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白と緑の表紙

書籍名

日本の農業 第250・251集 縮小再編過程の日本農業 2015年農業センサスと実態分析

判型など

250ページ

言語

日本語

発行年月日

2018年3月15日

ISSN コード

0546-1057

出版社

一般財団法人農政調査委員会

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学内図書館貸出状況(OPAC)

縮小再編過程の日本農業

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本書の目的は、農業センサスの分析と農村の現地実態調査を組み合わせることで、日本農業の構造変動を正確に把握し、今後の方向を明らかにすることにある。農業センサスとは、農業の「国勢調査」にあたるものであり、5年に1回、農業経営体の全数調査を行うものである。近年、このセンサスの分析の有効性に限界が生じている。例えば、ある集落で、全農家が参加して集落営農法人が設立されると、統計上、その集落には1つしか農業経営体が存在しないことになり、地域社会の構造が全く把握できないという問題が発生している。ある集落の農地が、別の集落の大規模農業経営に全て集積された場合も同様の問題が生じてしまう。また、農業経営体に関する調査情報は少なく、日本の農業・農村の姿を把握できないという問題も大きくなっている。そのため集落営農への農地集積が進んでいる地区の現地実態調査による補完が不可欠なのである。本書は、そうした学術研究上の課題に応えたものでもあり、基盤研究 (B)「農業構造変動に関する総合的研究―センサス分析と実態調査分析の接合―」(平成27~30年度) による共同研究の成果である。
 
統計上の数字と現実との乖離が大きくなったのは、構造再編の進展を検出した2010年センサスであった。2007年の品目横断的経営安定対策で導入された規模要件に対応するため集落営農が急増したことによる。そのため統計上の構造変動を鵜呑みすることはできず、特に集落営農の設立が著しく進んだ地域については現地調査によって把握した実態を踏まえて評価しなければならなくなった。その結果は、政策に対応するために設立された集落営農が構造再編の進展を演出したというのが結論であった。
 
2015年センサスが検出した統計的事実は、2010年センサスとは一変し、日本農業の縮小再編が、地域差を有しながら進んでいるということである。農業経営体と農業労働力の減少だけでなく、経営耕地面積も大きく減少するという衝撃的な結果となった。もちろん、一部の地域では大規模経営への農地集積が進み、構造再編は進展しているのだが、日本農業全体としてみると縮小過程に転じたということである。この事実は、これまで進められてきた構造政策の見直しを迫るものでもある。
 
こうした全国統計分析に加え、各地域の構造変動の特徴を統計と実態の両面から描いた点―東日本大震災の津波被災地域を抱えつつも構造再編が進んでいる宮城、政策対応のために急増した集落営農が徐々に変容を遂げている秋田、構造変動の主役が集落営農から個別経営体にシフトしている茨城、政策の影響を受ける以前から地域農業の組織化に取り組んできた新潟・中越の到達点、農地集積進展地域・富山の担い手の実情と直面する問題、農地流動化が進み「集落営農のジレンマ」という事態の回避が課題となっている滋賀、カントリーエレベーター単位での大規模な集落営農の設立が進み、統計と実態の乖離が著しい佐賀―に本書の特徴がある。
 
日本の農業構造の将来を展望するのに、また、農村の現場で生じている動きを把握するのに役に立つのが本書である。こうした関心を持つ方に手に取っていただければ幸いである。
 

(紹介文執筆者: 農学生命科学研究科・農学部 教授 安藤 光義 / 2019)

本の目次

はじめに―本格的な縮小再編に突入した日本農業― (安藤光義)
 
第一章  2015年センサスにみる農業構造変動の特徴と地域性―水田農業の担い手形成と土地利用の変化に着目して― (橋詰 登)
 
第二章  東北・宮城県における農業構造変動―津波被害と集落営農組織の展開に焦点を当てて― (渡部岳陽)
 
第三章  秋田県における水田農業の構造変動 (中村勝則)
 
第四章  茨城県における農業構造変動の現段階―個別経営が主導する構造変動への復帰― (西川邦夫)
 
第五章  新潟県中越地域における大規模水田作経営の展開構造―長岡市旧越路町・旧三島町を事例に― (平林 光幸)
 
第六章  北陸・富山における構造変動 (小柴 有理江)
 
補論  農地流動化政策・構造政策の終焉を示唆―新潟、富山のセンサスおよび実態分析のコメント― (吉田 俊幸)
 
第七章  近畿地方の農業構造の変化―滋賀県における純土地持ち非農家多数派化の要因と対応― (伊庭治彦)
 
第八章  九州水田農業における農業構造変動と集落営農の展開 (品川 優)
 
おわりに―本書の要約― (安藤光義)
 

関連情報

講演:
『日本の農業』第250・251集刊行記念講演会「縮小再編過程の日本農業 – 2015年農業センサスと実態分析 -」 (日本農業研究会館 2018年7月5日)
http://www.apcagri.or.jp/apc/notice-backnumber/5956
 

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