東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白い表紙に青の線画イラスト

書籍名

ユニバーサルデザインの基礎と実践 ひとの感覚から空間デザインを考える

著者名

(一社) 日本福祉のまちづくり学会 身体と空間特別研究委員会 (編)、原 利明、伊藤 納奈、太田 篤史、船場 ひさお、 松田 雄二、 矢野 喜正 (共編著)

判型など

168ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2020年10月

ISBN コード

9784306073562

出版社

鹿島出版会

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

ユニバーサルデザインの基礎と実践

英語版ページ指定

英語ページを見る

世界にも類を見ない急速な高齢化が進展するなか、日本では高齢や障害などによって「普通」の人とは異なるニーズを持つ人でも、困ることなく街中で生活ができるよう、バリアフリー・ユニバーサルデザインに関わる様々な法律やガイドラインがつくられてきた。その結果として、主要な交通拠点にはエレベーター・エスカレーターが設置されるとともに視覚障害者誘導用ブロック (通称「点字ブロック」) の敷設が進み、様々なニーズに対応したトイレやホームドアの設置なども進んでいる。また2013年のオリンピック招致決定後には、ホテルや競技場、小規模店舗などのバリアフリー規準も改定され、形式的には都市と建築のバリアフリー・ユニバーサルデザインはかつてない勢いで進展した。他方で、実際の多様なニーズを持つユーザーからは、未だ都市や建築には多くのバリアが残り、日常の様々な場面で不便や不安、あるいは危険な思いをすることがあるとの声が聞かれることも、また確かである。
 
このような状況と関連する出来事として、2011年の東関東大震災直後の節電による照明の削減や一時消灯により、視覚障害者から「普段歩けている経路が歩けなくなった」との声が聞かれた。これは、普段手がかりとは考えていなかった照明が、実は極めて重要な歩行時における手がかりであったことを、障害当事者自身も気がついていなかったという事実を示している。視覚障害者に対しては、視覚障害者誘導用ブロックや音サインを設置すればよいと考えていた設計者にとって、ほんとうに有効な環境整備手法はどのようなものか、再考を促す出来事であった。
 
これらの状況を背景として、福祉のまちづくり学会に所属する研究者や設計者、デザイナー、そして障害当事者が集まり立ち上げたのが、「身体と空間特別研究委員会」である。この研究委員会では、都市や建築におけるユニバーサルデザインをよりいっそう進める上では、もう一度「人間の身体」に立ち返り、人間がどのように情報を利用しているのか、またその際に求められる適切な環境はどのようなものなのかを根拠を持って確かめ、その上で環境整備を進める必要があるとの認識の元に、様々な研究成果や実践を持ち寄り、その根拠と効果について議論と意見交換を行った。その内容を、初学者にも分かりやすいようにまとめ直したのが、本書である。
 
本書は「基礎編」と「実践編」によって構成される。「基礎編」では、人がどのように視覚・聴覚・触覚などからの情報を受け取り、それによって空間を認識しているのかを解説し、「実践編」ではそれらの受け取り方に基づいたユニバーサルデザイン実践のこころみを、異例に基づき説明した。本書が、読者諸兄に貴重な気づきをもたらし、都市や建築の新たなあり方を見いだすきっかけになることを、著者一同期待している。
 

(紹介文執筆者: 工学系研究科 准教授 松田 雄二 / 2023)

本の目次

基礎編 
見ること・聞くこと・触ること・移動すること

第1章 見ること──「見ること」をもう一度考えてみよう
    「見ること」とは
    高齢者・ロービジョン者にとっての「見ること」
    先天色覚異常と「見ること」
    「見ること」による空間認知──ロービジョン者の歩き方を通して
    Column ブラインドサッカーとは何か(葭原滋男)
第2章 聞くこと──「音を聞く」とはどういうことなのか
    「聞くこと」とは
    高齢者・聴覚障害者にとっての「聞くこと」
    「聞くこと」による空間認知──視覚障害者から学ぶ
    Column 聞こえやすい音環境──突発性難聴の視点から(布施雄一郎)
第3章 触ること──普段「触ること」を意識していますか
    「触ること」とは
    「触ること」による空間認知──視覚障害者の歩き方を通して
    Column 日本橋再発見(芳賀優子)
第4章 移動すること──「移動すること」を科学する
    「歩くこと」とは──移動の基本
    「移動すること」と感覚
    「移動すること」を学ぶ──中途視覚障害者の歩行訓練を通して
    Column 頭の中の通勤経路(葭原滋男)
 
実践編
「プラスのデザイン」から「マイナスのデザイン」へ
デザインの可能性──ひとの感覚から空間を考える(原 利明)
室内空間のデザイン──見えづらさを支える施設設計(桑波田謙)
駅空間のデザイン──ホームドアにみる安全対策(大野寛之)
道路空間のデザイン──路面表示の活用(稲垣具志)
視覚障害者誘導用ブロックのデザイン──その成り立ちから(大野央人)
点字・触知案内図のデザイン──その可能性を高めるために(和田 勉)
サインのデザイン──公共空間のわかりやすい案内(中村豊四郎)
音環境のデザイン──トータルデザインのための3つの視点(武者 圭)
光環境のデザイン──照度から輝度へ(石田聖次)
 

関連情報

著者インタビュー:
松田 雄二 — バリアのない建築へ (東京大学 | YouTube 2020年2月28日)
https://www.youtube.com/watch?v=2J7vvfBPJZU
 
INTERVIEW | 医療施設におけるユニバーサルデザイン:ユニバーサルデザインを理解するためのポイント (鹿島建設株式会社ホームページ)
https://www.kajima.co.jp/tech/healthcare/universal_design/interview/matsuda/index.html
 
書籍紹介:
著者による紹介「この一冊」 (『福祉のまちづくり研究』22巻3号 2020年12月15日)
https://doi.org/10.18975/jais.22.3_74
 
イベント:
中央大学ダイバーシティセンター 講演会「ユニバーサルデザイン/バリアフリーマップの設計思想と建築計画」 (中央大学ダイバーシティーセンター 2022年11月18日)
https://www.chuo-u.ac.jp/academics/faculties/letters/major/sociology/news/2022/11/63289/
 
第7回 社会資本としての住環境研究会『ユニバーサルデザインの基礎と実践』出版記念セミナー「ひとの感覚から空間デザインを考える - プラスのデザインからマイナスのデザインへ」 (東京大学REDDY、一般社団法人LIFETIME HOMES ASSOCIATION 2021年2月13日)
http://lifetimehomes.jp/img/LHA210213.pdf

このページを読んだ人は、こんなページも見ています