本書では、主として都市空間を想定しながら、事物や現象の空間パターンを分析する手法を概説している。土地利用パターン、人口分布、道路ネットワーク、通勤・通学、観光・周遊など、都市空間の様々な事物や現象を分析することにより、それらの背後にある構造を解明し、より良い都市空間の構築に資することを試みる。このような分析で用いられる手法は、予め都市空間を想定したものだけではなく、地理学や統計学など、より一般的な空間を対象とする学問分野で開発されたものも多い。そこで本書では空間解析という、より汎用性の高い用語を題名としている。つまり、本書の内容は都市空間よりもさらに一般的な空間の解析にも有用である。
分析手法は対象に応じて適切なものを選択する必要がある。そのため本書では、代表的な分析対象ごとに、節を分けて分析手法を解説している。読み進めるに従って徐々に高度な内容になるが、各節は独立しているので、読者の知識と興味に応じて節を選んで読むことも可能である。
第1章では、空間解析の最も基礎的な手法を説明している。初めて空間解析に接する読者は、第1章から読むことを勧める。第2章では、やや進んだ分析・予測手法を扱っている。平易な説明を心がけているが、数式などが難解に感じられる場合には、数式の理解は後回しにして全体の概要を先に掴むか、あるいは文献リストの中から参考書を選び、そちらを参照しながら読み進めると良い。第3章ではネットワーク空間の解析を取り上げている。ネットワークとは、道路網や通信網など、文字通り網状に構成されたものの総称である。このネットワーク空間自体、及び、空間上で展開する事象を分析する手法を説明している。第4章は、さらに多様な空間解析の事例を5つ、取り上げている。応用的な内容が多く、空間解析の幅広さを実感できる章である。
空間解析の面白さは、事物や現象をただ眺めているだけでは分からないことを明らかにするという点にある。都市の土地利用を決定づけている要因は何か、転居時の住宅はどうやって選択しているのか、ラッシュ時の人の流れをより円滑かつ安全にするにはどうすれば良いのか、都市空間は疑問に溢れている。現象を解明するにはどのようなデータが必要なのか、データはどう分析するのか、分析結果はどう解釈は良いのか。本書を手に取り、空間解析の醍醐味に触れて頂きたい。
(紹介文執筆者: 情報学環 教授 貞広 幸雄 / 2019)
本の目次
データの可視化
集計単位変換
基礎的分析
点データ分析
2. 解析から計画へ
ラスターモデルと空間解析
人口推計
空間補間
空間的自己相関
空間回帰モデル
空間相互作用モデル
施設配置問題
3. ネットワークの世界
ネットワーク分析
ネットワーク空間解析
幾何ネットワーク
最短経路問題
ネットワークと最適化
配送計画
4. さらに広い世界へ
スペースシンタックス
形態解析
観光行動分析と空間解析
カルトグラム
マルチエージェントシミュレーション