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茶色い表紙

書籍名

中国語学辞典

判型など

768ページ、四六判、上製

言語

日本語

発行年月日

2022年10月13日

ISBN コード

9784000803229

出版社

岩波書店

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中国語学辞典

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二十一世紀の第一四半世紀が終わろうとしている現在、言語・文字に関する学術研究はその研究目的、研究方法、考察対象のいずれに於いても史上空前の多様さを呈する。言語・文字の体系および体系内の諸現象を扱ったものから、ことばによる表現を通して心の内面を説明するもの、社会に於いて言語・文字が果たす役割に着目したもの、言語の生物的メカニズムを解明しようとするもの、自然言語をコンピューターに理解させるものまで、本学で行われてきた言語・文字に関わりを有する多彩な授業やイベントからもその多様さの最先端を感じ取ることはできよう。こうした現今の多様さは、特定の言語に限定してもなお看取できることが有る。中国語に関してそれを実感させてくれるのが本書『中国語学辞典』である。
 
本書では中国語に関する約1,100項目が見出しとして立てられ、詳細な解説が行われている。20世紀後半および21世紀初期の日本に於ける中国語学の発展を結集したモニュメントであり、様々な分野に関わる項目が列挙されていることは言を俟たない。中でも、古典中国語文法、出土資料、現代中国語文法に関する項目の豊富さは、発展著しい領域の存在を物語っている。これらはひとえに本学教員木村英樹 (人文社会系研究科・名誉教授)、楊凱栄 (総合文化研究科・名誉教授)、大西克也 (人文社会系研究科・教授)、小野秀樹 (総合文化研究科・教授) の四氏の力によるものであり、本学で進められてきた中国語に関する研究と教育の蓄積が反映している。近年、本学では主に人文社会系研究科・文学部で古典中国語文法の研究が、主に総合文化研究科・教養学部で現代中国語文法の研究が、それぞれ進められてきた。中国語に関する疑問を抱いたときは、まず本書を紐解いていただきたい。

折しも、近年欧米では中国語学に関する辞典やハンドブックの刊行が相次いだ。これは中国語学が過去数十年間に国際性が飛躍的に高まった学問分野であることを物語っている。今後は叢書という形で研究成果の集中的発信が盛んに行われることが予想される。だが、本書と欧米の類書との間には、掲げる項目の違いをはじめとして幾つかの点で本質的な差異が存在する。そこには中国に関わる学問のありかたや、何のために研究するのかという価値観の相違が具現している。よって、本書を通して日本の学問に特有な美点や弱点に気付くこともできるだろう。
 
本書に記されている解説は、読者に中国語学に関する最新の基点を提供してくれる。本学の学生諸君が、中国語学に限らず人文科学という広い視野に立って、これから何を目指して研究していくか思案せんとする時にも、本書は必ずや啓発を与えてくれるはずである。批判的精神を持って読み、考えていただきたいと思う。本書に記された解説を超える最初の一歩もそこに在る。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 吉川 雅之 / 2023)

本の目次

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分野別項目一覧
0. 中国語史略説
1. 総説(方言を含む)
2. 文法
3. 意味・語彙
4. 音声学・音韻論
5. 文字学用語と文字
6. 伝統音韻学・訓詁学用語
7. 文字学・音韻学・訓詁 (文法を含む) 学の資料
8. 出土資料
9. 上古・中古・近世資料
10. 他言語との対照資料
 
※項目の詳細については出版社ホームページを参照
https://www.iwanami.co.jp/book/b612744.htm

関連情報

書評:
竹越孝 評「三冊目の『中国語学辞典』」 (『図書』第894号 pp. 18-21 2023年6月)
https://www.iwanami.co.jp/book/b628127.html
 
西村英希 評「『中国語学辞典』が持つ意義」 (『トンシュエ』第65号 pp. 20-21 2023年)
 
書籍紹介:
平田昌司「日本中国語学会編『中国語学辞典』の刊行に際して」 (『トンシュエ』第64号 pp. 10-11 2022年)
 
日本中国語学会による関連活動:
「『中国語学辞典』特集」 (『中国語学』第270号 2023年)
https://www.jstage.jst.go.jp/browse/chuugokugogaku/2023/270/_contents/-char/ja
 
書評:
野田寛達 評 現代語文法関連 (pp. 3-15)
市原靖久 評 古典語文法関連 (pp. 16-28)
濱田武志 評 音声・音韻関連 (pp. 29-40)
三村一貴 評 文字関連 (pp. 41-54)
張玥 評 社会関連 (pp. 55-69)
 
平田昌司「『中国語学辞典』編纂の11年」 (pp. 70-78)

 

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