東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

クリームイエローと赤の表紙

書籍名

ロシア革命とソ連の世紀 1 世界戦争から革命へ [全5巻]

判型など

320ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2017年6月15日

ISBN コード

9784000282666

出版社

岩波書店

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2017年、岩波書店から5巻本の論文集『ロシア革命とソ連の世紀』が刊行された。第1巻「世界戦争から革命へ」、第2巻「スターリニズムという文明」、第3巻「冷戦と平和共存」、第4巻「人間と文化の革新」、第5巻「越境する革命と民族」のうち、私は第1巻の編集を受け持った。「近代」や「社会主義」といった抽象的な概念を基準にするのではなく、ロシア史の具体的な展開の中にロシア革命とソ連を埋め込むことを心掛けた。
 
ここでは私の総説「ロシア革命とは何だったのか」の内容を紹介したい。これはロシア革命とソ連の歴史を「革命の語り (narrative)」という観点から再検討する試みである。一般に革命は、それ自身の強力な語りを生み出す。その語りを通じて革命は自らをドラマ化するのである。個々の出来事はこの語りのシナリオに沿って結びつけられ、立ち上がった人民の壮大な闘争の物語として描きだされる。このドラマの語り手となるのは誰よりもまず、人民の名で語る新しい統治者である。とはいえ一般の人々もまた、しばしばそうした物語を自分たちのものとして考える。人民の闘争というシナリオによるドラマ化は革命一般につきものの現象だが、1917年のロシア革命は以下の点において際立っていた。すなわちロシア革命の語りは社会主義を標榜することによって、ソ連国内でも、国外ではなおのこと、著しい魅力を放ったのである。
 
ロシア革命の語りは、20世紀世界に大きな影響を与えた。それは世界中の貧しい人々によりよく、新しく、革命的なものの探求を促し、植民地と半植民地の人々に独立運動を促した。ロシア革命までは、進歩の展望は何よりもまず西ヨーロッパによって提示されており、それは非常にヨーロッパ中心的であった。国民国家原理に立脚することで高度の組織力と機動性を獲得し、軍事力と科学技術において圧倒的であった西ヨーロッパ諸国は、みずからを世界で最も先進的な、あるいは唯一の文明として描き出し、アジアとアフリカの諸地域に植民地となるか、ヨーロッパ・モデルにのっとり必死でおのれを改造するかを強いた。まさにこうしたヨーロッパ中心的なモデルに対抗し、社会主義という別の道があると全世界に唱えたのが革命ロシアなのであった。
 
だが、20世紀終わりまでにアジアとアフリカの諸地域も少なくとも外面的な近代化は成し遂げた。それとともにヨーロッパ自体が文明モデルとしての威光を失い、社会主義もまた対抗モデルとしての魅力を喪失した。ソ連崩壊とともにロシア革命の語りの発信者も消えた。いまやわれわれは、ロシア革命の語りに囚われてロシア革命を考えるということをやめ、あらためてロシア革命とソ連に向き直ることができる地点にいるのである。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 准教授 池田 嘉郎 / 2019)

本の目次

刊行にあたって
総説 ロシア革命とは何だったのか 池田嘉郎
 
I  岐路に立つロシア帝国
1 経済のグローバル化とロシア帝国 左近幸村
2 日露戦争とロシア帝国のネイション・ビルディング 土屋好古
3 総力戦社会再訪――第一次世界大戦とロシア帝政の崩壊 松里公孝
 
II  動乱と再生
4 二月革命――帝政エリートの反乱 アンドレイ・ニコラーエフ
5 赤い動乱――十月革命とは何だったのか ウラジーミル・ブルダコーフ
6 ボリシェヴィキ政権の制度と言説 池田嘉郎
7 ロシア革命と極東の国際政治 ヤロスラブ・シュラトフ
 
III 新しい社会の模索
8 ソヴィエト政権と農民―-「労農同盟」理念とネップの運命 浅岡善治
9 社会刷新の思想としての計画化 鈴木義一
10 ネップのソ連と亡命ロシア 中嶋 毅
 
コラム
a 帝政末期の社会とツァーリの表象 巽由樹子
b 革命ロシアと世界のユダヤ人 鶴見太郎
c ユーラシア主義とソ連 浜由樹子
d ハンガリー革命 辻河典子
e シベリア出兵と極東共和国 井竿富雄
関係略年表/索引
 

関連情報

書評:
今週の本棚・新刊 (『毎日新聞』2017年12月3日朝刊)
https://mainichi.jp/articles/20171203/ddm/015/070/008000c
 

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