教育技術MOOK 新学習指導要領時代の海洋教育スタイルブック 地域と学校をつなぐ実践
本書は、「海洋教育」の多様な実践を紹介するとともに、そうした諸事例を俯瞰し海洋教育のモデルを示そうとしています。本書で紹介する教育実践は、海洋教育センターと連携している幼稚園、小学校、中学校において行われたものです。
四方を海に囲まれた日本は、海から様々な恩恵を受け、海と深いかかわりを持って生活を営んできましたが、次世代を担う子どもたちへの教育、義務教育において海の教育はほとんど行われていません。
海は地球上の水の97.5%をたたえ、水の循環の大本として地球環境を支え、わたしたちの生命維持に大きな役割を担っています。海は多様な生物やエネルギー、鉱物などの天然資源の確保の場でもあり、レジャーや癒やしの場でもあります。一方、2011年の東日本大震災による予想を超える津波は、多くの人命と地域社会を奪い、海洋環境に大きな被害をもたらすなど、脅威をもたらしました。恵みとともに恐れをもたらす海について十分に認識し、共生する社会をつくっていくことが大事です。そのような状況を背景に、2016年の海の日に日本政府は、2025年までに全国の市区町村にて海洋教育を実施することを目指すと宣言しました。本書は、海洋教育を展開する上での日本で初めてのガイドブックです。
海洋教育は、海洋基本法に基づき、「海洋と人類の共生」を基礎理念としています。私たちは、その理念を実現していくためには、どのような知識技能や思考力、判断力が必要なのかを研究しています。それはまた、地域によって実現の仕方は異なってきます。防潮堤の建設をめぐる議論からもわかるように、個人によって考え方も異なります。そのため、すでに定まった知識や技能を育めば「海洋と人類の共生」が十分達成されるというものではなく、そのあり方をめぐって常に探求され続けるものです。その点において、海洋教育は既存の学校教育のあり方の変化を求めるものでもあります。
海洋教育は世界的にも広がり始めています。米国では、海洋に関わり教育を進めるにあたって、Ocean Literacyを構築しています。Ocean Literacyは、幼児教育から中等教育段階までの各段階で身につけておくべき内容を示した教育基準に沿って作られたものです。現在、ユネスコおよびユネスコ政府間海洋学委員 (IOC) を中心に、Ocean Literacyの国際的な普及が目指されています。私は、本書に掲載している全国の実践事例を参考にしながら、日本ならではの海に関わる生活や文化、歴史の視点を組み入れた「日本型海洋リテラシー」の構築を行っているところです。
(紹介文執筆者: 教育学研究科・教育学部 特任講師 田口 康大 / 2019)
関連情報
探求心・課題解決能力が育つ! 新学習指導要領時代の「海洋教育」とは (みんなの教育技術 2019年10月15日)
https://kyoiku.sho.jp/22647/
海洋教育とは―注目される理由と新学習指導要領での充実 (3710Lab | みなとラボ 2019年6月26日)
https://3710lab.com/1338