
書籍名
パンデミックと社会科学 ポストコロナから見えてくるもの
判型など
256ページ、A5判
言語
日本語
発行年月日
2024年2月
ISBN コード
978-4-326-30337-3
出版社
勁草書房
出版社URL
学内図書館貸出状況(OPAC)
英語版ページ指定
社会科学研究は、本来長い時間をかけて行うものである。膨大な先行研究から研究テーマや仮説を探し出し、その検証方法について検討を行う。理論的アプローチであれ、実証的アプローチであれ、社会科学者はまず対象となる社会現象をくまなく観察することから始める。時には研究の対象となる現象を測ることで把握し、得られたデータや観察結果から自らの仮説の検証に挑む。自らの仮説が支持されるか否かがわからないまま、自らもその構成員である社会と対峙しつつ検証・検討を重ね、その結論を書籍や論文、報告といったかたちで世に問う。発表された研究成果は、査読等を通じて他の研究者からの批判・検討を受ける。その長く厳しいプロセスを生き延びた研究成果のみが次の世代に受け継がれていく。
物理や化学といった分析対象の安定した自然科学とは異なり、分析対象である社会そのものが大きく変化する社会科学においては、研究の“科学性”を立証しようとするが如く、研究成果に対する厳密な検証がつきものである。それゆえに、社会科学の研究成果が社会に学問として定着するまでには、非常に長い時間がかかり、場合によっては検証を行っている間に対象としての社会そのものが変容してしまうことも起こりうるのである。
このような長く厳密な研究成果の検証プロセスの重要性は、たとえパンデミックが起きたとしても変わらず、新型コロナウイルス感染症の蔓延が起きた2020年以前から現在に至っても大きくは変わっていない。しかしながら、予期していなかった新型コロナの蔓延により、社会のあり方が大きく揺すぶられた時期において、社会科学は目の前にある現象をほぼリアルタイムに観察し、分析・理解する必要に迫られた。まさに、嵐の中で船を操りながら、その進む方向を探るような事態となった。
その社会科学研究の成果として、新型コロナが社会に対して与える影響をテーマとする研究が数多く生み出された。今まで経験したことのないパンデミック下の社会において人々はどういった方法で情報を入手し、またどういった情報源に信頼をおいているのか。感染症の伝染を防ぐために対面での接触を禁じられた人々の行動や意識はどう変化したのか。教育や労働といった、対面を前提としていた活動やその価値はどのように変化したのか。パンデミックによって明らかにされた既存の法制度の問題点や変化は一体どういったものなのか。
こういったテーマでの研究が経済学、政治学、社会学、法学といった社会科学分野全般において盛んに研究されるようになった。
本書は 2020年1月以降に世界中を覆った新型コロナウイルス感染症が社会科学研究に対してどのような影響を与えたのかを、経済学、政治学、社会学、法学分野におけるそれぞれの研究者の研究成果を通じて考察するものである。コロナ禍でリアルタイムに行われたそれぞれの研究成果からコロナ禍の社会科学者の対応を振り返りつつ、新型コロナが社会科学そのものをどのように変化させたのか、さらには、ポストコロナの時代における社会科学のあり方を考える礎としたい。
(紹介文執筆者: 社会科学研究所 教授 田中 隆一 (「はじめに:パンデミックの中の社会科学者 [加藤 晋、田中隆一、ケネス・盛・マッケルウェイン]」より) / 2024)
本の目次
第1章 パンデミックにおける社会科学の役割とその変容[加藤 晋,田中隆一]
1.はじめに
2.社会科学の歴史と社会的ショック
3.パンデミックと社会科学
4.おわりに
参考文献
I 情報と信頼
第2章 国民の政治意識の変遷[ケネス・盛・マッケルウェイン,澁谷遊野]
1.はじめに
2.コロナ関連の政治課題
3.研究方法
4.結果
5.考察・結論
参考文献
第3章 政府要請による社会的信念の変化[加藤 晋,飯田 高,石田賢示,伊藤亜聖,ケネス・盛・マッケルウェイン]
1.はじめに
2.データおよび方法
3.アナウンスメントの効果はあったのか?
4.アナウンスメントに効果があったのはなぜか?
5.おわりに
参考文献
第4章 パンデミック初期のSNS利用と人々の行動[庄司匡宏]
1.はじめに
2.不確実な情報の拡散事例
3.リスク回避行動における情報アクセスの重要性
4.パンデミック初期のオンラインアンケート調査
5.分析
6.本研究で明らかになったことと残された課題
7.長期化するパンデミックへ向けて
参考文献
第5章 信頼される「専門家」の特性[近藤絢子,ケネス・盛・マッケルウェイン]
1.はじめに
2.調査の説明
3.専門家に対する信頼度についてのRFSE
4.推計結果
5.まとめ
参考文献
II 健康と家族
第6章 パンデミックと主観的ウェルビーイングの軌跡[石田賢示]
1.問題の所在
2.コロナ禍における主観的ウェルビーイング
3.東大社研若年・壮年パネル調査
4.調査データから見える主観的ウェルビーイング水準の変化
5.生活状況により異なるコロナ禍の主観的経験
6.この研究を通して考えた「変化」の見方の変化
参考文献
第7章 パンデミックの若者・家族への影響:中学生と母親の追跡調査から[藤原 翔]
1.問題の所在
2.用いるデータとリサーチクエスチョン
3.子どもと母親の心理的ディストレスの推移
4.暮らし向きの変化
5.子どもと親の関係性の変化
6.新型コロナウイルス感染症対策の類似性
7.結論
参考文献
第8章 ソーシャル・ディスタンス政策のメンタルヘルスへの影響[瀧川裕貴,呂 沢宇,稲垣佑典,中井 豊,常松 淳,阪本拓人,大林真也]
1.はじめに
2.社会関係とメンタルヘルスに関する先行研究
3.データと方法
4.分析戦略
5.調査結果
6.考察
参考文献
III 社会と制度
第9章 パンデミックと司法制度[齋藤宙治]
1.はじめに
2.コロナ禍と裁判所─司法統計から
3.コロナ禍と民事裁判IT化
4.おわりに─コロナ禍から見た司法制度
参考文献
第10章 国際保健法の遵守確保:管理,制裁,報奨[中島 啓]
1.はじめに
2.管理と制裁
3.報奨
4.おわりに
参考文献
第11章 パンデミック下の雇用創出[川田恵介]
1.はじめに
2.雇用創出
3.職業紹介業務統計
4.“因果効果を測る”枠組み
5.“余剰を測る”枠組み
6.まとめ
参考文献
第12章 高等教育におけるオンライン授業の価値評価[エリック・ウィース,田中隆一]
1.はじめに
2.コロナ禍における文部科学省と高等教育機関の対応
3.コロナ期における高等教育に関する意識調査
4.調査結果
5.考察
参考文献
あとがき
索 引
執筆者紹介
関連情報
https://keisobiblio.com/2024/03/06/atogakitachiyomi_pandemictoshakaikagaku/
書評:
新刊書紹介 (『経済セミナー』2024年6・7月号 2024年5月)
https://www.nippyo.co.jp/shop/magazine/9275.html