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公園でマラソンや虫取りしている人々のイラスト

書籍名

人と生態系のダイナミクス 3 都市生態系の歴史と未来

判型など

180ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2020年10月1日

ISBN コード

978-4-254-18543-0

出版社

朝倉書店

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都市生態系の歴史と未来

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都市は人が社会・経済・文化的な活動を行うために造られた、人間主体的な場所である。道路や建物などの人工的な要素だけでなく、公園や庭木、水辺などの自然的な要素に至るまで、人間の嗜好や都合に即してつくられている。そのため、都市生態系は、森林や草原、河川、干潟など、人類が出現する前から存在していた環境に成立する生態系とは異なり、ある意味で特殊な生態系である。
 
また、都市は、時代とともにダイナミックにその姿を変え続けている。都市は、その土地の気候風土のもと、常に時代毎の社会・経済・文化的な活動に影響され、変化し続けてきた。また、昨今では都市のヒートアイランド現象や地球規模での気候変動の影響により、都市が寄ってたつ気候風土そのものが変わりつつある。都市の生態系もまた、それらの変化に呼応して常に変容を続けている。
 
そのような都市生態系のダイナミクスを理解し、またそれをより好ましい方向に変えていくためには、生態学と都市計画を融合させた、学際的な知見が不可欠である。本章は、その必要性に応えるべく、東京大学の農学部と工学部の若手研究者3名が共同で執筆した書籍である。生態学を専門とする曽我と、都市計画を専門とする飯田に、両分野に関わりをもつ土屋が加わることで、生態学と都市計画の双方の分野にとって新鮮な視点を提供することを目指した。
 
本書の構成は、都市の生態系の「過去」・「現在」・「未来」のそれぞれの視点から、都市における人と自然との関わり合いを読み解いていく内容となっている。まず「過去」については、平城京からこれまで約1300年にわたる、我々日本人の都市での暮らしと自然との関わり合いに焦点をあて、歴史を紐解いていく。一方で、都市生態系に関する研究はまだ比較的新しく、ここ20年ほどの研究の蓄積の中で、ようやくその全体像が浮き彫りになってきた段階である。そこで、「現在」については、日本の都市の生態系を考える上で重要な視点や知見について、特に生物多様性、人と自然との関わり合い、自然の恵みの3つの観点から、最新の研究も交えて紹介する。そして、「未来」については、昨今世界的に広まっているグリーンインフラストラクチャーの概念に触れ、自然の恵みとその基盤である生物多様性を賢く活かし、都市生態系と私たちの暮らしの双方をより良いものにしていくための都市づくりの潮流と今後の展望を述べる。
 
生態学と都市計画の分野はいまだ交流が多いとは言えないが、両分野の融合は今後の都市生態学研究および都市計画の大きな流れとなると信じている。本書は、どちらの分野に関心がある人にとっても、新鮮な視点を提供できるよう心かげながら執筆した。是非多くの方々に手にとっていただきたい。

 

(紹介文執筆者: 工学系研究科 特任講師 飯田 晶子、農学生命科学研究科 准教授 曽我 昌史、助教 土屋 一彬 / 2020)

本の目次

第1章 都市生態史:都市生活と自然との関わりの1300年
1.1 都市の歴史へのまなざし
1.2 食べものからみた都市と生態系の歴史
1.3 都市住民による自然体験の歴史
 コラム1 都市の子供たちによる昆虫採集

第2章 都市生態系の特徴:生物多様性の観点から
2.1 都市でなぜ生物多様性を考えるのか
2.2 物理的環境の特徴
2.3 都市化に伴う「生息地の分断化」
2.4 都市の生物群集の特徴
2.5 都市の生物群集の時空間ダイナミクス
2.6 都市に住む生物種の特徴:都市環境への適応
2.7 変わる生物同士の関係
2.8 外来種の侵入
2.9 都市に隠された生息地

第3章 都市における人と自然との関わり合い
3.1 都市で「人と自然との関わり合い」を考える意味
3.2 自然との関わり合いの程度を決めるもの
3.3 自然との関わり合いと健康の関係
 コラム2 木が枯れると人も死ぬ
3.4 自然との関わり合いと生物多様性保全の関係
3.5 「経験の消失」スパイラル
3.6 人と自然との関わり合いの再生に向けて

第4章 都市における自然の恵み
4.1 都市を洪水から守る
4.2 都市の暑さを和らげる
4.3 食と健康と暮らしを支える
 コラム3 東京でみつける春の七草

第5章 自然の恵みと生物多様性を活かした都市づくり
5.1 都市の自然を活かす思想と手法
5.2 都市の自然に関わる主体としくみ
 コラム4 帯広のエゾリス
5.3 人と都市の生態系のダイナミクスの未来
 

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