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白と山吹色の表紙

書籍名

幻冬舎新書 考えるとはどういうことか 0歳から100歳までの哲学入門

著者名

梶谷 真司

判型など

262ページ

言語

日本語

発行年月日

2018年9月27日

ISBN コード

9784344985148

出版社

幻冬舎

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「考えるとはどういうことか」

このシンプルな問いに、みなさんならどう答えますか? 頭を使うこと? でも頭ってどうやって使うの?

もっと答えやすい聞き方をしましょう。

「私たちは、考える方法をいつ、どこで学んだのか」

学校で、家で、会社で、私たちはしばしば「よく考えなさい!」と言われます。そのとき私たちは、何をしろと言われているのでしょうか。何をどうすれば、「考えた」ことになるのでしょうか?

実を言うと、私たちのほとんどが「考える方法」を学んでいません。考えることがどういうことかも、どうすれば考えられるようになるのかも知らないのです――私はこのことに、「哲学対話」という実践を通して気づきました。

哲学とは、考える営みそのもので、私はそれを「問い、考え、語ること」と定義しています。哲学対話はそれを複数の人で一緒に行うこと。だから「問い、考え、語り、聞くこと」です。疑問をもってその答えを探し、言葉にして、それを互いに受け止めること。それが共に考えることです。

なかでも大事なのが「問うこと」です。私たちは問いがあって、はじめて考えることができます。考えるためには問いに自覚的にならないといけません。また私たちは聞いてもらうことで語ることができます。だから考えるさいには、他者が必要なのです。

「考える」とは、こんなシンプルなことなのです。ところが私たちは、問うことも、考えることも、語ることも、聞くことも、よく分かっていないし、ふだん経験してもいないのです。

そもそも私たちは「問う」ことに慣れていません。私たちは学校でたくさんの問いに出会います。教科書の中には、無数の問いがあります。でもそれは人から与えられた問いであって、無理やり考えさせられているだけで、自ら問うて考えているわけではありません。

しかもこうした学校の問いは、テストのためにあるので、答えを出したらそれで消滅します。そしてできる限り多くの問いを消すことが目標になります。

問うのは、頭が悪い証拠。質問の多い人は、嫌がられ、馬鹿にされかねません。東京大学の学生は、いわば、問いを消すのが得意な人たちです。何でも分かっている、質問はない、大丈夫です!――そういう状態を良しとする人たちです。でも、「問いがない」というのは、「考えることがない」ということではないでしょうか。だとしたら、日本の教育も社会も、「考えないこと」を目指しているかのようです。

私はおかしなことを言っているように思えるかもしれません。けれども、哲学対話をいろんなところで――学校、会社、過疎の村――老若男女いろんな人たちとやってきて、「考えること」がいかに難しいか、いかに大事にされていないか分かってきました。そしてそこから、今まで見えていなかった実に多くのこと、問題が見えてきました。

他方で、「考えること」が、どんな人にとっても大切で、誰にでも開かれたものであることも分かりました。そしてどうすれば考えられるようになるのかも見えてきました――本書は、こういうことを平易な言葉で、でも、妥協することなく書きました。だから本書は、誇張なく「0歳から100歳までの哲学入門」なのです。

 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 梶谷 真司 / 2019)

本の目次

はじめに
出会い
生まれてから死ぬまで
哲学のイメージが変わった?
哲学=「考えること」の難しさ
「考えること」と「自由になること」

第1章 哲学対話の哲学
1. 哲学対話とはどのようなものか?
   「子どものため」は「みんなのため」
   考える体験としての対話
   いろんな人と話す
   輪になって座る
   体で感じる哲学
   対話は終わった後に始まる
2. 哲学対話のルール
   ルールが対話を哲学的にする
   何を言ってもいい場はない
   語る自由を奪う教育
   否定的態度をとらない
   話さずに聞いている自由
   問うことの難しさ
   問わない方がいい?
   ダイジョウブという魔法の言葉
   知的な安心感とは?
   対等に話すための制約
   開かれた終わりのない対話へ

第2章 哲学の存在意義
1. 哲学対話の効用
   なぜ「何のために」と問うのか?
   何のための哲学対話か?
2. 自由のための哲学
   自由のいろいろ
   感覚としての自由
   考えることで自由になる
   他者と共に自由になる
3. 責任のための哲学
   ポジティヴな意味の責任
   奪われる自由と負わされる責任
   自由と責任の回復
4. 自分のための哲学
   哲学は誰のものか?
   哲学は恋愛のようなもの

第3章 問う・考える・語る・聞く
1. 問うことと考えること
   問うことではじめて考える
   問うことは自ら問うこと
   哲学の問いと哲学的な問い
   とりあえず問う
   問いを問い、問いを重ねる
   <基本的な問い方>
   <時間と空間を移動する>
   <小さな問いから大きな問いへ>
   <大きな問いを小さくする>
   問いではない問いを問う
   答えのある問いの大切さ
2. 考えることと語ること
   語ることが考えに形を与える
   自分の考えは話さなくていい?
   あふれる他者不在の語り
   語ってから考える
   多ければ少なく、少なければ多く
   いろんな人と対話する
   子どもと対話する意義
   誰でも考えを語れるようになる
3. 語ることと聞くこと
   人の話は聞いていない?
   「受け入れる」ではなく「受け止める」
   「理解する」ではなく「受け止める」
   聞くことは場を共有すること
   言葉以前の対話的関係

第4章 哲学対話の実践
1. 用途と参加者
   哲学対話の用途
   人間関係を作ることの大切さ
   参加者の多様性
   普通はいない人を入れる
   子どもを入れる
   赤ん坊でもいい
   その場にいるだけでいい
2. 場の作り方
   会場の選び方と準備
   会場の選び方
   会場の広さ
   必要な物品
   会場の設営と片づけ
   グループ分けと座り方
   質問ゲーム
   自己紹介
   問い出しと問い決め
   いろんな問い出しの方法
   (1) ゼロから始める
   (2) テーマから始める
   (3) 素材から始める
   コミュニティボールの効用
3. 対話の進め方
   始め方
   進行役 (ファシリテーター) の役割
   板書とメモ
   対話の良し悪し
   終わり方
   反省せず、何度もやる
おわりに
   単純化した極論?
   学校教育の否定?
   ありがちな日本人論?
あとがき

関連情報

著者連載:
考えるとはどういうことか【考える時間】「考えること」はなぜ大切か? その本当の理由【再掲】 (幻冬社plus 2020年4月1日)
https://www.gentosha.jp/article/11140/

考えるとはどういうことか「「考える」ことは、あなたを、この息苦しい世間から解放してくれる【リバイバル】 (幻冬社plus 2019年2月12日)
https://www.gentosha.jp/article/11447/

考えるとはどういうことか「この社会には「語る自由」がない【リバイバル】 (幻冬社plus 2019年2月7日)
https://www.gentosha.jp/article/11403/

考えるとはどういうことか「分からないことを増やそう。どんどん分からなくなろう。【リバイバル】 (幻冬社plus 2019年2月4日)
https://www.gentosha.jp/article/11384/

考えるとはどういうことか「哲学は物好きや変人がやる怪しいこと?【リバイバル】 (幻冬社plus 2019年1月29日)
https://www.gentosha.jp/article/11139/

考えるとはどういうことか「「哲学」は、生きているかぎり、どんな人にも必要だ【リバイバル】 (幻冬社plus 2019年1月25日)
https://www.gentosha.jp/article/11132/

考えるとはどういうことか「誰だって哲学の生まれ故郷に行くことができる」國分功一郎さん推薦! (幻冬社plus 2018年9月25日)
https://www.gentosha.jp/article/11255/

著者インタビュー:
自分の意見を最後に持ったのはいつですか? SNS時代に流されない意見の作り方 (kakeru 2020年1月17日)
https://kakeru.me/other/tetsugaku/

書評:
古川雄嗣 (教育学者、北海道教育大学旭川校准教授) / 斎藤哲也 (ライター・編集者) 「空気を読まない」哲学が学校や企業を救う理由 - 日本の「道徳教育」はなぜイケてないのか (東洋経済ONLINE 2019年3月7日)
https://toyokeizai.net/articles/-/268549?page=7

BOOKレビュー (福井県教育総合研究所ホームページ 2019年)
http://www.fukui-c.ed.jp/~fec/bookreview/2019/2019_review_11-04.pdf

デイリーBOOKウォッチ 赤ちゃんも「哲学対話」に参加できるワケ (BOOKウォッチ 2018年12月4日)
https://books.j-cast.com/2018/12/04008321.html

『考えるとはどういうことか 0歳から100歳までの哲学入門』 (朝日新聞デジタル 2018年11月17日)
https://www.asahi.com/articles/DA3S13772441.html

おとなの小論文教室 感じる・考える・伝わる! 山田ズーニー「Lesson898 考えることで人は自由になり、多様性を受け入れる」 (ほぼ日刊イトイ新聞 2018年11月7日)
https://www.1101.com/essay/2018-11-07.html

イベント:
第9回代官山人文カフェ: 梶谷真司「誰もが知っている名作絵本をめぐって哲学対話を体験しよう」 (代官山蔦屋書店 2019年7月26日)
https://store.tsite.jp/daikanyama/event/humanities/7875-1215090630.html

哲学で文章はうまくなるのか?! 問いから鍛える文章講座 ゲスト: 梶谷真司さん 紫原明子さん (ニューQ STUDY Vol.1 2019年6月16日)
https://newq-study-1.peatix.com/?lang=ja

第3回 哲学対話 (那覇市泉崎 大学受験予備校「グレイトヴォヤージュ」 2019年1月13日、14日)
https://ryukyushimpo.jp/style/article/entry-855025.html

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