Land and Society in Early South Asia Eastern India 400–1250 AD
324ページ、ハードカバー
英語
2019年7月4日
9781138498433 (グローバル版・ハードバック)
9780367785925 (ペーパーバック)
9780367443542 (南アジア版)
Routledge
本書は、現在のバングラデシュとインドの西ベンガル州にほぼ相当するベンガル地域の農村社会の歴史を、土地とそれをめぐる権力関係を中心に論じたものです。主な史料は碑文、特に土地や村落 (正確には村落からの収入) を宗教的な目的で寄進する際の証書として発行された銅板文書で、私自身が校訂した、未公表のものも含む新出碑文を用いていることが、本書の特徴の一つです。
本書が扱うのは、現在の南アジア史研究で初期中世と呼ばれる時代です。南アジア各地に地域的な王権が登場し、その下で独自の言語・文化・社会構造を持つ諸地域が形成されていく時代で、王と従属支配者層により構成された政治権力、階層化された土地関係、地域ごとに特徴的なジャーティ秩序 (カースト体制) の発達により特徴づけられます。この時代の歴史変化をどのように捉えるかは、20世紀後半の南アジア史研究の主要な論点の一つでしたが、2000年以降、研究動向が文化史に傾いたこともあり、議論は停滞気味でした。それに一石を投じ、再び議論を活発化することも、本書を執筆した動機の一つです。
本書では、ベンガル農村社会の歴史変化を、ある時代状況に置かれた諸行為主体の相互作用により起こるものとして描くことを試みました。具体的には、対象時期を四つの時代に分けた上で、各時代における様々な社会集団間の権力関係と農業経営・開発の形態との連関を捉え、その中で小農層・土地保有有力者層・識字層・商人層・職人層・王権・従属支配者層・ブラーフマナ・宗教機関などの諸行為主体がどのような指向で行動し、それらの相互作用がどのように権力関係や社会構造・農業形態を次の時代へと変化させていったのかを描きました。そこで明らかとなったのは、農村内外の権力関係の変化、政治権力内の矛盾の増大と破綻を経た王権優位の支配体制の確立、農民層・土地関係の階層化と世襲職能集団のジャーティ秩序への組織化、集団として成長するブラーフマナらによる社会再組織化への介入、そしてこれらの政治的・社会的過程により構築され、またこれらを構築する農業発展および農村経済の商業化、といった複数の歴史変化の糸とそれらの複雑な絡み合いでした。
本書の序文にも述べていますが、南アジア古代・初期中世史では、一点の新碑文の発見により、それまで有力だった説が覆るということがしばしば起こります。その意味では、本書で展開された論説も将来見直されるべき仮説に過ぎず、私自身の発見が自説の再考を不可欠にする可能性も大いにあり得ますが、現在可能な限り最も妥当な説を提示できたものと自負しています。本書が、南アジア初期中世史、さらにはより広い前近代史の研究の発展に貢献することを願います。
(紹介文執筆者: 東洋文化研究所 教授 古井 龍介 / 2020)
本の目次
Preface
Acknowledgements
List of abbreviations
1 Introduction
2 Geographical delineation
3 Rural society and inner contentions: c. 400-500 AD
4 Sub-regional kingdoms and landed magnates: c. 500-800 AD
5 Growing contradictions: c. 800-1100 AD
6 Towards Brahmanical systematization: c. 1100-1250 AD
7 Conclusion
Appendix: List of inscriptions
Select bibliography
Index
関連情報
インタビュー 28 古井 龍介 (東洋文化研究所ホームページ)
https://www.ioc.u-tokyo.ac.jp/interview/28.html
書評:
Dániel Balogh, Bulletin of the School of Oriental and African Studies, Volume 83, Issue 2, 2020, pp.359-360)
https://doi.org/10.1017/S0041977X20002293