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白い表紙にライムイエローの枠

書籍名

現代作家アーカイヴ 2 自身の創作活動を語る

著者名

武田 将明、 飯田橋文学会 (編)

判型など

256ぺージ、四六判

言語

日本語

発行年月日

2017年12月12日

ISBN コード

978-4-13-083072-0

出版社

東京大学出版会

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

現代作家アーカイヴ 2

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「現代作家アーカイヴ」とは、作家の平野啓一郎氏を中心とする文学関係者の集まり「飯田橋文学会」と、東京大学のさまざまな機関 (附属図書館、UTCP、ヒューマニティーズセンター) が協力することで実現されてきた企画で、現役の日本語作家の方々に経歴を振り返るインタヴューを実施し、それを記録 (アーカイヴ) として残す、というものである。
 
2021年1月現在で、21名の作家にご登壇いただいた。2015年2月18日の高橋源一郎インタヴューにはじまり、古井由吉、瀬戸内寂聴、谷川俊太郎、横尾忠則 (美術家として高名だが、小説も書かれている)、石牟礼道子、筒井康隆、島田雅彦、林京子、黒井千次、宮本輝、小川洋子、松浦理英子、奥泉光、堀江敏幸、村田喜代子、高橋睦郎、平田オリザ、池澤夏樹、吉本ばななと続き、2019年10月24日の李恢成まで(以上、敬称略)、さまざまな作風・分野・世代に属する、日本語文学を代表する方々から貴重な話を伺ってきた。
 
これらのインタヴューは基本的に公開で実施され (ただし、石牟礼氏、林氏、宮本氏は、作家の都合により、非公開でのインタヴュー)、会場として東大の本郷ないしは駒場キャンパスが利用される (これも瀬戸内氏、村田氏のように京都で実施した例もある)。その模様は、動画の形で飯田橋文学会のホームページ等で公開されるほか (一部は無料で見ることができる)、書籍としても刊行される。本書は、その書籍版「現代作家アーカイヴ」、第二巻である。
 
第二巻には、谷川俊太郎、横尾忠則、石牟礼道子、筒井康隆の四氏のインタヴューが収められている。この文章の筆者は、谷川氏の回を除いて実際に参加した。横尾氏は、日ごろより親交のある平野啓一郎氏との息の合ったやり取りの中で、幼少期にまで遡ってその独特な世界観の形成された背景を語り、また三島由紀夫やジョン・レノンという20世紀文化の巨人たちの爆笑エピソードを次々に披露され、会場は大変に盛り上がった。石牟礼氏は、体調不良のためインタヴュアーたち (当時は宇都宮大学講師でいまは中央大学教授の田口卓臣氏、平野氏と私) が熊本に赴いてお話を伺った。石牟礼氏の代表作は、水俣病患者への聞き書きを独自の文学へと結晶させた『苦海浄土』だが、この作品や、『椿の海の記』など、その文学はシャーマン的な語りに特徴がある。実際にお会いした石牟礼氏も、まさにシャーマンであり、絞り出すように出てくる細い声の震えにさえも、深い含蓄があるのではないかと思わせるような、稀有な対話だった。そして筒井康隆氏は、壇上での型破りなパフォーマンス (その詳細はここに書けない?) とユーモアある、流れるような語りによって、これまた大いに会場を沸かせたが、その見事さもさることながら、筒井氏ほどの大家が、この企画のために相当な量の原稿を用意して参加されていたこと、つまり、筒井氏の軽妙さの背景には、緻密な準備があったことが、とても印象に残った。残念ながら谷川氏の回には参加できなかったのだが、谷川作品を愛してやまないロバート・キャンベル氏による核心を衝いた質問の数々に、真剣に、しかし笑いを絶やさずに回答される谷川氏の様子を読むと、まさに会場の熱い空気が行間から立ち上るかのようだ。
 
このように、本書はこれらの作家のファンの方々にとっては必読と言えると思うが、それに加えて筆者が強調したいのは、この作家たちのことを知らず、現代日本文学に詳しくない方々にとっても、本書は格好のガイドブックとなる、ということだ。各インタヴューでは、作家がみずから選んだ代表作3作が示され、その作品を中心に話が進む。なので、この作家を知るには、まずどの本を読めばいいのか、さらには、それらの本の大まかな内容まで、すらすらと頭に入ってくる。
 
なお、現在のところ、高橋源一郎氏から黒井千次氏までのインタヴューが「現代作家アーカイヴ」1~3に収められているので、興味のある作家の巻を読んでいただければ幸いである。また、作家への公開インタヴューは随時おこなっているので (事前登録制。東大関係者以外も聴講可)、飯田橋文学会のHP (http://iibungaku.com/) を定期的にチェックしていただき、ぜひ一度ご参加いただければと思う。

注:コロナウイルス感染拡大により、残念ながら2020年には公開インタヴューを実施できなかった。2021年1月現在、オンライン形式での再開を検討中である。再開に関する情報は、上記HPでご確認いただきたい。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 准教授 武田 将明 / 2020)

本の目次

  • はじめに (武田将明)
  • 谷川俊太郎インタヴュー (聞き手: ロバート・キャンベル)
  • 関連年譜 / 著作目録 (編集部)
  • インタヴューを終えて (ロバート・キャンベル)
  • 横尾忠則インタヴュー (聞き手: 平野啓一郎)
  • 関連年譜 / 著作目録 (編集部)
  • インタヴューを終えて (平野啓一郎)
  • 石牟礼道子インタヴュー (聞き手: 田口卓臣)
  • 関連年譜 / 著作目録 (編集部)
  • インタヴューを終えて (田口卓臣)
  • 筒井康隆インタヴュー (聞き手: 都甲幸治)
  • 関連年譜 / 著作目録 (編集部)
  • インタヴューを終えて (都甲幸治)

関連情報

飯田橋文学会ホームぺージ:
http://iibungaku.com/
 
本アーカイヴの紹介:
研究代表: 武田将明 現代作家アーカイヴの構築と発信 (東京大学ヒューマニティーズセンターHP)
https://hmc.u-tokyo.ac.jp/ja/planned-research/archives-of-contemporary-japanese-writers/
 
特別連載:
現代作家アーカイブ~自身の創作活動を語る (cakesホームぺージ)
https://cakes.mu/series/3988
 
書籍紹介:
武田将明 現代作家アーカイヴ2 自身の創作活動を語る (REPRE Vol.33 2018年6月22日)
https://www.repre.org/repre/vol33/books/editing-multiple/takeda/

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