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書籍名

縮減社会の合意形成 人口減少時代の空間制御と自治

判型など

248ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2018年12月14日

ISBN コード

978-4-474-06558-1

出版社

第一法規

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縮減社会の合意形成

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本書は、行政法学、法社会学、法哲学、政治理論、行政学、地方自治論、都市計画学の研究者10名からなる合意形成研究会の4か年の共同研究の成果である。ひとくちに合意形成といっても対象が広いため、日本が直面する人口減少・経済停滞という状況を「縮減社会」としてとらえ、縮減社会の合意形成に焦点を絞る。さらに、縮減社会は、人々の活動の空間が縮小または希薄化することととらえ、特に、土地利用・非利用についての合意形成問題が重要になると考え、空間制御に焦点を絞った。そして、土地利用・非利用あるいは空間制御は、個々の具体的な場所での合意形成を必要とすることから、具体的な場所に最も近い自治の問題として、扱うことになった。合意形成の一般理論への視野を持ちながら、縮減社会、空間制御、自治の3つに焦点を絞って、研究を行ったものである。
 
以上のような問題関心を序章で論じたのち、本書は三部構成からなる。第1部では、合意形成の原理論を展開する。縮減社会・空間制御・自治に絞った本書の分析の共通前提となる概念と理論を整理するとともに、本書を越えた合意形成の一般理論を展望することを可能とする。そこでは、合意形成とは異議申し立てがない状態と定義し、異議申し立てから様々な合意形成過程が展開されることとした (第1章)。そして、合意形成過程では、異議申し立てや合意への理由が重要であることを示す (第2章)。以上をもとに、縮減社会での合意形成の見取り図を描く (第3章)
 
第2部では、合意形成と法の作用が論じられる。法の作用としての合意形成が、ときとして望ましくない状態になることを前提に、そこから良いいみでの合意状態を目指す営みが論じられる (第4章)。また、自治や地域社会でみられる合意形成が日本特有でないことがドイツとの比較で明らかにされる (第5章)。合意形成は、裁判を予想して、逆算的に生じることが示される (第6章)。そのうえで、裁判を通じた公益間調整としての合意形成の可能性が論じられる (第7章)。
 
第3部では、合意形成を政策の面で論じる。一方では、ミクロの地区計画策定における合意形成の類型が詳細に示され (第8章)、他方で、広域的な都市計画における合意形成のパターンが解明される (第9章)。また、広域自治体である都道府県の政策決定における合意形成の多様な形態が論じられ (第10章)、また、国と自治体の合意形成を規定する構造が論じられる (第11章)。
 
以上を踏まえ、終章では、合意形成を決定権の所在の観点から再整理し、すべての章について横断的かつ統一的な理解を試みるとともに、将来の合意形成理論の発展への展望を示す。本書は、空き家や耕作放棄地の増大や、限界集落と地方消滅の予測のなかで、日本の自治体の現場で喫緊の課題である空間制御の問題に、合意形成の立場から解答を試みるものである。合意形成がうまくいかなければ、権力者による一方的な決定への期待が高まる。しかし、一方的な決定は、地域の関係者の意向を反映しないため、不適切な結果をもたらし、さらなる空間制御の問題を引き起こしかねない。合意形成の可能性を探ることが、縮減社会の日本では必要なことであるというのが、本書のメッセージである。

 

(紹介文執筆者: 法学政治学研究科・法学部 教授 金井 利之 / 2021)

本の目次

序 章 合意形成という問題(金井利之)
 1 空間利活用と合意形成
 2 統治権力と空間利活用
 3 人口減少・経済縮小社会の空間利活用
 4 本書の構成

第1部 合意形成の原理論

第1章 合意形成とは何か?(齋藤純一 嶋田暁文)
 1 状況概念としての「合意」
 2 合意形成の展開プロセス
 3 合意形成主体の範囲
 4 「合意形成主体の範囲を問う」プロセス
 5 利害をめぐる合意と価値をめぐる合意
 6 立場と利害――「同床異夢」の重要性
 7 合意形成手続の充実化がもたらすもの
 8 人口減少・経済縮小と合意形成
第2章 合意形成における理由の検討(齋藤純一)
 1 合意形成をめぐる状況
 2 合意形成において考慮される諸理由
 3 理想的状況と非理想的状況
 4 非理想的状況における合意形成
 5 縮小社会における合意形成への含意
第3章 人口減少・経済縮小時代の合意形成――差異への着目(嶋田暁文)
 1 問題意識
 2 考察枠組み
 3 各事象をめぐる合意形成のあり様の差異
 4 政治的営みとしての合意形成

第2部 法の作用と合意形成

第4章 法の生理による「合意の非形成」と行政介入――「見棄てられた建築物」の社会的管理(北村喜宣)
 1 合意の非形成がもたらす法的フリーズ
 2 法的フリーズの解消方法
 3 不適正管理空き家と「積極的合意の非形成」
 4 不適正管理マンションと「積極的合意の非形成」
 5 合意の「質」と「安定性」
第5章 ドイツ地域社会の合意形成文化(名和田是彦)
 1 ドイツの地域コミュニティにおける多数決文化
 2 ブレーメン市の社会都市プログラムにおける全員一致原則と合意形成
 3 全員一致はなぜ望ましいのか
 4 地域社会における社会的承認欲求充足の仕組みとしての合意形成プロセスと合意による議決
第6章 合意形成と裁判(阿部昌樹)
 1 交渉の決裂可能性
 2 法の影での合意形成
 3 ごみ焼却施設の建設をめぐる裁判と合意
第7章 公益間調整訴訟の可能性――原告適格論の改鋳を通じて(原島良成)
 1 本章の問い
 2 辺野古紛争に見る国・自治体間の「合意形成不全」
 3 原告適格論における私権救済ドグマ
 4 原告適格要件の合意論的展開
 5 政府原告適格の可能性

第3部 政策決定と合意形成

第8章 空間制御における合意形成――地区内の合意、市町村と地区の合意(内海麻利)
 1 縮減社会の都市空間の再編と自制的規制
 2 都市計画決定と地区計画策定手続
 3 事例としての「コモンシティ浦安」
 4 合意形成の実態:起案局面、計画策定局面、計画決定局面
 5 地区内の合意、市と地区の合意
 6 空間制御における合意形成への示唆
第9章 大規模集客施設等の立地や都市計画の決定・変更に関する広域調整に見る合意形成の課題(村山武彦)
 1 人口減少時代における都市の中心部と郊外部の間の土地利用に関する調整問題
 2 都市計画法における広域調整の手続の経緯
 3 都道府県が定めるガイドラインの内容分析
 4 個別事例に見る広域調整の進め方
 5 今後の方向性
第10章 都道府県の政策決定と合意形成――政策事例に基づく実証分析の試み(礒崎初仁)
 1 なぜ合意形成が問題か――課題の設定
 2 分析の枠組みと事例の選定
 3 政策決定の事例分析――合意形成の要因と戦略
 4 政策決定における合意形成の特徴と今後のあり方
 5 今後の合意形成のあり方
第11章 国・自治体間の合意形成の構造(金井利之)
 1 国・自治体間の合意形成の諸様式
 2 都市化社会
 3 縮減社会
 4 合意形成の構造
終 章 空間制御の合意形成理論序説(金井利之)
 1 空間制御と政策一般
 2 決定権の配分と合意形成
 

関連情報

関連情報:
〔合意形成研究会〕 縮減社会の合意形成 ― 人口減少時代の空間制御と自治 ― (上) (『自治総研』487号2019年5月)
http://jichisoken.jp/publication/monthly/JILGO/2019/05/goui1905.pdf
 
〔合意形成研究会〕 縮減社会の合意形成 ― 人口減少時代の空間制御と自治 ― (下) (『自治総研』488号2019年6月)
http://jichisoken.jp/publication/monthly/JILGO/2019/06/goui1906.pdf
 
刊行記念シンポジウム:
刊行記念シンポジウム 縮減社会の合意形成 -人口減少時代の空間制御と自治- (合意形成研究会 2018年12月9日)
https://www.tokeikyou.or.jp/goui/
 
書評:
平田彩子 評 (『法社会学』86号p.191-195. 2020年3月)
http://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641126152

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