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書籍名

図書館がつなぐアジアの知 分類法から考える

判型など

228ページ、四六判

言語

日本語

発行年月日

2020年4月10日

ISBN コード

978-4-13-003602-3

出版社

東京大学出版会

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学内図書館貸出状況(OPAC)

図書館がつなぐアジアの知

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東京大学アジア研究図書館は、2020年10月1日に本郷キャンパスの拠点図書館である総合図書館の4階にオープンした新しい研究図書館である。
 
多部局の連携によって運営されるこの図書館は、学内の様々な図書館・図書室に点在する豊富なアジア研究資料を可能な限り総合図書館内に集め、広く利用に供するとともに、所属や専門を超えて集まる資料と人の交流によって新しいアジア研究を生み出す場となることを目指している。
 
このような図書館の実現を、アジアの資料に精通した研究者の立場から支援するために、公益財団法人上廣倫理財団の寄付を受け、2014年に設置されたのが、本書の編者であるU-PARLこと東京大学附属図書館アジア研究図書館上廣倫理財団寄付研究部門である。
 
アジア研究図書館の開館にむけてU-PARLが取り組んだ課題のうち、図書をどのように並べるか、すなわち書架分類をどう設定するかということは、大きな課題のひとつであった。本書は、その成果である「アジア研究図書館分類表」について詳説するとともに、分類や図書の配列について様々な角度から再考することを目的として編まれた論文集である。
 
本書は2部構成をとり、前半となる第I部は、主にアジア研究図書館およびU-PARL関係者による論考3編とコラム3編からなる。第1章は、アジア研究図書館の構想が、いつ、どのような人たちの間で、どのような思いで形づくられたのかについて、当事者が語る貴重な証言である。
 
第2章は、アジアを語る東洋学と、知を分類する視点に同じ近代知の権力性を見てとりつつも、新しい可変的・横断的な知識の枠組みによって新しいアジア研究と分類の可能性を示す論文である。
 
第3章は、U-PARLが主体となって、図書系職員や外部の研究者の意見を参考にしつつ策定した、「アジア研究図書館分類表」の解説である。図書を主題によって並べるための分類法としては、日本十進分類法 (NDC) という優れたスタンダードの存在が知られているが、意外なことに、それ以外のロジック――たとえば、本文の言語や、対象とする地域――によって図書を分類・配列するためには、スタンダードとなる分類法が存在しないのである。では、アジア研究資料を所蔵する他の代表的な図書館ではどのように書架分類を設定しているのか? その参考とするため、第I部には東京外国語大学附属図書館、国立国会図書館関西館アジア情報室、国立民族学博物館みんぱく図書室の書架分類について紹介するコラムも収録した。
 
第II部は、U-PARLスタッフ以外の識者による論考4編を収めており、それぞれ漢籍の分類、自動書庫の運用、自動分類の応用、分類法の展望について論じている。一見、図書館情報学の教科書の目次のようにも見えるが、各執筆者の専門分野は中国古典文学、図書館システム、自然言語処理/教育工学、図書館情報学/ターミノロジーと様々であり、切り口もそれぞれに異なっているため、各分野の専門家ならではの示唆に富んだ読み物としても楽しめる作りになっている。広くアジア研究や図書館に関心のある方に一読をお勧めしたい。

 

(紹介文執筆者: 附属図書館 特任助教 徳原 靖浩 / 2020)

本の目次

はじめに (蓑輪顕量・徳原靖浩)

第I部 図書館でアジア研究を考える
 
第1章 アジア研究図書館構想の誕生の経緯(古田元夫)
 
第2章 アジアと分類――共通の課題,共通の希望(冨澤かな)
 1 二つの課題――「アジア」と「分類」
 2 アジア研究者,図書分類に挑戦する
 3 「アジア研究」の過去と未来
 4 アジア研究と図書分類――新しい図書館の課題と希望を考える
 
第3章 アジア研究のための書架分類――アジア研究図書館分類表の成り立ちと思想 (東京大学附属図書館アジア研究図書館上廣倫理財団寄付研究部門: U-PARL)
 1 総説
 2 図書の地域分類
 3 図書の言語分類
 4 図書の主題分類
 5 著者記号
 6 参考文献,一枚ものの地図,漢籍,その他の請求記号
 7 おわりに
 
<コラム1> 東京外国語大学附属図書館の言語分類(足立享祐)
 1 はじめに――東京外国語大学附属図書館とは
 2 言語に基づく分類――「新分類」を例として
 3 主題を巡る問題――言語と文学について
 4 地域に基づく分類――AA研分類
 5 分類とローカルバリエーションについて
 
<コラム2> 国立国会図書館関西館アジア情報室所蔵資料の地域分類(澁谷由紀)
 1 はじめに――国立国会図書館関西館アジア情報室とは
 2 国立国会図書館分類表――国番号と地理区分
 3 関西館アジア情報室の開架資料の配架――地理区分の優先
 4 おわりに
 
<コラム3> みんぱく図書室のOWC分類について(坪井祐司)
 
第II部 分類の過去,現在,未来を考える
 
第4章 漢籍分類の変遷――近代日本における四部分類への「回帰」(永田知之)
 1 はじめに
 2 明治前期の書目における漢籍の位置
 3 民国期の書目における書籍の区分
 4 大正期における四部分類の使用
 5 昭和戦前期における四部分類の使用
 6 おわりに
 
第5章 自動書庫の運用――請求記号によらず機械が所在を管理する(黒澤公人)
 1 はじめに
 2 自動書庫に入庫される資料の書誌情報
 3 自動書庫はランダムに入庫し,ランダムに出庫できる魔法の箱である
 4 図書を書架で管理するメリットとデメリット
 5 書架から自動書庫への入庫
 6 自動書庫の日常の管理運営について
 7 OPAC機能を利用した仮想図書館の構築案について
 8 おわりに
 
第6章 自動分類の応用可能性――大学カリキュラムの可視化・比較へのNDCの活用実験(増田勝也・美馬秀樹)
 1 はじめに
 2 関連研究
 3 シラバスを用いた講義の自動分類
 4 講義の自動分類実験
 5 可視化によるカリキュラム比較
 6 おわりに
 
第7章 分類の広がり―――分類法の国際化と地域化,多階層化,多目的化の展望(山本 昭)
 1 はじめに
 2 アジアの分類
 3 分析合成型へ
 4 現代における分類の役割
 5 分類の可能な展開
 6 おわりに
 

関連情報

書評:
狩野修二 評「「図書館がつなぐアジアの知 分類法から考える」U-PARL編」 (『情報の科学と技術』2020年70巻9号, p.480. 2020年)
https://doi.org/10.18919/jkg.70.9_480

田中福太郎 評「図書館員の本棚 図書館がつなぐアジアの知:分類法から考える U-PARL編」 (『図書館雑誌』2020年114巻11号, p.634.)

講座:
令和2年度 図書館を学ぶ相互講座
第10回「図書館でつなぐアジアの知」 (山本 昭) (図書館を学ぶ相互講座実行委員会・大阪府立中之島図書館 2020年12月26日)
https://www.library.pref.osaka.jp/site/nakato/seminar-lib-2020.html

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