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ベージュの表紙

書籍名

ちくま新書 コロナ対策禍の国と自治体 災害行政の迷走と閉塞

著者名

金井 利之

判型など

320ページ、新書判

言語

日本語

発行年月日

2021年5月6日

ISBN コード

978-4-480-07403-4

出版社

筑摩書房

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コロナ対策禍の国と自治体

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現時点 (2021年) で、COVID-19は終熄していないので、コロナ対策の成功/失敗とその原因を行政学的に研究することは、時期尚早かもしれない。しかし、同時代的に現象を分析・把握するニーズは少なくない。なぜ、行政はある対策を執ったのか、採らなかったか、という問いは、事態が終熄していないからこそ重要である。現在進行中の対策の改善に寄与するかもしれないからである。本書は、2020年1月頃から2021年3月末の段階までのコロナ対策の状況を分析したものである。2020年は「コロナ歴 (anno Corona) 2年」である。日本の2020年会計年度末は2021年3月31日なので、そこまでを対象とした。
 
本書の基本的視点は、「コロナ対策禍」である。「コロナ対策」ではない。行政が行う「コロナ対策」が、様々な問題を発生させることに注目した。公共経済学・経済学では「政府の失敗」の研究があるが、同じ発想である。問題を解決するために為された対策が、かっえて別の問題を発生させることはよくある。日本の国・自治体のコロナ対策は、結果として「コロナ対策禍」を生んできた。
 
コロナ対策禍の最大のものは、日本式のソフト・ロックダウン (第1次緊急事態宣言) によって、経済活動に大打撃を与えたことである。それゆえ、経済活動を再開せざるを得ず、再びの感染症拡大を招く。このようなディレンマに置かれた。経済活動への打撃を緩和するため、行政によって様々な給付が急に実施された。しかし、日本行政は社会保障を削減し、失業へのセーフティネットも弱いワークファースト社会を作ってきたため、事前の備えは完全に手薄であった。急な対策の実施は、準備も経験もなく、様々な遅延・不公平・不正等を招いた。また、もともと、社会保険財政を維持するために医療費用を抑えてきたことから、医療供給量が限定され、日常的に病床稼働率が高く、非常時の患者受入れ能力の余裕がなかった。そのために、感染者を入院させることが出来ず、それゆえに、検査件数を制限したり、介護施設・自宅での感染拡大を招いた。しかし、入院者が増加すると医療崩壊になり、医療崩壊を避けるために自宅療養という「放置」が発生した。これも、ディレンマ状況である。コロナ禍にある対策を執ることが別の対策禍を生み、その対策禍に対処すると、もともとの問題が再燃したり、さらに別の対策禍を生む。
 
このようなディレンマ状況になるのは、社会に存在する多数の団体・組織の複雑なネットワークで、日常生活が営まれているからである。特定の対策は、全体に波及するため、別の問題を生み出す。日本の災害対策・パンデミック対策・危機管理などでは、国のリーダーシップや司令塔機能の強化が求められてきた。しかし、中央の恣意的介入自体がさらに対策禍を生む。それゆえに、さらに中央施政の強化を目指すという対策が構想され、問題を益々深刻化させる。
 

(紹介文執筆者: 法学政治学研究科・法学部 教授 金井 利之 / 2021)

本の目次

序章 コロナ元年
疫病禍と行政
災害行政の分析枠組
一般的含意

第1章 災害対策と自治体
1 災害行政組織の特徴
2 災害行政対応の特徴

第2章 コロナ対策禍と自治体
1 追従・忖度から放縦へ
2 排除と鎮静
3 折衷と流行
4 非難応酬

第3章 コロナ対策の閉塞
1 三すくみの閉塞―蔓延防止・医療提供・生活経済
2 玉突きの閉塞
3 仮想対応の閉塞
4 生活・経済・財政の閉塞
5 公表と差別の閉塞

終章 コロナ三年
長期的な社会・経済保障
複雑性
真に「新しい日常」に向けて
 

関連情報

著者会見動画:
著者と語る『コロナ対策禍の国と自治体』金井利之・東京大学大学院教授 (YouTube: jnpc - 日本記者クラブ 2021年9月2日)
https://www.youtube.com/watch?v=tAwgBnM0Hn4
 
著者インタビュー:
“本“人襲撃「的確な判断ができない為政者に権力を集中させることで起こる「コロナ対策禍」とは?」 (『週刊プレイボーイ』 2021年6月8日)
https://wpb.shueisha.co.jp/news/politics/2021/06/08/113787/
 
書評:
金崎健太郎 (JIAM客員教授・武庫川女子大学教授) 評「政策能力UPにおすすめの一冊」 (『国際文化研修』第115号 2022年 春)
https://www.jiam.jp/journal/pdf/115-06-02.pdf
https://www.jiam.jp/journal/vol115-2415.html
 
勢籏了三 評 (『自治実務セミナー』 2021年11月号)
https://www.daiichihoki.co.jp/store/upload/pdf/Jichiseminar202111.pdf
 
川手摂 (後藤・安田記念東京都市研究所主任研究員) 評 (『都市問題』第112巻第9号 2021年9月)
https://www.timr.or.jp/cgi-bin/toshi_db.cgi?mode=kangou&ymd=2021.09
 
古賀攻 評「水説:ロックダウンの条件」 (毎日新聞 2021年9月1日)
https://mainichi.jp/articles/20210901/ddm/002/070/030000c
 
気になるビジネス本:コロナ対策がかえって問題を引き起こしている逆説【新型コロナウイルスを知る一冊】 (J-cast 2021年8月23日)
https://www.j-cast.com/kaisha/2021/08/23418715.html?p=all
 
宇野重規 評「コロナが問う 国のかたち」 (読売新聞夕刊 2021年7月3日)
 
犬塚元 (法政大学教授) 評 「「コロナ対策禍の国と自治体」書評 失敗が必然 「権限なし」は弁明」 (朝日新聞掲載 2021年6月26日)
https://book.asahi.com/article/14381123
 
関連記事:
大杉覚 (東京都立大学法学部教授)「Beyond コロナと自治体行政の「新しい日常」」 (政策情報誌『Think-ing』第23号 2022年3月)
http://www.hitozukuri.or.jp/wp-content/uploads/thinking23_02-08_20220323.pdf
http://www.hitozukuri.or.jp/magazine/entry_160/
 
特集:コロナ禍とどう向き合うか
「保健所等による配給・統制経済の限界」(金井利之) (『学術の動向』 2022年3月号)
http://jssf86.org/doukou312.html
 
市川 周 (白馬会議運営委員会事務局 代表)「コロナを超えて見えて来るニッポンを問う!:白馬会議ZOOM 2021」 (世界経済評論IMPACTウェブコラム 2021年11月8日)
http://www.world-economic-review.jp/impact/article2331.html
 
特集:コロナ禍で問われる地方自治
「コロナ対策禍と自治体の虚弱体質」 (金井利之) (『月刊 自治研』vol.63 no.745 2021年10月)
https://www.jichiro.gr.jp/jichiken/month/contents/gravure_2110.pdf
 
【特集】自治体組織の危機対応と職員のモチベーション 「日常化したコロナ禍に求められる自治体組織」 大杉 覚 (ぎょうせいオンライン:月刊「ガバナンス」特集記事 2021年8月10日)
https://shop.gyosei.jp/online/archives/cat01/0000041298
 
【法律時評】COVID-19対策における国・自治体関係……金井利之 (『法律時報』1160号 2021年2月)
https://www.nippyo.co.jp/shop/magazine/8457.html
 
シンポジウム:
白馬会議ZOOM2021「コロナを越えて見えて来るニッポンを問う!― 政治・経済・外交の視点から―」
金井利之氏 東京大学大学院教授 【論点】コロナ対策禍の国と自治体 (白馬会議 2021年11月28日)
https://www.hakubakaigi.com/

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