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幕末・明治初期の白黒写真

書籍名

高精細画像で甦る150年前の幕末・明治初期日本 ブルガー&モーザーのガラス原板写真コレクション

判型など

344ページ、A4変型判

言語

日本語

発行年月日

2018年2月21日

ISBN コード

9784800314079

出版社

洋泉社

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幕末・明治初期の白黒写真

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本書は、オーストリア=ハンガリー帝国の東アジア遠征隊 (1869年来日) に随行した写真家ヴィルヘルム・ブルガー (Wilhelm Burger,1844-1920) と、その弟子ミヒャエル・モーザー (Michael Moser,1853-1912) のガラス原板ネガ・コレクションに含まれる日本関係の写真画像など約270点を収録した写真史料集である。史料編纂所附属画像史料解析センターの「古写真研究プロジェクト」がおこなった共同研究の成果として刊行された。
 
ブルガーコレクションは、オーストリア国立図書館 (ウィーン市) が所蔵している。一方、モーザーコレクションは、帰国後に彼がスタジオを構えたオーストリア中部バートアウスゼー市 (Bad Aussee) のカンマーホフ博物館 (Kammerhof Museum) で管理されている。ミヒャエル・モーザーは数年間日本に滞在し、英字新聞ザ・ファーイーストのカメラマンもつとめており、同紙に貼付された写真の原板も多く含まれている。
 
コロジオン写真のガラス原板ネガには、銀の粒子レベルの高精細画像が含まれている。撮影された当時の写真焼付 (アルブミンプリント) は、ガラスネガへの密着プリント方式であったため、原板ネガと同サイズのポジ画像が得られるに過ぎなかったが、ガラス原板を透過光によりデジタル撮影した画像データは、ズーミングすることによって、当時の撮影者が考えもしなかった細部に至るまで観察することが可能になった。本書では大きくズームアップした画像を随所に掲載し、どのような情報がどこまで読み取れるかを試みている。
 
ガラス原板ネガには、原板のみに残された独自の情報がある。ガラス原板には、撮影者独自の薬剤の工夫や修整の仕方が残されており、周辺部の留め具の跡や指紋など、プリント作成時にはトリミングしてカットされるさまざまな痕跡を観察することが出来る。本書ではこうした情報をリスト化して記録している。
 
ガラス原板ネガが譲渡や売買の対象だったことも、今回のコレクションの解析によって明らかになってきた。ブルガーやモーザー自身が撮影した写真に加え、コレクションには、上野彦馬 (うえのひこま、1838-1904)・下岡蓮杖 (しもおかれんじょう、1823-1914)・内田九一 (うちだくいち、1844-1875) など、国内にはほとんど存在しない日本人写真家の原板も多く含まれていた。ガラス原板が写真家たちの間でやり取りされていたのである。撮影者や撮影時期を特定する際には、より厳密な検証が必要となる。本書でも撮影者や撮影時期については、出来る限りその根拠を明示するようにつとめている。
 
江戸・長崎を写した最古の画像、壊れゆく大名屋敷、極限までズームアップして読み解いた町名札や晒首の罪状書、清水寺から見える京都の街並みなど、遠景や細部を拡大する面白さが満載されている。あるいはズームアップで見えてきた相合い傘の落書きなどは、当時の社会風俗を知る貴重な史料となるだろう。幕末・明治初期 (1850年代末~70年代) の高精細な写真画像をさまざまな分野の方にご活用いただきたい1冊である。
 

(紹介文執筆者: 史料編纂所 教授/所長 保谷 徹 / 2018)

本の目次

はじめに――二つの「ガラス原板ネガ」コレクションと
古写真研究プロジェクト――保谷 徹

【第I部】甦る幕末・明治初期日本の原風景

江戸・東京
日本橋/愛宕山/芝・増上寺/浜離宮/江戸城/神田・御茶ノ水/本所・深川/
浅草/王子/高輪・その他

COLUMN1:明治初期に現存した謎の「三階建」建築の正体とは?――角田真弓

<内田九一写真館>

横 浜
横浜駅/元町・居留地/中村川・石川/山手/本牧・根岸/金沢

COLUMN2:鉄道開業時の姿が甦る横浜ステンショと陸蒸気――小野田 滋

<下岡蓮杖写真館>

神奈川
横須賀/浦賀/鎌倉/江ノ島/小田原/箱根

静 岡
富士山:須走口の富士山/伊豆下田:武山から見た下田の町並み、武山と下田の
町並み、柿崎弁天島、下田周辺か

大津・京都・神戸
滋賀・大津:三井寺観音堂から琵琶湖を望む/京都:清水寺山門奥からの風景、
清水寺入口と子安塔、清水坂、八坂神社、黒谷金戒光明寺、五条大橋/神戸:
生田神社

COLUMN3:神戸の写真師・市田左右太とブルガー&モーザーコレクション――田井玲子

長 崎
長崎:出島と長崎の町並み、出島と梅ヶ崎留地、英国領事館と長崎出島、大浦居
留地、本蓮寺/朝鮮人漂流民

<上野彦馬写真館>

【第II部】ブルガー&モーザーコレクションの風俗・人物写真

博覧会・博物館の展示品
ウィーン万博出品物/ドイツ東洋文化研究協会(OAG)/山下門内博物館

COLUMN4:英国士官・殺害犯の獄門首――歴史的事件を記録した貴重な1枚――保谷 徹

ブルガーコレクションの写真

COLUMN5:「雪駄直し」と「靴直し」の間――被差別民衆の稀有なカット――西木浩一

モーザーコレクション
  月光写真

10  母国オーストリア
  ウィーン万博/東アジア遠征隊/モーザーのアトリエ


【解説1】
オーストリア=ハンガリー帝国東アジア遠征隊と
ブルガー&モーザーコレクションの成立過程――ペーター・パンツァー、宮田奈奈

【解説2】
ブルガー&モーザーのコロジオン・ガラス・ネガ・コレクションに
見る日本イメージの形成――谷 昭佳

・掲載写真一覧(ガラス原板のみ)
・ブルガーコレクション所蔵別の基本データ
・モーザーコレクション基本データ
・参考文献一覧・研究経費一覧
・本書編者及び協力者一覧と謝辞
・編者・本書執筆者の経歴
 

関連情報

書籍紹介:
TOPICS 幕末明治の写真をデジタル再生 文書資料補う鮮明さ ガラスネガから270点 (毎日新聞 2018年4月1日)
https://mainichi.jp/articles/20180401/ddm/014/040/012000c
 

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