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書籍名

福祉転用による建築・地域のリノベーション 成功事例で読みとく企画・設計・運営

著者名

森 一彦、加藤 悠介、松原 茂樹、山田 あすか、 松田 雄二 (編)

判型など

152ページ、A4判

言語

日本語

発行年月日

2018年3月20日

ISBN コード

978-4-7615-3238-3

出版社

学芸出版社

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学内図書館貸出状況(OPAC)

福祉転用による建築・地域のリノベーション

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日本の高齢化と人口減少の進展は、すでに私たちの目の前に立ち現れている現状にほかならない。この結果として、住み手を失った空き家は増加し、地域内では生徒のいなくなった学校など、社会的使命をまっとうして使われなくなった建物も多く見られるようになった。他方で、介護保険制度や障害者支援制度においては、なるべく多様な人びとが、慣れ親しんだ街に住み続けることが目指されているが、そのための住まいや居場所など、生活を受け止める環境づくりはなかなか進んでいない。その結果、介護が必要になった高齢者、あるいは手厚いケアを必要とする重度の障害のある人々などの多くは、ある時点で住み慣れた土地を離れ、見知らぬ土地の施設などで新たに生活を始めなければならなくなってしまっている。
 
地域には、まだ活用できる建築ストックがあるにもかかわらず、人々がそれらを利用できずに住み慣れた地域を離れなければならないのはなぜなのか、このような問題意識から、13名の建築計画学の研究者がチームをつくり、4年にわたって海外を含めた様々な地域、事例を訪ね、どのようにすれば、すでにある地域の建築ストックを多様な人びとが暮らすことのできる地域作りに活用することができるのかについて、調査を行った。本書は、この調査の結果を、多様な事例や海外調査の報告も含め、わかりやすくまとめたものである。
 
4年間の調査やその間に行われたディスカッション、そして本書の執筆作業では、日本の建築や福祉における様々な課題が明らかになった。例えば、日本では永らく1つの建物が1つの役割しか持たない「1建物1用途」の考え方が法制度の前提とされてきた。そのため、建物の役割 (用途) を大きく変えて使おうと考えた際には、様々な法律的・手続き的なハードルをクリアしなければならず、専門家であっても対処が難しい場合がある。また、特に筆者らが着目した「福祉」という用途では、利用者の安全を守るために多くの基準を満たす必要があり、他の用途で使用していた建物を福祉用途に転用する際には、大きな改修が必要となってしまうことが多々見られる。結果として新築の方がコストがかからない、となることすらあり得てしまうこともある。
 
しかし、本研究を進める中で、これらの困難を上手に回避し、街の人々が慣れ親しんだ建物を、福祉的ニーズを持った多様な人びとの集まる場所として生まれ変わらせている事例にも、多く出会うことができた。そこで得られた教訓は、このような「福祉転用」の実現には、地域の実情とニーズに併せた丁寧な計画と、できること・できないことを仕分けながら注意深くプロジェクトを進めてゆくことの、両者が求められるということだ。本書では、多様な成功事例を紹介しつつ、福祉転用を実現させるために必要なプロセスとアドバイス、そして福祉転用による地域の変化の実例をまとめている。本書が、地域に豊かな生活環境をつくり出すことの一助となれば、幸いである。

 

(紹介文執筆者: 工学系研究科 准教授 松田 雄二 / 2020)

本の目次

1章 福祉転用を実現する10のステップ
2章 成功事例で読みとく福祉転用の工夫
3章 福祉転用と地域のリノベーション
4章 海外に学ぶ福祉転用の考え方
5章 福祉転用を始める人への10のアドバイス

関連情報

研究会、セミナー:
福祉転用による建築・地域のリノベーション −建築と社会をつなぐ仕掛けとしての福祉転用− (建築計画委員会 施設計画運営委員会 福祉施設小委員会 2018年10月11日)
http://www.aij.or.jp/jpn/symposium/2018/181011_j250.pdf
 
『福祉転用による建築・地域のリノベーション』出版記念セミナー (大阪市立大学文化交流センター 2018年4月13日)
https://kenchiku.co.jp/event/evt20180320-1.html

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