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青の和紙

書籍名

戦国史研究会史料集 7 足利義視・足利義稙文書集

著者名

木下 聡

判型など

124ページ

言語

日本語

発行年月日

2019年2月

ISBN コード

9784908264061

出版社

戦国史研究会

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足利義視・足利義稙文書集

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本書は、室町幕府第10代将軍で、数ある征夷大将軍の中で唯一二度就任した足利義稙と、その父で、応仁の乱の一方の当事者となった足利義視 (8代義政の弟) の発給した文書を集成した史料集である。室町幕府の研究は、相対的に後半期、特に戦国期にかかる時代が手薄である。なぜかというと、そもそも戦国期の中でも室町幕府について興味が持たれず、1990年代頃まで研究の蓄積がされてこなかったことが一番大きいが、研究するにあたって基礎となる史料集が乏しいことも一因である。こうした背景のもと、研究に資するため、これまで8代足利義政・9代義凞 (義尚) の発給文書を二冊にわたって発刊しており、本書はその続刊に位置付けられる。室町幕府関連の史料集としては、今谷明『室町幕府文書集成』がよく知られているが、これは奉行人が出した連署奉書のみで構成されており、将軍や管領の出した文書を集積したものは無かった。その意味でも本書のシリーズは画期的であり、重要と言えよう。

本書の内容は、義視の発給文書21通、義稙の発給文書341通を収録し、付録として、義稙の後継者である足利義維と、その子で14代将軍となった義栄の発給文書それぞれ3通と2通も収録している。ただ、この発給文書数は果たして多いのか、少ないのか、これだけではピンとこないだろう。例えば有名な戦国大名である織田信長が発給した文書は、現在確認されている分で約1400通にのぼり、羽柴秀吉が約7000通、徳川家康が約3800通確認されている。他にも武田信玄などは約1500通出している。室町幕府の将軍全体でいえば、最も多いのが初代尊氏で、次に2代義詮となり、共に千通を超える。その次は、3代義満と8代義政で約800通、そして12代義晴と15代義昭が約500通となり、義稙は少ないほうである。しかも義稙文書で現在も出された当時のままで伝来しているのは、三分一ほどしかない。

とはいえ義稙の活動時期は、明応二年 (1493) の明応の政変や、義稙と義澄 (11代) の二人の将軍への分裂など、室町幕府が大きく衰退する転換期でもあり、室町幕府や各地の大名との関係性を考える上で非常に重要である。義稙が二度目の将軍の座につく後半生の政治状況は、『大日本史料』によりある程度追えるが、同書はその性質上、項目として立てられた案件に関する史料しか載せられていないため、義稙や幕府を考える上では十分ではない。それ故に本書のような発給文書を集積した史料集の刊行は、大きな意義を有すると言えるのである。

 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 助教 木下 聡 / 2019)

関連情報

書評:
末柄 豊 評 (『古文書研究』88号 2019年12月)
http://komonjo.net/content/journal.html

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