東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白い表紙に雲状の赤い模様

書籍名

岩波新書 ロシア革命 破局の8か月

著者名

池田 嘉郎

判型など

256ページ、新書判、並製

言語

日本語

発行年月日

2017年1月20日

ISBN コード

9784004316374

出版社

岩波書店

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

ロシア革命

英語版ページ指定

英語ページを見る

『ロシア革命 破局の8か月』は、1917年のロシア革命とは何だったのかを語った本です。ロシア革命は大事件でありながら、日本では長く、一冊で手頃に読める本がありませんでした。1960年代や70年代には、社会主義への関心を背景にして、ロシア革命についても色々な本が書かれましたが、今となってはそれらの本で示されている歴史像は、だいぶ古びたものとなりました。専門家はあたらしい革命研究を行なってきたのですが、広範な読者に向けてその成果を伝えるような本はあまりありませんでした。ロシア革命100周年を機に拙著を刊行できたことで、この空白を少しは埋められたのではないかと思っております。
 
1960年代・70年代頃に語られていたロシア革命像は、どのような点が古びたものとなったのでしょうか。第一に、それは勝者であるボリシェヴィキ中心史観に立っていました。それによれば、帝政崩壊と臨時政府の成立をもたらした二月革命は中途半端な革命に過ぎず、ボリシェヴィキが民衆を率いて権力を獲得した十月革命こそが、真の革命であったということになります。たしかにボリシェヴィキに寄り添い過ぎることには当時から批判がなされ、敗者となった穏健社会主義者の研究もなされました。ですが、第二に、その場合でも、社会主義という理想に対しては、共感をこめて叙述されることがもっぱらでした。そのため、穏健社会主義者よりも先に臨時政府を支えた、有産層中心の自由主義者については顧みられることがありませんでした。第三に、やはり全般的に言えることとして、そもそも革命なる事象が、人類史の進歩を促す出来事として肯定的に評価されていました。第四に、民衆の行動も、おおむね無条件に肯定的なものとして捉えられていました。革命も、抑圧されていた民衆が「立ち上がった」出来事であると理解されていたのです。
 
これら全ての点を共通して支えていたのは、歴史は進歩する、その原動力は民衆であるという歴史観です。日本の場合、1930年代から45年までの体制が抑圧的であったことは事実ですので、敗戦によってそれが崩壊したことで、60・70年代頃まではこのような歴史観が相当のリアリティをもって受け入れられていたと言えます。ですが今日、このような歴史観は、多くの人にとっては単純過ぎて見えるのではないでしょうか。少なくとも私は、個々の社会・時代は、それぞれが固有のシステムなのであって、必ずしもより新しい時期にあるものの方が進んでいるとは言えないと考えています。また、そうしたシステムは、民衆の力によって前進運動を行なっているよりは、諸々の要素の複合によって日々の安定と均衡が保たれているように思います。
 
このような歴史観に立ったとき、革命とはシステムの崩壊であり、とりわけ1917年のロシア革命は、社会秩序全体が崩壊するような破局でした。この破局は、二月革命で、システム全体の軸であった専制君主が消滅することで始まりました。それとともに、地主や工場長や将校といった指導層が、専制君主に源を発する家父長的な権威を振るうことで、民衆を服従させるというシステム全体の解体が生じます。民衆は統御されることなく街頭に溢れ、自分たちの要求を実力で実現し始めました。この民衆の波に乗ったのがボリシェヴィキです。逆に臨時政府は民衆の波を、西欧流の法規範の枠にはめようとしました。二月革命に始まる臨時政府のそうした8か月の苦闘を、これまで顧みられなかった自由主義者に焦点を当てて描いたのが、拙著『ロシア革命 破局の8か月』です。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 准教授 池田 嘉郎 / 2018)

本の目次

はじめに――運命の年、一九一七年
第1章  一〇〇年前のロシア
    1  ニコライ二世の御世 / 2  世界大戦下のロシア
第2章  二月革命――街頭が語り始めた
    1  革命の始まり / 2  ロマノフ朝の運命
第3章  戦争と革命
    1  革命政権の出発 / 2  臨時政府対ペトログラード・ソヴィエト / 3  四月危機
第4章 連立政府の挑戦
    1  連立政府の発足 / 2  革命議会の不在 / 3  民衆の動向
第5章  連邦制の夢
    1  諸民族のロシア  2  二月革命と帝国
第6章  ペトログラードの暑い夏
    1  七月危機 / 2  あらたな連立を求めて / 3  モスクワへ!  モスクワへ!
第7章  コルニーロフの陰謀?
    1  高まる緊張  2  衝突
第8章  ギロチンの予感
    1  ボリシェヴィキ復活 / 2  民主主義会議 / 3  第三次連立政府
第9章 十月革命
    1  危機のロシア / 2  十月革命
エピローグ
おわりに――ロシア革命と現在
人名索引
 

関連情報

書評:
沼野充義・評 『ロシア革命-破局の8か月』=池田嘉郎・著
今週の本棚 (毎日新聞朝刊 2017年3月5日)
http://mainichi.jp/articles/20170305/ddm/015/070/020000c
 
新書で歴史を読む 第2回 松沢裕作さん (慶應義塾大学准教授)
B面の岩波新書 (岩波新書編集部 2018年7月7日)
https://www.iwanamishinsho80.com/contents/matsuzawayusaku
 

このページを読んだ人は、こんなページも見ています