東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

赤、黄色、紫、青のカラフルな表紙

書籍名

New Liberal Arts Selection 社会心理学 補訂版

著者名

池田 謙一、唐沢 穣、工藤 恵理子、 村本 由紀子

判型など

502ページ、A5判、並製カバー付

言語

日本語

発行年月日

2019年3月

ISBN コード

978-4-641-05387-8

出版社

有斐閣

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社会心理学 補訂版

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人は誰しも朝から晩まで、常に「社会」と関わり合いながら生きています。たとえば、目が覚めてすぐにスマートフォンに手を伸ばし、世の中で起きている最新の出来事を知ること。一緒に暮らす家族、もしくはSNSでつながっている誰かと、その日の最初の会話を交わすこと。通勤・通学の途上で、たくさんの見知らぬ人々の間を縫うように歩くこと。学校や職場で、仲間と協力し奮闘すること。人間関係に悩むこと。会議の場で組織の意思決定に参加すること…。私たちの経験の多くが、他者と直接・間接に交流をすることによって形づくられます。さらに、独りで過ごしている時間でさえ、人の心は社会と不可分の関係にあります。他者の目から逃れてリラックスできると感じるのも、逆に他者との繋がりを実感できず孤独だと感じるのも、社会との関わりの中に生きていることによって初めて立ち現れる感情だからです。人が「社会的動物」と言われるゆえんがここにあります。
 
社会的動物たる人の心のありようを探究する学問、それが「社会心理学」です。ここでは、人のあらゆる社会行動が研究対象となり得ます。また、アプローチのしかたも多様です。社会心理学の諸研究は、神経科学や認知科学と幅広い接点を持ち、個人の脳内の基礎的プロセスを解き明かそうとする一方で、政治・経済・教育・組織といった社会環境の諸問題を扱う社会科学の領域とも深く結びついています。このように、心の中のメカニズムに関する精緻な基礎研究と、実社会における人々の諸活動に焦点を当てた社会実装的な研究とが交わり、豊かな成果をもたらす領域、つまり「黒潮と親潮の潮目のような海域」(本書はしがき, p.iii) こそが、社会心理学の占める位置なのです。
 
本書は、社会心理学が扱う広い海域の全体像をできるだけクリアに俯瞰できるようにすること、同時にその海の豊かさと多様性をできるだけ損なわずに伝えることを目指した一冊です。広範囲を網羅しようとすると、ともすればトピックスの平板な羅列になりがちですが、そうならないよう、全体を貫くストーリーにこだわりました。そのため、企画のスタート時からほぼ4年間、定期的に4名の著者全員が有斐閣編集部に集って議論し、内容を詰めていきました。さらにメールでも、400通近いやり取りを繰り返しました。こうして2010年に刊行された初版から約9年の時を経て、このたび内容の一部を更新した補訂版を送り出すことになりました。
 
本書の序章は、次のような文章で結ばれています。「社会心理学の海は、アーチペラゴ (多島海) にさえも感じられる。多様さに恵まれた海である。そこへ漕ぎ出したときに何が見えるか、私たちにどんな働きかけが可能か、楽しみに先へ先へと読み進めていただきたい。順風に恵まれますように」(本書序章, p.10)。
 
社会心理学に関心を持つ多くのみなさんに、その「アーチペラゴ」の最初の地図として、本書を手に取っていただければ幸いです。そして是非、ご自身の関心に応じて気になる「島」を見つけ、さらなる探究を続けていただくことを願います。
 
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 村本 由紀子 / 2019)

本の目次

序 章
第1部 人や社会をとらえる心の仕組み
 第1章 社会的認知の基礎的情報処理プロセス──社会的認知・自己と他者
 第2章 感じたことの影響過程──気分や感情や主観的感覚の影響とその利用
 第3章 心と行動をつなぐ自動的過程──意識されない (できない) 心の働き
 第4章 自己──“私”を作り上げる仕組み
 第5章 他者に対する認知・推論──他者を見る目とはどのような目か
 第6章 態度と態度変化──感じ考えたことが行動となって現れる
 
第2部 社会関係から集団・ネットワークへ
 第7章 対人関係──「人の間」と書いて人間と読む
 第8章 集団の中の個人──認知と行動におよぼす集団の影響力
 第9章 集団間の関係──偏見,ステレオタイプ,差別行動の原因と解決方法
 第10章 コミュニケーション──伝えること,受けとめること,つながること
 第11章 ソーシャル・ネットワーク──人と人のつながりは何を生み出すか
 
第3部 社会,組織,文化の中の個人
 第12章 マスメディアとインターネット──巨大に見える影響力はどこまで実像か
 第13章 参加と信頼──社会を動かす
 第14章 世論と社会過程──社会の流れを読み,これにかかわる
 第15章 消費者行動・環境行動──消費すること,環境に配慮すること
 第16章 組織と個人のダイナミクス──組織行動論の展開
 第17章 集合行動とマイクロ=マクロ過程──群れをなす人々
 第18章 心の文化差──異文化間比較の視点
 第19章 心と文化の相互構成──文化を生きる,文化を創る
 
 

関連情報

書評:
小寺敦之(2010)手元に置いて研究を始める道標-「社会心理学」の旅先案内 (『週刊読書人』2010年12月10日号)
 

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