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金色の表紙

書籍名

心を支えるシェイクスピアの言葉

著者名

河合 祥一郎

判型など

304 ページ、四六判

言語

日本語

発行年月日

2020年1月9日

ISBN コード

9784866671796

出版社

あさ出版

出版社URL

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心を支えるシェイクスピアの言葉

本書はシェイクスピアの名言を110選んで、その解説をする本だが、シェイクスピア作品の根底に流れるストア派哲学やユマニスム (人文主義) やテアトラム・ムンディなどの思想を踏まえた解説となっているので、読み進めるうちにシェイクスピアが示す奥深い世界へ足を踏み入ることになる。テアトラム・ムンディなどと特別な用語を用いると難しく感じられるかもしれないが、「人生は歩く影法師、哀れな役者だ」というマクベスの台詞として聞けばわかりやすいだろう。シェイクスピアは舞台人であり、一般大衆にわかる言葉で作品を書いた。しかし、その言葉は深い思考に裏打ちされているのである。
 
生きていくのに最も必要なのは何だろうか。アインシュタインは「想像力は、知識より大切だ。知識には限界がある。想像力は、世界を包み込む」と言ったことで有名だが、想像力は学問の発展にも欠かせない。科学技術の進歩も夢の実現にほかならないし、学説もまた一種の想像だからだ。そして、シェイクスピアは想像力こそが新しい世界を作り出すことを深く認識していた。シェイクスピアがなぜその生涯を想像力で作られる演劇に捧げたのか、それだけの何が演劇にあったのか、本書を読めばその糸口がつかめるだろう。
 
本書は、いわゆる名文句を紹介するものではないので、ジュリエットの「ああ、ロミオ、ロミオ、どうしてあなたはロミオなの?」とか、『マクベス』冒頭の「きれいはきたない、きたないはきれい」などは取り上げていない。本書が取り上げるのは、たとえばマクベス夫人の言う、「しかたのないことは、気にしないこと。やってしまったことは、済んだことです」といったような台詞だ。これは過去のことでくよくよせずに未来を見据えて生きていくべしという人生訓だが、その根底には、行動する前に思考するハムレット型生き方と、思考する前に行動するマクベス型の対比がある。ハムレットは思考するあまり行動に至らないが、逆にマクベスは考える前に行動して後悔する。誰だって後悔した経験はあるはずだが、では後悔しない生き方をすればそれでよいのか。シェイクスピアは単純な答えは出さない。人間は常に気が変わり、矛盾する存在だからだ。
 
本編はシェイクスピアの人生の知恵が引き出せる奥深い台詞を右ページに掲げ、その解説を左ページに記していく形式で統一されているが、最後にシェイクスピア全40作品のあらすじも付されている。

 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 河合 祥一郎 / 2020)

本の目次

I 後悔しないために
II 生き方に迷ったら
III 人間関係に悩んだら
IV 転機を迎えたら
V 成長したいときに
VI 虚しさにおそわれたら
VII 豊かさについて考えたら
VIII 恋愛に悩んだら
シェイクスピア全作品あらすじ

関連情報

井上博之 評 <本の棚> 河合祥一郎 著『心を支える シェイクスピアの言葉』 (『教養学部報』第619号 2020年6月1日)
https://www.c.u-tokyo.ac.jp/info/about/booklet-gazette/bulletin/619/open/619-03-3.html
 
山根由起子 評「心を支えるシェイクスピアの言葉」 人生の節々で思い出すセリフ (朝日新聞 2020年2月15日)
https://book.asahi.com/article/13134785
 
読書日記: 著者のことば 河合祥一郎さん 内なる悪魔に惑わされず (毎日新聞 東京夕刊 2020年2月4日)
https://mainichi.jp/articles/20200204/dde/012/070/009000c
 
今日の書評: ビジネスでも汎用性が高い、人生の達人・シェイクスピアの2つのことば (lifehacker 2020年2月3日)
https://www.lifehacker.jp/2020/02/book_to_read-468.html
 

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