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書籍名

中国語学・日中対照論考

著者名

楊 凱栄

判型など

376ページ、A5判

言語

日本語、中国語

発行年月日

2018年9月8日

ISBN コード

9784863982611

出版社

白帝社

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中国語学・日中対照論考

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本書は中国語の文法と日中両言語の対照に関する研究書である。中国語と日本語の文法の特徴と相違について、理論的問題だけでなく、実際に著者が長年携わってきた中国語教育の現場で学生から受けた質問や学生の誤用例などからヒントを得た問題も多く扱っている。要するに本書の狙いは中国語文法や日中対照研究に関する理論的研究のみならず、中国語教育現場で多くの中国語教員を悩ませてきた難題の解決にもある。

本書に掲載されている論文は合わせて17篇あり、年代順ではなく、テーマごとに7部にまとめられている。ここでは、すべての論文について紹介する余裕はないが、代表的なものについてその概要を紹介する。

第1部では中国語文法の最も重要かつ難しいテーマの一つと言ってもよい“了”を取り上げている。“了”についてはこれまですでに多くの研究があるが、本論文では従来の研究に検討を加えた上で、改めてアスペクトとしての完了を表す“了1”と変化を表す“了2”の二つに分けるべきであると主張し、両者の文法的意味の違いを立証した。また機能論の観点から、中国語の特徴として“了”は時制とは関係なく、已然の事態であっても用いられるとは限らないという現象やその理由を明らかにした。

第4部では日中両言語におけるさまざまな形式の全称表現を取り上げ、それぞれの表現形式の意味機能の違いとその違いをもたらした動機付けを解明した。さらに、中国語の重ね型による全称表現は集合を構成するすべてのメンバーに対してスキャニングを行うものであり、描写の機能をもっていることを指摘した。

第6部ではまず、認知言語学の観点から中国語の方向補語が目的語をとった時の位置関係によって生じる構文の違いを取り上げ、その動機付けについて論じた。また、日中の受益表現と所有構造の対照研究では、本来受益表現と所有構造は異なる文法範疇であるにも関わらず、日本人の学習者が両者を混同して使うことを出発点として、ぞれぞれの言語において受益表現と所有構造が成り立つ動機を考察し、使用制限などについて詳しく分析した。日中連体修飾節の違いについては、同じ事態を表すのに、中国語では主述関係が用いられるのに対し、日本語では連体修飾が用いられる傾向があるという現象の背後にどんなメカニズムが働いているのかを指摘している。

第7部では語用論の視点から、まず日本語の否定疑問文の機能とそれに対応する中国語表現に関する考察を行い、日本語における否定疑問文のもつ構文的機能が何故中国語では機能しないのかということを説明すると同時に、それに対応する中国語の表現がどんなものであるかを明らかにした。また、中国語の否定疑問文のもつ機能などについても説明した。日中の感情・感覚表現や状態変化に関する違いについては、証拠性の視点から議論し、中国語では自らの視覚や聴覚などから獲得した情報かどうかが決定的な重要性を持つが、日本語においてはそれだけでは機能しないということを解明した。第7部の最後に、中国語の人称代名詞の“人家”が三人称として用いられるときの語用論的特徴を分析し、何故そのような機能をもつかについても合わせて指摘している。

このように、本書は中国語文法だけでなく、日中間で対応すると思われている事象を中心に、両者の相違の指摘にとどまらず、奥に潜んでいる言語メカニズムの違いの解明に力を入れたものである。また、異なる言語の対照研究を如何に行うかということについても、実際に本書の一連の問題設定、テスト方法、分析手法から学び取ることができるものと思われる。この意味で、これから日中対照研究を目指す学生にとっても本書は役立つものであろう。

 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 楊 凱栄 / 2019)

本の目次

    一 “了”をめぐって
1“了”の文法的意味について
2 从表达功能看“了”的隐现动因

    ニ スコープと焦点をめぐって
3“也”的蕴含与辖域
4 句中成分的焦点化动因及优先度等级―从事件句到说明句

    三 数量強調をめぐって
5 数量詞を修飾する“好”の意味機能
6 「も」と“也“―大数量の強調における相違を中心に

    四 全称表現をめぐって
7 “量词重叠+(都)+VP”的句式语义及其动因
8 “个个”、“一个个”、“一个一个”的语义功能及认知上的差异
9 表全称义句式的中日对比研究―论「誰でも+VP」「誰もが+VP」与“谁+都+VP”“个个(+都)+VP的差异

    五 ヴォイスについて
10 日中ヴォイスの対照研究
11 给予、使役、被动在上海话中的分化

    六 構文の意味と構文の相違をめぐって
12 论趋向补语和宾语的位置
13 日中受益表現と所有構造の対照研究
14 日中連体修飾節の対照研究

    七 語用論をめぐって
15 日语否定疑问句的功能及其汉语的对应表现
16 从标记有无看汉日对信息来源的处理―以感情、感觉及状态变化的表达为例
17現代中国語の人称代名詞“人家”について―三人称代名詞“他/她”との比較を通じて―
 

関連情報

書評:
杉村博文 (大阪大学名誉教授) 評 「日中対照研究の第一人者が描きだす日本語文法と中国語文法の異なりの諸相」 (『東方』456号 2019年2月)
https://www.toho-shoten.co.jp/export/sites/default/review/456/toho456-01.pdf

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