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白い表紙の真ん中にパステルカラーの模様

書籍名

自治体と総合性 ~その多面的・原理的考察~

著者名

金井 利之、 自治体学会 (編)、入江 容子、内海 麻利、北山 俊哉、片山 健也、阿部 昌樹、金井 利之、嶋田 暁文 (著)

判型など

160ページ

言語

日本語

発行年月日

2024年4月22日

ISBN コード

9784875559115

出版社

公人の友社

出版社URL

書籍紹介ページ

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自治体と総合性

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本書は、2023年9月23日(土)14時から17時に開催された、日本学術会議政治学委員会行政学・地方自治分科会主催・自治体学会共催の、ズームによる公開シンポジウム『自治体と総合性~分権国会決議30年~』での報告・討論をもとに、各発言者が補筆した記録である。日本学術会議の各分科会は、さまざまな社会的発信を任務としているが、この年度は分権改革の30年間を振り返るシンポジウムを開催した。
 
本書のテーマは、総合性である。2000年の分権改革においては、自治体は地域における事務を総合的に担う存在として、改めて法的に確認された。しかしながら、「総合性」とは何であるのかは、必ずしも明確には定義されておらず、運動におけるマジックワードのように使われていることもある。そこで、本書では総合性について多角的に検討することにした。
 
前半は3人の報告者の課題提起である。〔報告(1)〕は、2000年代における地方制度調査会の答申などを検討することにより、総合性が自治体という主体性の拡大 (つまり、合併や大規模化) を意味していたが、途中から総合性を明示しなくなり、むしろ、自治体間の連携・協力に重点が遷ってきたことを明らかにした。〔報告(2)〕は、都市計画の領域に絞り、自治体関係者へのアンケート調査を駆使して、自治体当局者が考える総合性が、自治体間の広域的調整を意味することが多いことを明らかにした。〔報告(3)〕は、日本の長期的な制度発展を振り返ることで、自治体にさまざま業務を担わせるという意味での総合行政が、一貫して進められてきたことを明らかにした。
 
後半は、討論者が前半の報告を受けて質問を行うとともに、討論者が考える総合性を提示していった。〔討論者(1)〕は、自治基本条例の制定や国への提言など、自治体現場でのさまざまな取組を振り返り、総合性とは自治体が仕事を抱え込むことではなく、住民の多様なニーズをくみ上げて基本構想 (総合計画) としてまとめあげ、それを役場やNPOなどの多様な事業主体で実現していくこととしている。〔討論者(2)〕は、総合性を地方自治の守るべき一つの原理として捉え、国から示されるのではなく、自治体が主体的に総合性の原理を示していくことが重要であるとした。
 
シンポジウム当日は以上で終了であるが、本書では2つの解題を追加した。〔解題1〕は、さまざまな捉え方のあり得る「総合性」について、事務配分としての総合性と行動原理としての総合性を区別し、さらに、後者はプロセス、機能、空間に即した総合性として、理論的に整理することを行った。〔解題2〕は、総合性の出所に焦点を当て、自律的総合性と他律的総合性に着目し、自治体の主体性・客体性・臣体性を明らかにするとともに、住民の主体性としての総合性の可能性を論じた。
 
以上のように、総合性は運動・実務に用いられる概念であり、学術的に使うことには十分な注意が必要である。しかし、多義的に使われ、また、それゆえに、さまざまな改革提案にもつながる総合性について、さまざまな意味内容があることを整理したのが、本書の大きな特徴である。
 

(紹介文執筆者: 法学政治学研究科・法学部 教授 金井 利之 / 2024)

本の目次

〔報告(1)〕入江容子「人口減少時代の自治体における「総合性」と「多様性」
〔報告(2)〕内海麻利「都市計画における「総合性」」
〔報告(3)〕北山俊哉「日本の政治発展の中での自治体の総合行政」
〔討論者(1)〕片山健也「多様で寛容な主権者の自治体社会を」
〔討論者(2)〕阿部昌樹「自治体主体の「総合性」の実現を」 
〔報告者応答〕
〔総括〕金井利之
〔解題1〕嶋田暁文「自治体と総合性をめぐって」
〔解題1〕金井利之「縮減社会における自治体の総合性とは」

関連情報

シンポジウム:
公開シンポジウム「自治体と総合性~分権国会決議30年~」 (日本学術会議政治学委員会行政学・地方自治分科会 2023年9月23日)
https://www.scj.go.jp/ja/event/2023/348-s-0923.html

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