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白い表紙

書籍名

新型コロナウイルス感染症と人類学 パンデミックとともに考える

著者名

浜田 明範、 西 真如、近藤 祉秋、吉田 真理子 (編著)

判型など

369ページ、四六判、上製

言語

日本語

発行年月日

2021年4月

ISBN コード

978-4-8010-0563-1

出版社

水声社

出版社URL

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学内図書館貸出状況(OPAC)

新型コロナウイルス感染症と人類学

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文化人類学は、研究を始めてから成果が出るまで比較的時間のかかる分野だと考えられている。他方で、近年は、危機や緊急事態に際し、即応的に研究を実施し、その成果を広く社会に共有していくという実践も重視されるようになっている。本書は、2020年以降の新型コロナウイルス感染症のパンデミックに際し、日本で活動する文化人類学者たちがそのような即応的な取り組みとして実施した研究の成果を取りまとめたものである。即応的な取り組みであるために、本書に収められている論考には、私の書いたものも含め、やや生煮えであることが否めないものも含まれている。とはいえ、それでもそれぞれが、2020年の春から秋にかけて人びとが経験したことに関する有益なリマインダーになっていることは強調しておきたい。
 
同時に、文化人類学者が中心になって執筆した本書には、特定の地域についての集約的な議論ではなく、世界各地のさまざまな地域 (日本、ケニア、アメリカ合衆国、フィリピン、バングラデシュ、ナイジェリア、タイ、韓国、ミャンマー) を対象とした論考が含まれているという特徴がある。目次をご覧いただければ分かるかと思うが、パンデミックをめぐってこの間なされてきた議論の重要な主題の多くを議論の俎上にあげていることも特筆すべきことだろう。
 
本書で用いられた手法も多岐にわたっている。たまたま現場に立ち会ってしまった経験に基づくオートエスノグラフィや、遠隔でのインタビューを取り入れたもの、医療者と人類学者の協働によって描かれたものや、インターネット上の発言を素材としたもの、理論的な検討やこれまでに書かれた感染症についての民族誌とのつながりから現実を浮かび上がらせようとするものなどがある。この意味で、本書は、フィールドワークに基づく対面的な参与観察を主たる方法として文化人類学者が、その手法を用いることが困難になった際に、それでもどうにかして研究を継続しようとしてきたことの痕跡ともなっている。
 
本書の出版以降、この原稿を執筆している2022年8月に至るまで、パンデミックは継続しており、そのときどきに異なる状況や論点が繰り返したち現れてきている。本書の執筆者たちは、その後も継続的にそれぞれの仕方でパンデミックとともに考え続けている。そのような、長く続く探究の最初の一歩の記録として、本書を手にとってもらえると幸いである。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 准教授 浜田 明範 / 2022)

本の目次

はじめに (浜田明範・西 真如・近藤祉秋・吉田真理子)
 
時間、環境、複数種
人間以上の存在とともに考える新型コロナウイルス感染症 (吉田真理子)
パンデミックの時間と笑い――未知のものへの想像力に関する比較から (内藤直樹)
新しい日常のための実験法――パンデミックと自閉症者の脳神経学的環境 (西 真如)
 
科学技術と自由
新型コロナウイルス感染症――行動変容というリスク・マネジメントと責任 (大北全俊)
アメリカ合衆国での抗体検査をめぐる期待と懸念 (桜木真理子)
感染者数とは何か――新型コロナウイルス感染症の実行と患者たちの生成 (浜田明範)
 
感染拡大と生活の再編
コロナ危機下の生活「再編」をめぐるエスノグラフィ――移住・自給自足・オフグリッド (北川真紀)
フィリピン・マニラにおける感染症対策と二つの「ホーム」 (石野隆美)
バングラデシュにおける新型コロナウイルス流行と低所得者層の生活変容――現地NGO・当事者との関わりから (田中志歩)
こんなことはいくらでもあったし、これからもある――ナイジェリアの都市で暮らす人びととパンデミック (緒方しらべ)
 
SNSを通じた共有と拡散
米国アラスカ州における新型コロナウイルスへの対応――自然資源豊かな地域ゆえのアイディアと課題 (近藤祉秋)
ソフトなロックダウン下での「怯え」――タイにおける社会的経験としてのコロナ禍 (岡野英之)
韓国の「コロナ19」禍に見る包摂と排除――インターネット上で繰り広げられた世論を事例として (澤野美智子)
 
医療者の視点
国境をまたげなくなる人びと――ミャンマー在留法人から考えるコロナ禍の医療 (吉田尚史)
「立ちすくみ」からの脱却――コロナ禍の介護現場におけるケアと安心をめぐる協働的民族誌の試み (奥 知久・島薗洋介)
パンデミック対策をローカライズする――日本におけるプライマリ・ケア医の実践 (飯田淳子・木村周平・濱雄 亮・堀口佐知子・宮地純一郎・照山絢子・小曽根早知子・金子 惇・後藤亮平・春田淳志)
 
おわりに (浜田明範・西 真如・近藤祉秋・吉田真理子) 

関連情報

書評:
土井清美 評 (図書新聞 3512号 2021年9月13日)
https://www.fujisan.co.jp/product/1281687685/b/2159779/
 
関連記事:
近藤祉秋、木村周平、浜田明範、西 真如、吉田真理子「「COVID-19と文化人類学」ラウンドテーブル開催報告とその後の活動」 (『文化人類学』85巻2号 pp. 366-369 2020年9月)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjcanth/85/2/85_366/_article/-char/ja/
 
浜田明範「新型コロナ「感染者を道徳的に責める」ことが、危機を長期化させる理由――必要とされる「ペイシャンティズム」」 (現代ビジネス 2020年4月7日)
https://gendai.media/articles/-/71660

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