
書籍名
新潮文庫 シェイクスピアの正体
判型など
341ページ
言語
日本語
発行年月日
2016年5月1日
ISBN コード
978-4-10-120476-5
出版社
新潮社
出版社URL
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ウィリアム・シェイクスピアの戯曲は今日でも頻繁に上演され、シェイクスピアは英国を代表する重要な作家として高く評価されてきた。だが、大学へも行かなかったストラットフォード・アポン・エイヴォン出身の田舎者にあんなすばらしい作品が書けたのかという疑問が浮かび、シェイクスピア作品を書いたのは誰か別の知識人であって、田舎出の役者の名前を借りて作品を発表したのではないかと囁かれるようになった。シェイクスピア別人説である。
いわく、シェイクスピア作品を手掛けたのは、当時最大の知識人・哲学者にして政治家でもあったフランシス・ベーコンではないか。いや、自ら詩作も行ったオックスフォード伯爵だ。いやいや、シェイクスピアと同い年で謎の死を遂げたとされていた劇作家クリストファー・マーロウが実は死んでいなかったのだ……。本書で紹介する主要候補者は七人だが、さらにはそうした人たちが協力し合って書いたとか、そのグループにはエリザベス女王も加わっていたとか想像は広がっていく。そうした諸説に耳を傾けると、エリザベス朝時代にどんな人たちがいてどんな時代だったのかがわかってくる。
本書は謎解きの様相を示し、推理小説風に “真犯人” は誰かと検証を加えていく。だが、この作業は決しておもしろ半分に進めるわけにはいかない。別人説を信じている人たちは真剣で、学会を作っているほどだからだ。たとえば、シェイクスピア俳優デレク・ジャコビでさえ、「シェイクスピアはオックスフォード伯爵だ」と公言しており、BBCが2019年にShakespeare Uncoveredというシェイクスピア作品紹介のDVDを作成した際も、ジャコビは「田舎者のシャクスペアは蔵書も遺していない。本も持っていなかった男があんな作品を書けたわけがない」と述べている。確かに「シャクスペア」は手紙も遺しておらず、自分の痕跡を消そうとしていた様子がある。なぜなのか。本書は当時の時代が抱えていた大きな闇も明らかにする。
本書はさらにもう一つ大きな謎を明らかにする。当時の劇作家ロバート・グリーンがその小冊子『三文の知恵』のなかで、シェイクスピアを「成り上がり者のカラス」と揶揄しているとされ、シェイクスピア学者たちの常識のように扱われてきた。しかし、揶揄されているのは、シェイクスピアではなく、どうやらグリーンが金の無心をした当時の花形役者エドワード・アレンらしい。それがどうしてシェイクスピアだと決めつけられ、信じられてしまったのか。
シェイクスピア別人説を信じる人たちの思い込みと、シェイクスピア学者たちの思い込み。検証を加えていくと、どちらも似ていることがわかる。そう認識できると、我々が学問の根拠としている「事実」は果たして我々が「信じている」ほど確かなものなのかという疑念が湧いてくる。疑うところから学問は始まる、少なくともそう信じることはまちがっていないだろう。
(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 河合 祥一郎 / 2019)
本の目次
第一章 シェイクスピア別人説
第一節 田舎者シャクスペアがシェイクスピアであるはずがない!
第二節 七人のシェイクスピア候補たち
第二章 その時代に何が起こっていたのか
第一節 恐ろしいカトリック弾圧
第二節 正体を隠せ
第三章 「成り上がり者のカラス」の正体は?
第四章 シェイクスピアとはだれか――結論
注
関連年表
あとがき――謎解きは続く
文庫版あとがき
関連情報
若村麻由美さんと『シェイクスピアの正体』出版記念トークショー (La kaguにて 2016年5月27日)
https://www.shinchosha.co.jp/news/article/3/
書評:
『しんぶん赤旗』2016年6月5日
『週刊ポスト』2016年6月17日号 (鴻巣友季子)