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書籍名

自治体議会の取扱説明書 住民の代表として議会に向き合うために

著者名

金井 利之

判型など

352ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2019年5月17日

ISBN コード

978-4-474-06738-7

出版社

第一法規

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自治体議会の取扱説明書

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地方議会や地方議員への不信感は根強く、話題になるのは政務活動費の不正使用などのスキャンダルや政争に明け暮れる様子である。そのため、人々の地方議会・議員への要望は、報酬・政務活動費と議員定数の削減がほとんどである。人々からは、地方議員は、世の中の役に立つ仕事はしていないが、経済的に利得のある仕事だと思われている。しかし、同時に「担い手不足」も深刻であり、立候補者が足りずに定数割れや無投票になることもしばしばであり、後継者不足で高齢議員が引退することを躊躇している。経済的に恵まれていると思われているのに、なり手が少ないというのは奇異な現象ともいえるが、経済的に利得がある以上に、社会的な声望もなければ、やりがいもない仕事だと思われている。それゆえ、一部の首長たちは、地方議会を無視する行動に走ることもある。
 
本書は、このような地方議会・議員不信を直視して、地方議会・議員の「悪行」のメカニズムを露骨に描く。しかし、それは、地方議会・議員不信の世相に便乗するためではない。むしろ、人々から不審に見られがちな行動原理が生じる必然的な理由を描くことによって、地方議会・議員不信が過剰に理想的で、現実的ではない期待に基づいていることを示す。そして、そもそも、「地方」議会・議員と称されることに表れている中央指向と地方蔑視を否定する。自治体は、住民が自らを自治する政府である以上、中央から地方議会・議員を「上から目線」でみるべきではない。本書は、住民を起点とする立場から、「地方議会・議員」ではなく、住民の代表としての「自治体議員」としてとらえる。
 
住民代表としての自治体議員が、住民の期待を背負って仕事をするときに直面する相手が、2つある。第1に、自治体議員は、合議体の自治体議会として、直接公選される首長と対峙する。これは第1部で論じられる。首長を動かさなければ、住民の意向を実現することはできない。ところが、日本の通説である「二元代表制」論では、自治体議員も首長も、ともに住民から直接選挙される住民代表であるから、相互に対等であるとされる。つまり、首長は住民の意向を直接に反映すればよく、自治体議会や自治体議員の意向に必ずしもとらわれるべきでなないという考え方が有力である。このため、自治体の政治の実態は、首長優位になっている。本書は、こうした二元代表制論を批判し、自治体議会のなかで首長と議員たちが討議をすることが重要であることを打ち出す。首長は住民の代表ではなく、首長と議員たちが討議する広場である自治体議会こそが、住民を代表する機関であるとする。
 
第2は、自治体議会である。住民代表である一人の自治体議員にとって、住民の意向を実現するためには、他の自治体議員たちから構成される自治体議会で、活動をしなければならない。これは第3部で論じられる。相互に住民代表という対等な立場である自治体議員の合議体という自治体議会は、合意形成や多数派工作を必要とする。それゆえに、しばしば住民からは、権力闘争や妥協などの「悪行」をみなされる活動をせざるを得ない。一人の自治体議員が自治体議会をどのように取り扱うのかを、住民が理解することが、極めて重要な課題である。本書の副題が「住民の代表として議会に向き合うために」であることは、このためである。
 
そして、自治体議員が、首長と自治体議会を通じて、政策を実現していく。これが第2部のテーマである。本書は、地方議会・議員への不信から、自治体議会・議員への理解と改善を目指す。もっとも、単純に改革論の処方箋を提唱するものではない、現実主義的に自治体議会・議員の実態を踏まえ、議会のメカニズムを理解したうえで、可能な方策を目指すのである。

 

(紹介文執筆者: 法学政治学研究科・法学部 教授 金井 利之 / 2021)

本の目次

序章 議会の意義
第1部 議会と首長
 第1章 二元代表制論を越えて
 第2章 議会と首長の相互作用
第2部 議会と運営
 第1章 議会の起動
 第2章 議会と条例
 第3章 議会と政策
第3部 議会と人間
 第1章 議会と議員
 第2章 議会と職員
 第3章 議会と住民
終章 実践自治体議会学に向けて

関連情報

書籍紹介:
議会改革: 二元代表制を越えて討議広場代表制へ (議員のためのウェブマガジン 議員NAVI 2019年5月13日)
https://gnv-jg.d1-law.com/article/20190513/16332/

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