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書籍名

古代・中世の地域社会 「ムラの戸籍簿」の可能性

著者名

大山 喬平、 三枝 暁子 (編)

判型など

544ページ、A5判、上製

言語

日本語

発行年月日

2018年9月

ISBN コード

978-4-7842-1946-9

出版社

思文閣出版

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古代・中世の地域社会

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本論集は、大山喬平氏のもとで2009年に結成された、「ムラの戸籍簿」研究会の活動から生まれた。「ムラの戸籍簿」とは、日本古代・中世の文献史料上にみえる郷・村の初見事例を国別・郡別に集積した「郷村表」と、各国の初出事例数を世紀別・郡別に表現した「郷村名郡別世紀別初出表」の2つからなるデータベースを指している。すなわち、民衆の生活の基盤である郷・村 (=ムラ) が、いつ生まれ (=史料上の初見事例の集積)、近世村にどのように接続するのか、あるいは消滅するのかを記録する「郷村表」を、出生から死亡までを記録する人間の戸籍にたとえて「ムラの戸籍簿」と呼び、これを各国ごとに作成していくため結成されたものが「ムラの戸籍簿」研究会であった。
 
本論集では、現在完成している国の「ムラの戸籍簿」データベースのインターネット上での公開 (https://drfh.jp/mura) を前提に、「戸籍簿」作成者による各国の古代・中世のムラの特質を明らかにした論稿を掲載している。また、「ムラの戸籍簿」研究会のとりくみに共感を寄せ、当会主催のシンポジウムにご登壇いただくなど、様々な機会にご協力・ご支援くださった古代・中世の村落史研究者による論稿も掲載している。具体的には、序章において、各論稿の土台となっている「ムラの戸籍簿」の概要を説明したうえで、第一部では、ムラを包摂する地域社会の構造、あるいはムラをめぐる支配秩序に関する論稿9本を載せている。続く第二部では、ムラの存在を浮かび上がらせる神仏をめぐる世界や、ムラの生活・環境に着目した論稿9本を載せている。そして最後に、編者による展望を示した一文を掲げている。
 
「ムラの戸籍簿」は、列島社会に展開した民衆社会のひろがりとその内実を明らかにすることを可能にする、村落史あるいは民衆史研究のための重要な道具である。本論集を読めば、「ムラの戸籍簿」によってたどることのできるムラの盛衰に、民衆世界における生業と祭祀の形成のみならず、政治史の展開や自然災害の発生も深く関わっているという事実が見えてくる。68か国にわたる「ムラの戸籍簿」を完成させていくことは容易なことではなく、道半ばで編んだ論集であるが、市町村合併や災害等により、ムラが消滅の危機を迎えつつある現在、民衆の生活とその基盤をいかに守り存続させていくべきか、ぜひ本論集をご一読いただきお考えいただければ幸いである。
 
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 准教授 三枝 暁子 / 2019)

本の目次

刊行にあたって
序章 (研究会事務局)
 
I 地域社会の構造と支配秩序
  伊予国の郷と村 (山内 譲)
  古代越後国古志郡内の「村」とその後―近年出土の木簡史料から (小林昌二)
  伊賀国名張郡の村―平安期の村とその展開 (鎌倉佐保)
  中世紀ノ川流域における「村」の出現と変遷―高野山領官省符荘の場合 (木村茂光)
  厳島社領安芸国久嶋郷の刀禰とムラ (村上絢一)
  紀伊国の郷―名草郡日前宮領を中心に (川端泰幸)
  中近世における下野国の郡域変動 (花田卓司)
  武蔵国中村氏の神領支配と西遷 (三枝暁子)
  備作地域における「名」 (吉永隆記)
 
II 神仏とムラをとりまく環境
  近江国中世史料に見る「村人」の存在形態―「村人」はどこで何をしていたか (谷 昇)
  筑後国の郷村―大善寺玉垂宮関係文書から (門井慶介)
  中世三河の寺社境内と村落 (服部光真)
  伊勢国の八王子社と村―二つの神事頭番帳から (伊藤哲平)
  神社膝下の「ムラ」とその歴史的展開―周防国松崎社及び十月会との関係を中心に (松井直人)
  経塚・造仏・写経と民衆仏教 (上川通夫)
  浦から見た中世の地域社会 (春田直紀)
  村の生業と呪力―上野国赤城山南麓の村 (山本隆志)
  和名抄郷の持続性と自然頭首工 (海老澤衷)
 
あとがきにかえて―往時茫々 「ムラの戸籍簿」と『東大寺領美濃国大井荘』のこと (大山喬平)
索引 / 執筆者紹介
 

関連情報

「ムラの戸籍簿」データベース:
https://drfh.jp/mura
 
書評と紹介:
廣田浩治 評 (『日本歴史』第859号2019年12月号 2019年12月1日)
http://www.yoshikawa-k.co.jp/news/nc3890.html
 
書評:
田村憲美 評 (『LINK 神戸大学大学院人文学研究科地域連携センター年報』第11号 2019年12月)
 
坂田 聡 評 (『史学雑誌』第128編第10号 2019年10月20日)
http://www.shigakukai.or.jp/journal/index/vol128-2019/#back_10
 

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