビュー:
『イメージの人類学』箭内先生に聞く (1) (せりか書房のブログ 2018年7月13日)
https://ameblo.jp/sericashobo/entry-12390489522.html
『イメージの人類学』箭内先生に聞く (2) (せりか書房のブログ 2018年7月13日)
https://ameblo.jp/sericashobo/entry-12390531037.html
 

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