東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白い表紙と、頭上にモヤモヤがある人の写真

書籍名

創造力を鍛える マインドワンダリング モヤモヤから価値を生み出す東大流トレーニング

著者名

中尾 政之、 上田 一貴、井熊 均、木通 秀樹、劉 磊

判型など

152ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2017年2月

ISBN コード

978-4-526-07674-9

出版社

日刊工業新聞社

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創造力を鍛える マインドワンダリング

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誰でも創造できるようになりたい。それは頭を絞って考え尽くせという精神論で解決できる話ではない。そこで、現在、ブームとなっている脳科学を使って、創造できるような状態を脳の中に作ってみることにした。実際に、設計中に新規なものを思いつくときの脳の状態を、脳波やMRIで測定してみた。その創造中のプロセスは、マインドワンダリング (心の彷徨) の状態である。言い換えれば、ぼんやりとして心がさまよっているような、モヤモヤしている状態である。これまでは、そのような状態は「心の空回り」で「時間の無駄」と言われ、小学校以来、「集中するか、または睡眠するか、どっちかにハンドルを切っておくのが最も効率的な生き方と教えられてきた。しかし、過去の発明、発見、チャンスの獲得、リスク回避などの事例を見るかぎり、通勤途中に寄り道して公園を散歩したとき、食事中にボーっと座っていたとき、飛行機の中で雲を見ていたとき、トイレの中でため息をついていたとき、などに設計解に気付くことが多い。そのとき、脳の中では、多くの記憶を脈絡なく総動員させて、何かを考え出しているのである。しかし、設計解のぼんやりした概要を見つけたとしても、次はそれを自説として述べ、仮説立証して他人に証拠をみせなければいけない。夏目漱石が、「考えよ、述べよ、行へ」とロンドン滞在中の日記の中で書き、仮説立証の成果として「吾輩は猫である」を創造した。自宅で猫をボーっと見ながら、猫にのりうつって視点を変えたときに、自分たち人間はどのように見えるのだろう、という仮説を思いついて、小説に仕上げたのであろう。これは、出来上がったものを分析するだけのイギリス文学の研究者では、絶対に出てきそうもない仮説である。心の持ち方で人生は変わる。
 

(紹介文執筆者: 工学系研究科 教授 中尾 政之 / 2019)

本の目次

はじめに

目  次

序 章 自説形成/自己実現には準備期間が必要だ
1 創造力を脳科学で分析し始めた
2 アブダクション(abduction、仮説推量) を試みてみよう
3 創造すると人生が楽しくなる
4 モヤモヤから何か引き出してみよう
コラム1 チャレンジャーにはモヤモヤが必要だった
   1 志を想い起こしベンチャー上場へ
   2 才能が開花しNPO代表に
   3 10年の時を経て実現したインキュベーション
   4 農業への志が拓いた農業再生への道
   5 自己実現を実現する人生を送りたい
   6 「自己実現欲求」への茨の道
   7 自己実現の達成が企業と日本の将来を決める
   8 企業価値を高める経営
   9 自己実現応援経営/政策

第1章 積極的に脳から自説を出力しよう
1 東大生は勉強に集中して、知識を脳に入力することに長けている
2 21世紀になるとお手本がなくなり、創造が必要になった
3 ちょっと息を抜いて創造してみよう
4 日々の仕事の中に創造する時間を作ろう
コラム2 東大生は反復継続の仕事が得意?!
   1 東大生は内向的・独善的で反復継続の仕事に最適
   2 東大生に内向的・独善的な性格の子が集まるのは受験勉強のせい?
   3 心を折られる技術者
   4 「秀才」の意味
   5 「心ある秀才」が発想家を育てる

第2章 マインドワンダリングしながらモヤモヤをノートに書き留めてみよう
1 イノベーションや創造を生み出す“お作法”を知りたい
2 イノベーションや創造を生み出すまでの時間は長い
3 設計の目的まで遡ると、別の設計解が見つかる
4 困ったときは、設計過程の上流に遡って考え直せ
5 要求機能を列記したあとに、設計解を考える
6 設計の上流になるほど、アブダクションが求められる
7 アブダクションで思考をジャンプさせる
8 呼吸を数えるうちにマインドワンダリング状態に入っていく
9 自説形成法を教育で用いてみよう
コラム3 東大生よりもワトソン君のほうが賢くなる?!
   1 恐ろしい速度でAIが進化している
   2 人間は意志を持つから面白いし、そこがコンピュータとは異なる
   3 企業の中ではすべての人間が優先的に意志を示せるわけではない

第3章 創造的思考の科学的アプローチ
1 閃きはどのようにして生まれるのか?
2 あなたの無意識を可視化する脳科学
3 脳のいろいろな思考状態を可視化する
4 創造的思考時の脳活動を測ってみると
5 創造性とはものを結びつける能力である
6 創造性の源泉をマインドワンダリングで活性化
7 世界のエグゼクティブが瞑想にはまるわけ
8 楽しんでマインドワンダリングをしよう
コラム4 自分の脳波をモニタリングして、脳をコントロールしよう
   1 自分の脳の状態を簡単にモニタリングする
   2 ニューロフィードバックで自分の脳をコントロールする
   3 集中しているとき、瞑想しているときの脳活動をモニタリングする

第4章 物を描き、本を読み、人に会い、事を計り、旅に出て、運を占おう
1 違和感や感動が思考の起点になる
2 キッカケを起点に思考を進めて、設計解候補を準備する
3 何も考えることがなかったら、とにかく外に出てみよう
4 ほかにも、キッカケを得る方法がある
5 違和感を捉えられない人は“まさか”の失敗を“想定外”と呼ぶ
6 短期間の講習会で自説形成に磨きをかけられないか

第5章 自説形成のキッカケを研修で掴もう
1 非日常で掴む自説へのキッカケ
2 第一歩は日常の中の非日常の発見
3 自説形成のプロセスと機能分解
4 スティーブ・ジョブズの自説形成プロセス
5 5つの基盤能力を自己認識し、呼び起こす手段
6 5つの基盤能力を研修で体験し、修行の疑似体験をしよう
7 キッカケを掴む「基盤のトレーニング」
  (1) 感性基盤トレーニング
  (2) 情報基盤トレーニング
  (3) 価値観基盤トレーニング
  (4) 経験基盤トレーニング
    (5) 手法基盤トレーニング
8 脳の基盤の見える化
9 トレーニングで日々の生活をキッカケの場に
コラム5 自説の価値を理解してくれるまで他人に説明する
   1 ニーズ発想の幻想
   2 教えられたことを確実に行う秀才が横並びを生み出す
   3 差別化を考えたことがない秀才
   4 偉大な商品はイメージから生まれた
   5 未来のニーズを捉える
   6 ニーズ型開発とプロダクトアウト型開発の究極の一致
   7 どうすれば未来のニーズを捉えられるか
   8 未来のニーズはなぜ企業の中で認められたのか
     9 官僚を増やし過ぎた日本企業
  10 未来型商品を開発できるようになるための3つの取り組み
  11 インキュベーション・コンソーシアムでの体験
  12 技術とマーケティングの両方を経験する

第6章 自説を作って一歩踏み出せば創造が近づいてくる
1 自説を作れば、それがイノベーションや創造に直接、繋がるのか
  (1) ニーズ主導型:顧客から要求機能を提示されたときに、設計解として、たまたま過去に考えていた自説が流用できる場合
  (2) 交渉補正型:イチオシの自説を顧客に提示し、顧客の顔色を見ながら変更・補正していったら、顧客も譲歩して要求機能を多少、補正してくれて、その結果、両者が満足する設計解を選出できた場合
  (3) シーズ主導型:イチオシの自説に投資してくれそうな人を探し、熱心に自説を説明し、その熱意に負けた顧客を強引にプロジェクトに引きずり込んでビジネスにつなげる場合
2 日本のイノベーションや創造に合う方法は交渉補正型である
3 自説をたくさん考えてニーズ主導型のビジネスを進めよう
4 自説が本当にイノベーションや創造を生んで、価値に変換できたか
コラム6 一流の経営者は皆、確固たる自説を持っている
   1 成功者は変わっていない
   2 成功者は多趣味である
   3 20年かけて培った趣味には価値がある
   4 救いを感じる偉大な経営者の生き様
   5 誰にでも偉大な経営者と同じ種子がある

終 章 自説形成の方法を習得すれば、歳を取ってもアイデアを創出できる
1 考えるのが楽しくなったらシメタものである
2 歳をとるほどアイデアが出る
3 筋肉は衰え、頭は冴える
4 脳の機能を高めたと思われるトレーニング
5 結局は向上心ということ

索引
 

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