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オレンジとブラウンの表紙

書籍名

Russia and Its Northeast Asian Neighbors China, Japan, and Korea 1858-1945

判型など

200ページ、ハードカバー

言語

英語

発行年月日

2017年

ISBN コード

978-1-4985-3704-9

出版社

Lexington Books

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ロシア帝国が東北アジアの国際関係に本格的に参入したのは1858年のアイグン条約によってであった。その後のロシア帝国とソ連は、東北アジアにおける、あまり重要でない新参者として歴史書に描かれてきた。ロシアの極東進出が清帝国の国制の背骨たる八旗制を掘り崩したこと、明治初期日本の征韓論に影響を与えたことなどには関心が払われなかった。
 
こうした事態の背景には、研究に言語障壁があり (東アジア史や日本史の専門家の中でロシア語が読める人は少ないし、逆もまた然り)、特に日本では、東北アジア史の研究と教育が西洋史 (ロシア極東)、東洋史、日本史で分割されてきたという事情がある。近年、こうした垣根を越え、東北アジア全体を有機的に結びついた広域史として捉える視角が育ってきた。そこで明らかになったのは、ロシア‐ソ連が地域において意外に重要な役割を果たしてきたということである。
 
本論文集は、2010年にストックホルムで開催された国際東欧・中欧研究評議会 (ICCEES) 世界大会に提出されたペーパーを中心に、日本から8人、イギリス、ロシア、ドイツからそれぞれ1人の歴史家の参加を得て編まれた。2017年にLexington Booksから出版されると、Slavic Review, Russian Reviewなどの多くの一流学術誌に書評され、ソフトカバー版もすぐに世に出た。
 
本論文集は、東北アジア各国史の寄せ集めではなく、本当の意味での広域史を提供することを目指した。そのため、ロシアの極東進出が明治初期日本の対外政策や清末の満洲統治の機構改革に与えた影響を分析した。同時に、中国東部鉄道や中国海関のようなトランスナショナルな企業体が極東の地域形成に果たした役割に注目した。さらに、日露戦争中のロシア人捕虜の日本体験、日露両国の戦時プロパガンダ、ロシアのジャーナリズムにおける日本の皇室の報道のされ方などを通じて、日露両国民の相互イメージを分析した。
 
ロシア革命は、白系ロシア人というトランスナショナルなコミュニティを極東でも生んだ。本書は、中国海関や中国東部鉄道に勤務し、ハルビン市にロシア文化の花を咲かせた白系ロシア人の運命を追跡する。最後に、中国民族運動が進展したことにより、ソ連外交は日本との関係改善を優先するか、日本との関係をある程度悪化させてでも中国の民族運動への支援を続けるかというジレンマに悩まされた。国交正常化後日本に最初に派遣されたソ連大使ヴィクトル・コップが前者の立場を取って、帝政期の日露協商に類似した勢力圏分割外交を日本に持ちかけていたことに本書は注目する。

 

(紹介文執筆者: 法学政治学研究科・法学部 教授 松里 公孝 / 2021)

本の目次

Introduction: Russia as a Decisive Factor in the Modern History of Northeast Asia
   Kimitaka Matsuzato
1 Russia's Expansion to the Far East and Its Impact on Early Meiji Japan's Korea Policy
   Shinichi Fumoto
2 The Russian Factor Facilitating the Administrative Reform in Qing Manchuria in the Late Nineteenth and Early Twentieth Centuries
   Susumu Tsukase
3 Imperial Ambitions: Russians, Britons and the Politics of Nationality in the Chinese Customs Service, 1890—1937
   Catherine Ladds
4 Development of Trade on the Amur and the Sungari and the Customs Problem in the Last Years of the Russian Empire
   Yukimura Sakon
5 Making a Vancouver in the Far East: "The Trinity Transportation System" of the Chinese Eastern Railway, 1896—1917
   Masafumi Asada
6 Japanese-Russian Kulturkampf in the Far East, 1904--1905: Organization, Methods, Ideas
Dmitrii B. Pavlov
7 Captured or Captivated? The War against Japan (1904--1905) in the Memories of Russian POWs
  Andreas Renner
8 From the Meiji Emperor's Funeral to the Taisho Emperor's Coronation: Reporting the Japanese Imperial System in the Russian Press
Yoshiro Ikeda
9 Two Russias in Harbin: The Emigre and the Soviet Communities
Michiko Ikuta
10 V. L. Kopp and Soviet Policy towards Japan after the Basic Convention of 1925: Moscow and Tokyo's Failed "Honeymoon"?
Yaroslav Shulatov
 

関連情報

書評:
Susanne Hohler 評  (Slavic Review, Volume 77, Issue 3  2018年10月25日)
https://www.cambridge.org/core/journals/slavic-review/article/russia-and-its-northeast-asian-neighbors-china-japan-and-korea-18581945-ed-kimitaka-matsuzato-lanham-lexington-books-2017-xxi-200-pp-notes-index-tables-maps-8500-hard-cover/D874A4CD5091E512410C09CD53051161/core-reader
 
Ivan Sabrin 評「Russia and Its Northeast Asian Neighbors: China, Japan, and Korea, 1858–1945 ed. by Kimitaka Matsuzato」 (Ab Imperio, no. 1, 2018, pp. 345–350)
https://muse.jhu.edu/article/695577
 

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