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オレンジから黄色のグラデーション

書籍名

ベーシック+ (プラス) 公共経済学 [第2版]

著者名

小川 光、 西森 晃

言語

日本語

発行年月日

2022年1月25日

ISBN コード

978-4-502-41171-7

出版社

中央経済社

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公共経済学 [第2版]

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『日本人のいちばん好きなことばは圧倒的に「努力」なんだそうだ。僕なら迷うことなく「自由」を選ぶけどね。』
 
この本は、小説家の村上春樹さんのこんな言葉から始まっています。村上さんの意味するところとは違うとは思いますが、多くの経済学者も「自由」という言葉が好きです。なぜなら、人々の自由な行動こそが経済の発展をもたらし、社会を最適な方向へ向かわせる力を持っていると考えるからです。
 
ところが、この2年間、「自由」という言葉の対局にある生活を私たちは余儀なくされました。マスクの着用、時短営業、県をまたいだ移動の自粛…さまざまな行動制限を要請されました。
 
村上さんの言葉に続いて、この本では次のように書かれています。
 
『しかし、とにかく人々を自由にすれば良いのかというと、当然ながら、そんなことはありません。「自由」では解決できない問題や、「自由」だからこそ発生する問題も存在します。そのような問題に対しては、政府が個人の自由を抑制し、その行動に介入しなければならないこともあります。』
 
コロナ禍の世界は、まさに、「自由」だからこそ発生する問題に対して、政府が個人の自由を抑制する2年間だったわけです。人々の自由をどこまで保障し、政府はどのような役割を担うべきなのか。これは特に社会科学系の学問にとって主要なテーマの一つですが、この問題を経済学の観点から分析するのが公共経済学であり、この本は、この分野の基礎を学ぶためのテキストとして執筆されました。
 
この本が最初に出版されたのは2015年です。経済は生き物で、それに寄り添う政府の政策も刻々と変わります。その後の状況変化を踏まえ、時代に追いつくための改訂を行ったのが第2版となる本書です。コロナ禍での巨額な財政出動があったので、政府支出や債務残高のデータが大きく変わりました。ビール券や宝くじ、あるいは現金まで渡してワクチン接種を促す政策について、「ワクチンの接種に賄賂が必要だなんて、不愉快ですね」とツイートした感染症専門家の言葉を引用して、なぜ「賄賂」が正しいのかについて考える機会を提供しました。コロナ禍の2021年に国が検討を始めた、通勤時の料金の上げ (とそれ以外の時間の料金の引き下げ) のアイデアを、公共経済学の教えの一つであるピークロード料金の理論と関連付けた説明を加えてみました。他にも、コロナ禍の状況変化に対応する形で、7年前に書かれた内容の一部を改訂しました。
 
変わった部分もありますが、私たち著者の想いは変わっていません。「自由」な社会を大事にしつつも、それだけでは解決できない問題に対して、公共経済学が政府の役割をどのように考えているのか、それに触れることを通じて、読者の皆さんに経済学という道具を使って考えるきっかけにしてもらいたいという想いです。著者2人が、学生時代に同じゼミの中で享受した、経済学を学ぶこと、経済学を使って世の中を理解することの楽しさが読者の皆さんにも伝わることを願っています。
 

(紹介文執筆者: 経済学研究科・経済学部 / 公共政策大学院 教授 小川 光 / 2022)

本の目次

第1章 公共部門の役割
第2章 市場のメカニズムI
第3章 市場のメカニズムII
第4章 公共財
第5章 最適な公共財供給の実現
第6章 外部効果
第7章 自然独占
第8章 価格規制
第9章 所得再分配
第10章 租税
第11章 年金
第12章 経済の安定化
第13章 財政の持続可能性

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