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ネイビーブルーの表紙

書籍名

Rural Worlds Rockites, magistrates and parliamentarians Governance and disturbances in pre-Famine rural Munster

著者名

Shunsuke Katsuta

判型など

178ページ

言語

英語

発行年月日

2017年8月24日

ISBN コード

9781472478993

出版社

Routledge

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学内図書館貸出状況(OPAC)

Rockites, magistrates and parliamentarians

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1820年代前半のアイルランド農村地帯において、大規模な一揆が発生した。この一揆は「キャプテン・ロック」という架空のリーダーに率いられていたため、一揆勢はロッカイツ (ロックのしもべ) と呼ばれた。18世紀から19世紀にかけてのアイルランドでは農村一揆が頻発したが、ロッカイツ一揆は、暴力と組織性、政治観念の極端さ、そして政府による弾圧の激しさにおいて、特筆すべき存在と言える。
 
ロッカイツは、「キャプテン・ロック」の名において村掟を布告し、それに違反した人間に脅迫状を送ったり、その家に放火したり、所有する家畜を傷つけたり、あるいは本人に暴行を加えたり殺害したりするなどの行為を夜間に各地で行った。こうした振る舞いはアイルランドの農村一揆に通例のことだったが、ロッカイツの場合、首都ダブリンに存在した秘密結社が農村部に持ち込まれて組織が浸透していたため、一揆は前例のない規模で広がることになった。それだけでなく、ロッカイツはカトリック農民として「プロテスタントを虐殺する」ための一斉蜂起を計画し、そのための武器を製造してもいた。当時のアイルランドでは、土地および都市行政の実権は大部分がプロテスタントの手中にあり、またダブリンの中央政府のメンバーもプロテスタントであった。従って彼らの構想は一種の社会革命を意味した。こうした荒唐無稽とも言える構想を支えたのは、数年のうちに超自然的な出来事が起こって社会秩序が転覆すると告げる千年王国的な預言の流行であり、またアイルランド史における革命の時代だった1790年代の反乱――革命フランスの援軍のもと、「アイルランド共和国」を建国しようとした――の記憶であった。
 
このようなロッカイツに対して、中央政府および農村の地主階層は厳しい姿勢で臨んだ。軍隊がグレートブリテンから派遣されて警察と共同で毎晩のパトロールを行い、全土で数千人を逮捕した。うち数百人がオーストラリアに流刑となり、処刑された者も数十人に達した。こうした一時的な措置だけでなく、中央政府は警察を強化し、同時に司法制度を改革するなど、アイルランド農村の統治改革を開始した。これは、アイルランドの地方統治における名望家支配の終焉と官僚的中央集権化の第一歩を画する。
 
この時期のアイルランドは、グレートブリテンと連合王国をなしており、一揆などのアイルランド問題は、連合議会において野党が政府を攻撃する格好の材料となった。このため連合王国政府は、上記の警察・司法制度改革に加えて、懸案事項だった教会税の改革を実現することで、機先を制して批判を封じようと試みた。この点でロッカイツの一揆は、アイルランド史における「改革の時代」の口火を切ることにもなったのである。
 
こうした広がりを持つロッカイツとその生きた時代について、本書は、アイルランド、イギリス、アメリカの文書館において、警察関係史料や地主の所領記録、政府関係者の所管などを手広く調査し、一部に未開拓の史料も活用することで、実像に迫ろうとするものである。

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 勝田 俊輔 / 2019)

本の目次


第一章  農村社会とロッカイツ
第二章  ロッカイツの組織と活動
第三章  ロッカイツの政治性
第四章  ロッカイツと統治
結論  歴史におけるロッカイツ
 

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