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書籍名

Language, Cognition and Mind Vagueness and Rationality in Language Use and Cognition

著者名

Richard Dietz

判型など

183ページ

言語

英語

発行年月日

2019年

ISBN コード

978-3-030-15930-6

出版社

Springer International Publishing

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言語及び認知における曖昧性は、従来、意味論的または認識論的な観点で解釈されてきた。具体的には、曖昧性の標準的な図式では、行為者性または合理性についての考察は、広義に捉える限り除外できることが示唆されている。同様に、選択行動における合理性の理論は、元来、信憑性や選好などのような合理的意思決定理論の基本となる概念の潜在的な曖昧性から抽象化される。この点で、曖昧性の理論と合理性の理論は、何も相互に貢献するものがないという前提がおかれる傾向があると言っても間違いではない。最近、この一般に容認された見解が不適当であることを示唆する新しい文献が出てきている。一例としては、合理的曖昧性に関連した信憑性のモデル (Edgington 1997; Dietz 2010; Williams 2012; Douven & Decock 2017; Smith 2014) 及び意思決定理論 (Williams 2014) に、言語または認知における曖昧性の理論が用いられている。もう一つは、合理性についての考察が、曖昧性についてのより包括的な説明の中に本質的に考慮に入れられるべきであると論じられている。このような提案は多種多様であり、曖昧性と関心相対性 (Fara 2000) または不確定な計画(MacFarlane 2016)の間に想定される結び付きについての哲学的理論、曖昧な言語の意味論のための選択理論の応用 (顕示選好:van Rooij 2011; 社会的選択: Grinsell 2012)、語用論的推論のベイズモデル (Lassiter & Goodman 2017)、または進化ゲーム理論の曖昧性の理論への応用(概要についてはCorreia & Franke 2017を参照)にまで至っている。
 
本書は、曖昧性と合理性の間の関係を、哲学、言語学、認知心理学、コンピューターサイエンス、経済学といった様々な体系的方向から調査する、新しい概念的かつ実験的な研究を提示する。言語の使用及び認知における曖昧性は、従来、認識論的または意味論的な用語で解釈されてきた。曖昧性についての標準的な見解によれば、行為者性または合理性についての考察は、広義に捉える限り除外できることが特に示されている。ごく最近では、曖昧性に関する新たな文献が発表され、この標準的な見解が不適当であること、また、合理性についての考察が曖昧性についてのより包括的なモデルの中に考慮に入れられるべきであることが示唆されている。ここに提示された方法論的アプローチは、曖昧性に対する合理的信憑性の哲学的解釈から、選択理論 (動的選択理論、顕示選好モデル、社会的選択理論)、語用論的推論 (ベイズ語用論) の確率モデル、進化ゲーム理論及び分類の概念空間モデルの応用まで、多岐にわたっている。
 
最初の3論文 (Mahtani, Smith, and Andreou著) は、曖昧性が合理的選択及びそれに関連する基本概念にどう影響しているのかという問題を取り上げている。その他の諸論文 (Green & van Deemter, Correia & Franke, Douven, Grinsell, and Kochari & van Rooij) は、合理性のモデルを言語と認知における曖昧性の理論に関係づけるようにする。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 特任講師 Richard Dietz / 2019)

関連情報

書評:
「本書は、本主題に関する現在の文献にとって貴重な貢献となることは間違いない。全ての章が小気味よいくらい独創的で、意味論的現象としての曖昧性と、ゲーム理論、ベイズ認識論、または社会的選択理論における他の一見無関係な問題との間の驚くべき結び付きを提示している。その結果、読者は、問題に関する広い理解及びその広範性の感覚も得ることができる。本書はまた、曖昧性に対する概念的アプローチと実験的アプローチの間の微妙なバランスも示すものである。認識論、言語哲学、認知心理学、または言語学に取り組む学者や大学院生に強く推薦する。」(Eleonora Cresto博士、CONICET[国立科学技術研究会議]、アルゼンチン・ブエノスアイレス)

 

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